ログイン
MAGAZINE
Feb. 20, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.11

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

気がつけば2月もすでに半分以上が過ぎ、バレンタインも終わってしまいました。若いころは私もボーイフレンドにいろいろと作りました。お菓子作りの才能は皆無だったため、ある年にはセーターを編んでプレゼントしましたが、一度も着ているところをみたことがありません。私もあんなカチコチのセーター、嫌だわ。慣れないことはやめた方がいいですね。

今月のショートフィルム『ミート / MEAT』

今月はバレンタインということもあり、「LOVE」をテーマにしたかわいらしい作品が配信されます。19日に配信される『LEND A HAND FOR LOVE(愛に手を差し伸べて)』はロマンチックでファンタジックな作品。ストップモーションを使っているからか人形劇をみているような気分でほっこりしました。アメリ好きにもおすすめの映画です。そして26日に配信の『The Kiss(キスしたいだけなのに)』はそのタイトルが示す通り、「好きな人とキスしたい!」という願いを叶えるために試行錯誤するカップルのお話。アルジェリア出身の監督で、国によって公共の場所で許される愛情表現が違うことをコメディタッチに描いています。

しかし一本異色の作品がありました。第一週に配信された『ミート / MEAT』です。「バレンタイン」「愛」がテーマと聞いていた私は、あまりに不穏なその内容に驚き、思わず途中で担当さんからのメールを読みかえしました。メールには「前半は「アート作品」を、後半はバレンタインにちなんだ「ロマン作品」です」とちゃんと書いてありました。セリフがなく淡々と「なにかの音」をききながらアニメーションが流れ、「みたくないのにみちゃう(泣)」という感じで引き込まれてしました。ご飯中はおすすめしません、お気をつけください。

今月の映画 『TAR』

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

さて、今月のおすすめ映画は『TAR』です。大好きな俳優さん”ケイト・ブランシェット”が主演女優賞にノミネートされた作品ということで選んでみました。長い映画で、前半はとにかくケイト・ブランシェットの独壇場という感じです。類まれな知性とカリスマ性、おそらく運にも恵まれたマエストロにただただ魅了されます。

ぜひみていただきたいのがリディア・ター(ケイト・ブランシェット)の二つの家のインテリア。前半で彼女の凄さに圧倒されたあとに出てくる自宅に思わず唸りました。ものすごくリアルで、映画のセットが彼女の複雑な人物像をさらに強固に作り上げているように感じました。

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

最初に出てくるのは彼女が女性パートナーと娘の家族3人で暮らす家。垂直面はコンクリートとガラスで構成された、ミニマルモダンスタイル。一つ一つの空間がとてつもなく大きい大豪邸です。実はこの家はベルリンに実在する個人宅で、旧ナチスの防空壕の上に立てられているんだそう。現在はアートギャラリーとして使われているようです。壁面に対して完璧な大きさのアート、空間に適切に配置されたボリュームある照明や家具が、音楽だけではなく、建築や現代美術、多方面に造形の深い人物であることを伺わせます。

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

一方でリディアがスタジオとして使っているのはあるアパートメントの一室、壁面の白とピアノの黒に限定したモノトーンで構成されたシンプルなお部屋です。ここは彼女がキャリアの最初に一人暮らしをしていた家、という設定だそうで、ヒューマンサイズで気持ちのいい北欧の名作家具などが置かれています。壁面にはデッサンのようなシンプルな絵画と部族のお面なども飾られていて、彼女のもう少しプライベートな興味や、美意識の高さを感じます。

リディア・ターという架空の人物を監督、俳優、脚本、衣装、美術さんたちが作り上げてみせる。映画って改めてすごいなー、と思いました。ちょっと長いけどぜひ!実は1回みただけではわかりにくいけどぜひ!

リディアがパートナーと語らう場面、二人でお揃いのパパベアチェアに座っていました。この椅子実際に見るとすごく大きいのですが、あの家では小ぶりに見えました。

参考:https://www.wallpaper.com/design-interiors/tar-movie-set-design-marco-bittner-rosser

『TAR』

監督・脚本: トッド・フィールド

キャスト:
ケイト・ブランシェット
マーク・ストロング
ジュリアン・グローヴァー

原題: TÁR
製作年: 2022
製作国: アメリカ
上映時間: 158分

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ