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Nov. 05, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.20

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

秋の国際短編映画祭2025、楽しんでいらっしゃいますでしょうか。オンライングランドシアターでは2週間以上に渡って世界中のイチオシショートフィルムが配信されています。今年の次期米国アカデミー賞ノミネート候補となるグランプリ=ジョージ・ルーカスアワードを受賞した『破れたパンティ・ストッキング』もラインナップされていました。ヘルシンキを拠点に活動するFabian Munsterhjelmの作品、コメディです。出掛けようとするカップルがただただ家で支度をするだけの14分なんですが、テンポがよく、ドラマもあり、二人の熱演に泣き笑いしました。

二人が住む家はとっても居心地がよさそうで、まさに「ヒュッゲ」な北欧のお家です。「ヒュッゲ」はデンマーク語で「居心地のよさ」を意味し、フィンランドでも大切にされているんだそう。単に家の間取りやデザインのことだけではなく、「心の持ち方」や「時間の過ごし方」などにも関わる哲学的な概念で、「今この瞬間を大切にする生き方」なんだそうです。あれ?映画で二人が座っていた背景の壁にも「Be Happy for this moment -今を楽しく-」と手書きで描かれた額が飾ってあったよね?お家はヒュッゲだし、どうやらSNS上でもハッピーなカップルを演じているみたいでしたが、実際はけっこう苦労していて、共感しながら大いに笑いました。

短編映画はもちろんジャンルとして確立され、長編にはない魅力が多くありますが、同時に若手監督にとっては長編に向けての力試しのような側面もあると聞きました。多くの人がショートフィルムに興味を持つことで映画業界や若手監督の応援にもつながるなんて夢が広がります。オンライングランドシアター開催は11月10日まで!まだの方はぜひのぞいてみてください。

今月のショートフィルム『The Fish with One Sleeve /片袖の魚』

ブリリア・ショートショートシアターオンラインは、11月20日の「トランスジェンダー追悼の日」にちなんで「ジェンダーレス」がテーマです。これは1998年11月にトランスジェンダーへの嫌悪を理由に自宅で惨殺されたリタ・へスターさんを追悼することがきっかけとなった記念日だそうです。ヘイトクライムや自死など、望まないかたちで亡くなったトランスジェンダーの方々を追悼し、トランスジェンダーの尊厳と権利について考える日と位置付けられています。

2024年のトランスジェンダー追悼の日に、日本の小説家や映画監督らがLGBTQ+への差別に反対する声明を発表しました。その時の発起人のひとりが、この映画の監督である東海林毅さんです。自身もLGBTQ+の当事者であると明かし、マイノリティの声を映画というかたちで届けてくれています。

主人公である新谷ひかりは熱帯魚「カクレクマノミ」を好きになったのがきっかけで、水槽のメンテナンスを行う会社で働いています。ベストな水槽環境を作るための判断も的確で上司からの信頼もあつく、日々新しいことにも挑戦する前向きな女性です。職場や友人に恵まれていながらも、社会からの心無い言葉にひそかに傷つきながら暮らしています。映画では高校時代想いを寄せていた友人に会いに行くある1日が描かれています。

率直な感想は「なぜ人は彼女を放っておいてくれないのか」。彼女が誰を好きになろうが、どんな服を着ようがいいじゃないですか。それ、いう必要ありますか?いつの間にか主人公の代わりに腹が立ってきます。でも主人公はなにも言わず、代わりに聞こえてくるのはゴボゴボゴボっていう水の音。いままでもずっと彼女の声は届かず、窒息しかけてるんですよね。

差別に関心を持って知ったのは、実は多くの人が傷つけようとして言葉を発している訳ではない、ということ。なんなら褒めているつもりの言葉でさえ、受け取る側には突き刺さっているのです。セクハラも、パワハラも、ルッキズムも、人種や性差別も、すべてはまず知ることからはじまります。ショートフィルムを通して、彼女の日常をぜひ知ってほしいと思いました。

彼女が東京で暮らすお部屋にも水槽がありました。コンクリートの壁に鉄骨が剥き出しの天井、熱帯魚の水槽って無機質な素材によくあいます。素材はガラスで直線的な形状、光もどちらかというと蛍光灯の色に近いので、スタイル的にはモダンな空間との相性がいいのです。とはいえ、生き物なのでインテリアのためだけには買えないですね。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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