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May. 06, 2024

【映画にみるインテリア】ショートフィルムにみるインテリア
〜 Interior Design In Short Film 〜 vol.2

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、私たちインテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。おしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

『私は人間/I'm Not a Robot』

今日ご紹介したいのはオランダのショートフィルム『私は人間』。スペインのシッチェス国際ファンタスティック映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した作品です。

映画はレディオヘッドの名曲”CREEP”をヘッドフォンで聞く女性にフォーカスしていく場面から始まります。”But I’m a creep, I’m a weirdo(でも俺はキモイ、頭のおかしいやつなんだ)”という歌詞が印象的な、切ないラブソングです。女性は音楽レーベルで作曲家として働くララ。せっかく気持ちよく聞いていた音楽が途切れたことで、PC画面に「更新してください」と表示されていることに気がつきます。必要事項を記入し、CAPTCHA画面で「私はロボットではありません」にチェック、画像を選択して先に進もうとしますがエラーが出てしまいます。

ショートフィルムは内容についてほとんど語れないところが歯がゆいところですが、スピード感があり脚本もよくできていて、ぜひ見ていただきたい映画です。

クリエイティブな女性スタッフが働く「オフィスのインテリア」

そして本題のインテリアですが、今回は「オフィスのインテリア」。これが素晴らしかった!ララが働く会社はスタッフが女性ばかり、さらにクリエイティブな仕事を求められる彼女たちにあわせ、自由でおしゃれ心あふれるオフィスが実現されていました。

実はこちらはブリュッセルに実在する、コワーキングスペースをセットとして活用したようです。

さらに調べてみるとこちらの建物は1970年代に建てられたビルをリノベーションしたようで、756個のプレハブコンクリートモデュールを組み合わせて作られたものだとわかりました。日本にも同時期にメタボリズムという建築ムーブメントが起こり、同じくユニット構造で中銀カプセルタワーが作られました。60年代、70年代に建てられた建物は未来的なデザインが多く、それがこの映画とうまくマッチしていました。
(”when a Seventies James Bond takes a ride back into the future and lands in Japan in 2018”ちなみにこちらのオフィスのインテリアコンセプトは「70年代のジェームズ・ボンドが未来に舞い戻り、2018年の日本に降り立ったような感じ」だそうです。)

映画は時代設定もオフィスもファッションも今っぽく作っているのに、駐車場に停まっている車がすべて古いものだったりして、なんとなく不思議な印象です。そんないろんな年代のものが同居して、うまく共存している感じがこの映画のファンタジー性を高めてくれています。そしてなんかおしゃれ。そこかしこにセンスの良さを感じさせる映画です。

前置きが長くなりましたが、ララのオフィスです。印象的なのはモデュールで作られたが故に規則的に並ぶ楕円形の大きな窓と、壁に沿って作られた長いソファベンチ。ベンチは黄色のベルベットが張られていて、カラフルなクッションがところどころ置かれているのがなんとも可愛らしい印象です。建物を形作るコンクリートが粗く、ゴツゴツとした質感で迫力があり、インテリアはそれとうまく対比するようにすべすべした木材やクロームメッキなど滑らかな質感のものを選んでいるようです。

フェミニズムだという彼女を通して、女性のあり方、人間らしさなど考えさせられるものがあり、ぜひおすすめしたい一本です。

会議室で使われていた照明と思われる、「ASTEP Model 2065 サスペンションライト」。こちらもスマートで今っぽいデザインですが、発表されたのは1950年だそうです。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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