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COLUMN
Mar. 01, 2019

【映画にみるインテリア】『君の名前で僕を呼んで』
―少年がひと夏の恋に落ちる切ないラブストーリー―

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回は、北イタリアのリゾート地を舞台に、17歳の少年が年上の青年とひと夏の恋に落ちる切ないラブストーリー『君の名前で僕を呼んで』を、インテリアやファッション、ライフスタイルの視点からインテリアの総合商社 株式会社 藤栄の松延友記氏に語って頂きます。

息を呑むほどに美しいヴィッラからの“窓景”

この映画の舞台は、1983年の夏の北イタリアのリゾート地。
17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)と両親が毎年一夏を過ごす貸別荘=ヴィッラが、とりわけ美しく叙情的で、この映画のもう一人の“キャスト”と言っても過言ではありません。

(C)Frenesy , La Cinefacture

「侵略者だ」とエリオが、アメリカからやって来る24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)のことを呼び、窓から彼を眺めるシーンからこの映画は始まりますが、いつも開け放たれたこのヴィッラの窓からの情景=窓景は、本当に息をのむ美しさです。窓に映る青々とした木々の梢、そしてその葉擦れがエリオとこの一家の情緒を育んだのではないでしょうか。

実はこの舞台、ルカ・グァダニーノ監督のホームタウンで、この情景を知り尽くした彼だからこそできた“キャスティング”だったのだと思います。

世代を越えて受け継がれるタイムレスなインテリア

(C)Frenesy , La Cinefacture

グァダニーノ監督は、このヴィッラを裕福なだけでなく、豊かな歴史をもつ場所にしたいと考えていたそうです。その想いを託された監督の友人でインテリア・デザイナーのヴィオランテ・ヴィスコンティ・ディ・モドローネ氏は、アンティークの家具や絵画を、自分の親の家からも厳選してこの特別なヴィッラを作りあげました。そんなインテリアは、先述した窓景以外にもたくさん羨望のものがたくさんありましたのでご紹介します。

まずはエントラスに飾られた大きな世界地図のタペストリー。西半球と東半球の地図が両壁にシンメトリーに配置され、ギリシャ=ローマ美術史専攻のエリオの父 パールマン教授(マイケル・スタールバーグ)が、日々探求している時空や世代を超えたつながりを象徴しているようです。

(C)Frenesy , La Cinefacture

そして、使い込まれた銅鍋がずらりと並んでいるキッチンの光景もとても美しいです。熱伝導率が高く、美味しい料理を作れるとして料理愛好家に好まれる銅鍋は、きちんと手入れをすると一生モノになるとも言われています。ヴィッラや家具だけではなく、この銅鍋からも豊かな歴史を感じることができるのです。

(C)Frenesy , La Cinefacture

金縁の鏡とその周囲を飾るこの地域の歴代の王を描いた小さなカメオとパールマン教授の研究のための書物に囲まれた書斎も圧巻です。こういった壁面装飾一つとっても、監督とデザイナーのこだわりが垣間見れます。

(C)Frenesy , La Cinefacture

パールマン一家とオリヴァーが集い過ごすリビングは,代々受け継がれてきたこのヴィッラの象徴的な空間です。クラシックなシャンデリアに大きな連作絵画、敷きつめられた絨毯にミラノのデダール社のテキスタイルを使用したソファーやアームチェアー、カーテンやテーブルクロス。そして1900年代初期のベーゼンドルファーピアノと、それでエリオが奏でるサティやバッハの旋律が、この空間の完成度をさらに高めていると言えます。

現代にも通じるスタンダードな80’sファッション

(C)Frenesy , La Cinefacture

80年代の時代感は、何より主役2人のファッションから感じとる事が出来ました。衣装デザインを担当したのは、監督との親交も厚く、<セリーヌ>のニットウェアデザイナーとしても知られるジュリア・ピエルサンティ。

<ポロ ラルフローレン>のオーバーサイズシャツにカーキのショーツ、<コンバース>のシェブロン&スターのハイカットというオリヴァーのスタイリングは秀逸ですが、対するエリオのスタイリングも負けず劣らずで、<レイバン>のサングラスに<ラコステ>のポロシャツ、<リーバイス>のカットオフデニムに足元はエスパドリーユと、知的なリゾートファッションは今取り入れても何ら遜色ないものです。

(C)Frenesy , La Cinefacture

パールマン教授とアネラから学ぶ“インクルージョン”

ヨーロッパで「Greek love」と言えば同性愛のこと。

古代ギリシャにおける同性愛は、成人男性と思春期の若者という特定の世代間に生ずる期間限定の愛でした。まさにこの映画のシチュエーションと同じです。とは言え、1980年代といえば、同性愛に対して今よりずっと風当たりの強い時代。しかしエリオの両親は、それを受け入れ尊重します。

エリオの母親であるアネラ(アミラ・カサール)は、エリオが着けはじめたダビデのペンダントネックレスに気づき、優しく微笑みかけました。おそらくアネラはエリオとオリヴァーの関係性を理解し、そっと受け入れて温かく見守っていたのだと思います。

(C)Frenesy , La Cinefacture

もう一つ印象的なシーンは、エリオの父がオリヴァーと別れて落ち込むエリオに語りかけるシーンです。
「お前たちの友情、いやそれ以上のものを、多くの親は『早く冷静になれ』と言うだろう。しかし私はそんな親ではない。」
「今はまだひたすら悲しく、苦しいだろう。だがその痛みを葬るな。感じた喜びも忘れずに。」
この言葉は、鑑賞後もずっと私の頭から離れませんでした。

私も2人の子を持つ親として、パールマン教授は目指したい理想の姿だと感じました。子供をひとりの人間として尊重し、人間それぞれの違いを価値あるものとして理解した上で評価し、包み込むように迎え入れ、活かしていく…。多様性の受容と活用をエリオの両親から学ぶ事が出来ました。

(C)Frenesy , La Cinefacture

北イタリアの美しい風景、ヴィラのインテリアやエリオとオリヴァーはじめ登場人物の繊細な心理描写、そしてそれを演出する音楽。どれを取っても「美しい」という言葉がしっくりとくる映画です。ぜひこの美しさを味わってみてください。

『君の名前で僕を呼んで』

DVD&ブルーレイ発売中
・税抜価格 DVD:3,900円+税 ブルーレイ:4,800円+税
・発売元 カルチュア・パブリッシャーズ
・販売元 ハピネット
(C)Frenesy , La Cinefacture

Writer:松延友記

家具・家庭用品・インテリア商社である株式会社 藤栄 フレディ レック・ウォッシュサロン プロデューサー。
目黒区にあるフレディ レック・ウォッシュサロントーキョーを拠点にし、更なる事業拡大を目指し、日々奔走している。 2015年には“洗濯ソムリエ”の、2017年にはクリーニング師の資格を取得し、アイロンがけやシミ取り、洗濯の基本などのセミナーやワークショップを行い、ランドリーシーンからライフスタイルの提案を行っている。

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