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Apr. 09, 2024

【映画にみるインテリア】インテリア月間特集:ショートフィルムにみるインテリア
〜 Interior Design In Short Film 〜

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、私たちインテリアコーディネートが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。おしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、ぜひお楽しみください!

『イアゴとトリスタン』

あるアパートメントの一室、冬の朝のようなピリッとした空気感の中で物語が始まります。

クローゼットでパッキングをしているトリスタン、リビングへ移動した彼はいつの間にか帰ってきたらしいイアゴに気がつきます。ふたりの会話から彼らが同居しているのだとわかりますが、なにかぎこちなく、よそよそしさを感じます。忘れ物をしたというのになにも持たずに出て行こうとするイアゴには、別の目的があるのかもしれません。

2人が微妙な距離をとって家中を歩き回るおかげで、私たちは家の様子をじっくりと観察することができます。ぎくしゃくした2人とは対照的に、家はとても居心地がよさそうで、日々の暮らしを楽しんできた様子が伺えます。

部屋は白の壁と黒い床のモノトーンの空間ですが、あちこちに置かれたテーブルランプのおかげでやわらかさと立体感を感じます。大判のポスターやアート、本、棚の上にはたくさんのものがディスプレイされていますが、ごちゃごちゃには見えません。それは壁やカーテン、ラグといった広い面を青や緑をメインとして統一しているからで、キッチンのタイルと合わせて家全体のまとまりを感じます。

二人が作り上げてきたあたたかい空間と、会話のぎこちなさ、冷たさがうまく対比されていて、インテリア(映画美術)の力を改めて感じました。「居心地のいい空間づくり」のヒントもたくさんの映画です。

スペイン・バルセロナを拠点に活動するSANTA&COLE社から、スペイン語でバスケットという意味を持つランプです。劇中にも似たようなランプが出てきますが、光を持ち歩くような軽快さと木の温もりを感じられる名作です。

『ロベルタのリビングルーム』

物語の冒頭、ロベルタが口笛をふきながら壁にペンキを塗るシーンがあります。海外の作品では、こうした場面をよく見かけます。DIYで気軽に壁の色を変えて、暮らしや気分に合わせて生活を楽しんでいるのだと思います。そこにかかってくる一本の電話で、彼女の人生が一変、映画のトーンも変わります。

素敵に整えられたお家ですが、ペンキを塗っている壁はなぜかヒビだらけ。ファンタジックな空気感はそうしたインテリアの、どこかチグハグな雰囲気からも感じられます。華美な装飾が施されたネオクラシックなデザインのソファセット、下地が剥き出しになった壁やペンキの飛んだ床、クラシックとシャビーが同居していて不思議な世界観を醸し出しています。

電話で知らされた突然の夫の死、その事実を受け止められなかったロベルタですが、ある新聞記事をきっかけに驚くべき計画を思い付きます。そして彼女は夫と二人で幸せな時間を過ごしたであろうリビングに手を入れ始めるのです。

あまり話しすぎるとネタバレになってしまうので詳しくは観ていただきたいのですが、ロベルタの可愛らしさと、長年培ってきたであろうDIY技術によって驚くべきリビングに生まれ変わります。私もいつかやってみたいです。

出展:ATELIER

お庭で暮らし始めるジプシーたち。家から出ないロベルタとは対照的に、芝生にラグを敷いてクッションを並べれば、そこが彼らのリビングです。鮮やかな色使いにハッとさせられます。

『家政婦と少年』

タイの映画です。タイトルの通り、家政婦と雇い主の息子である少年のある1日を描いた映画。家は空間をゆったりとつかった豪邸で、家政婦がいないと維持できないような立派なお家です。恰幅のいい中年の父親と若く美しい妻。父親が社会的に成功した人物であることが伺えます。

少年がご飯ができるのを待つ広い廊下、そこに造り付けられた立派な棚は調度品が数点置かれている程度で、子供らしさを感じさせるようなおもちゃや絵本はありません。内装材には木がふんだんに使われ、適切な場所にコンソールテーブルやアートも配置されています。家族が普段食事をするダイニングには、オーバーサイズのペンダントライトが吊るされ、インテリアのトレンドも押さえたプロの手によるものだと想像されます。

日中少年と家政婦はそんな巨大な家でかくれんぼしたり、宿題をしたり、シャワーを浴びたりして過ごしています。家政婦には終始おどけて甘えていた彼ですが、家族と囲む夕食で少年の様子は昼間とは別人のようです。

映画美術的にはきっと、「インテリアデザイナーが作った、生活感のないお金だけかかっているような家」という設定で作られたに違いありません。でも私だってこんな家には住みたくない!インテリアのセオリー通りに作っても、そこに生活がなければいい家はつくれないんだということをひしひしと感じてしまう映画でした。

出展:Knoll Japan

20世紀の名作家具、サーリネンのラウンドテーブル(だと思うもの)が出てきました。未来的なデザインですが、きちんと使えばあたたかい雰囲気も出せる素敵なテーブルです。

『僕の恋とVHSテープ』

サウジアラビアの映画、初めてみました。割と最近にビザが解禁になったという未知の国、そこで暮らす彼ら、彼女らをグッと身近に感じる、そんな映画です。というのも、時代設定が1987年、なぜだか昭和の香りがぷんぷんする映画なんです(あ、身近に感じるのは昭和世代だけか)。

80年代、とにかくアメリカのアーティストたちがキラキラしてみえました。それは彼らも一緒だったようで、女の子たちは通学中こそヒジャブで髪も顔も隠していますが、家に帰れば世界共通のティーンエイジャー。プリンスならぬクラウンというアーティストに夢中です。

驚いたのは彼らの家がとってもカラフルなこと。「お母さんが壁を紫色に塗らせてくれない」と嘆くマシャエルのお部屋はピンク、彼女の親友で主人公イヤドの妹の部屋は黄色で塗られています。イヤド家はどの部屋にも明るい色が使われていて、そんな楽しいお部屋が80年代のふわふわした空気感にぴったりの映画でした。

携帯電話の登場で、めっきり使わなくなってしまった家の電話。でも昭和世代の長電話には、やっぱりこのスタイルがおすすめです。

いかがだったでしょうか。シリアスからファンタジーまでジャンルは様々ですが、どの映画も家が舞台となっていました。ショートフィルムという短い時間だからこそ、家を通して彼らが過ごしてきた人生を垣間見ることができます。みなさんもぜひこれから、映画のインテリアもじっくりと観察してみてくださいね。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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