京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。
このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。
毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。
今月16日に配信された『自慢の息子/Good Boy』は一見コメディタッチのようでありながら、とても静かに、あたたかい眼差しで悲しみをそっと見つめるような、そんな一本でした。やわらかな質感ときれいなさし色、イギリスの田園風景の中を走るボロボロのワーゲンバス、全編を通してゆったりとした時間が流れていますが、主人公Dannyの言動だけがそこに不協和音として挿入されます。彼はあきらかに異質で、まわりと馴染まない。でも映画はそんなことお構いなしに進んでいきます。銀行強盗に失敗し、「クッキーが食べたい」という母親のために買ったはずのものをわざと先に食べる…。その苛立ちの原因がなんなのかわからないまま物語は最後を迎えます。変化していくDannyの表情と母親の笑顔だけが雄弁に彼のやるせなさを語っています。見終わったあとの余韻がしずかに長く残り続ける、印象的な映画です。
(c)2015 Hartswood Films Ltd. A Hartswood Films production for BBC Wales co-produced by Masterpiece. Distributed by BBC Worldwide Ltd.
『自慢の息子/Good Boy』でひさしぶりにイギリス英語を聞いていたら見返したくなったのが今月の映画(ドラマ)「SHERLOCK」。インテリア好きには有名なドラマですが、BSSTOのインテリアコラムではまだ取り上げられてない!というわけでぜひご紹介させてください。
シャーロックをモデルにした他の映画もいくつかみましたが、やっぱりこれが一番好き。ベネディクト・カンバー
バッチ演じるシャーロックの「奇人」と「天才」の塩梅が見事だし、彼に振り回されながらもすすんで危険に飛び込
んでいくワトソンの相棒ぶりも痛快です。サブキャラクターの人物造形もそれぞれ魅力的で、シャーロックの個性に
埋もれることなく脇を固めます。
(C)PBS / BBC
そんな彼らがルームシェアをするところから物語が始まります。「221Bベーカーストリート」もう住所もかっこいい!原作通り17段の階段を上がった先にあるのが、彼らのフラット。入ってまず目につくのは大きな暖炉とクラシックな壁紙、その前に置かれたコルビジェのアームチェア。一人がけソファに必須のフロアランプは、なんとIKEAのものだそうです。いつもここに座るシャーロックの余計なもの(装飾、常識や思い込みなど)に惑わされない研ぎ澄まされた感覚と、上質な革とクロームメッキでシンプルに構成されるモダンデザインの理念が絶妙にマッチしています。
(c)2015 Hartswood Films Ltd. A Hartswood Films production for BBC Wales co-produced by Masterpiece. Distributed by BBC Worldwide Ltd.
一方でワトソンのソファはくたびれた布張りのアームチェア、どこかから拾ってきたみたいなサイドテーブル、ユニオンジャックのクッションとタータンチェックのスローと、なんというか…古くて、華やかさがなく、主導権もない。彼のこの家での立ち位置も示しているようで、とてもよいです。
(C)PBS / BBC
個人的に好きなのは窓面の壁に張られた、黄味を含んだグリーンの壁紙。全体の暗さや硬さを中和して、うまくバランスを取るための重要なカラーになっています。またこれだけものが多い中で、ただのきたない部屋になってないのは、広い面を大きな単位で見せているからだと考えています。主張の強い柄の壁紙、バランス(カーテン上部の飾り用の布)を使ってゆったりと吊るしたカーテン、暖炉を中心にしてシンメトリーに作られた本棚、柄物の赤いカーペット。とにかくお部屋の幅、高さを目一杯使って主張のあるアイテムを使うことで、大きい単位で空間を感じることができます。ものを最大限少なくして暮らす人をミニマリストと呼びますが、その対局としてのマキシマリストのインテリア!憧れのスタイルです。
(C)PBS / BBC
シャーロックの部屋は新しいものと古いもの、高いものと安いもの、硬いものと柔らかいものが混在していて、そこがドラマ全体の雰囲気と見事にマッチしています。ひとつひとつのものにストーリーがありそうで、なにかを主張していて、そういうところもインテリア好きを魅了させる理由なのかもしれません。まだ見てない方はぜひ!
参考:https://www.houseandgarden.co.uk/article/sherlock-holmes-interiors-set-design
『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』
原題:Sherlock: The Abominable Bride
1895年、冬のロンドン―
トーマス・リコレッティは、古いウエディング・ドレスをまとった妻の姿を見て驚きを隠せなかった。なぜなら彼の妻は、数時間前に自ら命を絶ったばかりだったのだ…。リコレッティ夫人の幽霊は、癒されることのない復讐への執念とともに路地を徘徊する。霧に覆われたライムハウスから荒廃した教会の跡地に至るまで、ホームズとワトソン、そして彼らの友人たちは、冥界からやってきた敵を相手に頭脳戦を繰り広げる。そしてついに明かされる“忌まわしき花嫁”の驚くべき真実とは…!
監督:ダグラス・マッキノン
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、マーティン・フリーマン、アマンダ・アビントン、ルイーズ・ブリーリー、ユナ・スタッブス、ルパート・グレイヴス
(c)2015 Hartswood Films Ltd. A Hartswood Films production for BBC Wales co-produced by Masterpiece. Distributed by BBC Worldwide Ltd.