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COLUMN
Apr. 17, 2018

【映画にみるインテリア】『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』
―インテリアを通じて映画鑑賞してみよう!!―

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。インテリアの切り口で、イタリアの高級ブランド家具の輸入販売を行う株式会社インテリアズの木村新治氏に語って頂きます。

リアルに再現されたブルックリンの住み慣れた部屋

屋上で家庭菜園を楽しむ夫アレックス(モーガン・フリーマン)

さて、今回取り上げます『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』(2014年製作)は、モーガン・フリーマンとダイアン・キートンを主役の夫婦役に、映画化もされた大ヒットドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のシンシア・ニクソンが2人の姪でやり手不動産エージェント役として共演した作品です。
昔からの映画ファンであれば、40年後の『アニー・ホール』?その後のミランダ?と、ついつい想像力を膨らませてしてしまいます。

物語の舞台は、ニューヨーク・ブルックリンのウィリアムズバーグ橋が見える、エレベーターのない古いアパートメント。
その5階に40年間住むアレックス&ルースのカーヴァー夫妻(モーガン・フリーマン&ダイアン・キートン)が、最近足腰の衰えを感じ、この眺めの良い部屋を売って、エレベーター付きの住宅に引っ越すことを計画するところから物語は始まります。

画家であるアレックスのアトリエには、使い古されたイームズのラウンジチェアが

2人が住むアパートの部屋のインテリア・スタイリングは、ペールグリーンの腰壁、薄いグレーの壁に、それぞれの時代に買い揃えたであろうと思われる家具やアクセサリー、照明スタンドが配置され、特別高級品ではないけれど、使い勝手が良さそうなアイテムや、それぞれに思い出が詰まっているであろうアイテムで構成されています。

ブランド家具といえば、画家であるアレックスのアトリエに置いてある、使い古されたハーマンミラー社製のイームズ・ラウンジチェアぐらいです。
一方、ついついネット通販で買ってしまったような、何だか似合ってない安手な感じのスツールも置いてあったりして、架空のセットをセットとは思わせない、「これはリアル?」と、思わせる上手いコーディネートがされています。

また、(今は)売れていない画家という設定ということもあり、全ての壁面に、大小様々な絵が、数えられないくらい掛けられていて、今回のインテリアの主役は、これら絵画たちであるとも言えます。

人種の違いが障壁だった時代に恋人同士だった若かりし頃のルース(左)とアレックス

そして、アレックスがリ・タッチを入れる描きかけの絵は、アメリカ先住民と思われる人の大きな肖像画です。
つい40年前までは、アメリカの30の州で白人と黒人の結婚が禁止されていたため、アレックス自身の過去の体験や、劇中でテロリストに間違えられ大騒ぎとなるイスラム系の若者への優しい目線は、時代時代のマイノリティ達に対する擁護と、リーマンショックの引き金にもなった拝金主義的な現代社会への警鐘も感じさせる、映画の隠れテーマ的な一枚と見て取れます。

間取りでわかる日米の異なる習慣

40年前にブルックリンのアパートに越してきた2人。左側にキッチンスペースが見える

ところで、部屋のレイアウト上、日本のマンションでは真似出来ないところが一つありますが、何だか分かりますか?

それは玄関を入ってすぐ、キッチン・カウンターにつながるところです。
我々の生活は、靴を脱ぐ生活習慣なので、玄関スペースがあり廊下へとつながりますが、欧米では靴を脱がない生活なので、ドアを開けたらすぐリビングやキッチンというレイアウトが可能なのです。

これは映画演出の展開上、とても大切なポイントで、多くの他者の訪問を受けるストーリーの中で、ドアから入ってきた瞬間に、説明抜きでその人たちの役割やキャラクターをダイレクトに表現することを可能にしています。
それがシンプルなストーリーに、リズムとアクセントを与えている事に成功しているといえます。

前途多難!カーヴァー夫妻のお部屋売買

オープンハウスに集まる様々な人々。中にはベッドの寝心地を楽しむ人も…。

さて、夫婦は部屋の売却を決断しますが、日本の商習慣として馴染みが薄い、売却情報と見学会(オープンハウス)の日時を新聞紙上に告知します。
これは見に来た人たちが購入金額を入札するというシステムで、実際住んでいる家に多くの人たちが見学に訪れるのですが、実は購入希望者だけでなく、お金がなくてインテリアの本を書くためだけの人、他人の生活を覗き見するのが趣味の人など、その目的は様々です。

シンシア・ニクソン(中央)は、2人の姪でやり手の不動産エージェントであるリリーを演じる

後半、カーヴァー夫婦はアッパー・イースト・サイドに引っ越し先候補の部屋を見つけます。内心、売却・移転を渋っていたアレックスも心が動かされたような様子です。

艶のある濃い色のフローリング、天井は高く、白の木製のモールディング、窓面も大きく採光良い部屋です。様式的なトラディショナルな家具でも、最新のイタリアモダンな家具でも、何を置いても似合う部屋でしょう。
ここのシーンでは、一定の成功を収めたニューヨーカーが、もっとも好む、憧れの典型的な部屋であることが読み取ることができます。

「ホントに売るの?売らないの?」2人が最後に下した決断とは!?

夫婦の時間と同じ時間を歩んできた慣れ親しんだ部屋。果たして2人は手放すのか…?

アレックス「僕らはなぜ引っ越す?いい人生だったのに?」
ルース「あなたと二人で生活出来れば、場所はどこでもいい」

結婚して42年の老夫婦が、このセリフ、この言葉を交わすために作られたような映画。
ちょっと不便でも、過去からの思い出を二人で積み上げてきた場所が大切。そして、場所ではなく、2人の絆や精神的繋がりが、もっとも大切なのだという結論が描かれます。

ペンキを塗り直すシーンでは、2人の人生の新しいスタートを表現

そして、最後のシーンは、前回のコラムで取り上げた『キャロル』同様に、リフレッシュした気持ちを表すべき、ルースが部屋の壁を白いペンキで塗り直すシーンで終わります。
シリアス系でもコメディ系でも、この表現方法を使うのは、もはやアメリカ映画のお家芸といったところですね。

あなたの「眺めのいい部屋」はどこですか?

オープンハウスではありませんが、新築マンションのモデルルームの見学会に出向いたり、40年前のカーヴァー夫妻のような終の棲家を探してみてはいかがでしょうか?
または、今、お住まいの家のリ・フォームを計画して、さらに愛着を増やしてみてはいかがですか?

いや、その前に、いい人生のためのパートナー探しからでしょうか?!(笑)
皆さんにとっての「眺めのいい部屋」、ぜひ探してみてください。

『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』

Blu-ray&DVD発売中
販売元:ポニーキャニオン
©2014 LIFE ITSELF, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

Writer:木村新治(株式会社インテリアズ)

イタリアの最高級キッチンBoffi社、ミラネーゼから支持されているDepadova社の家具などハイエンドなデザインアイテムを輸入販売をしているè interiors で、プロジェクトデザイン・ディレクターを担当している。

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