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Jun. 21, 2024

【映画にみるインテリア】ショートフィルムにみるインテリア
〜 Interior Design In Short Film 〜 vol.3

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

日本・スイス国交樹立160周年 ー 映画界に多大な恩恵をもたらしたスイス人

今月のブリリアショートシアターオンラインは日本とスイスが国交を樹立して160周年ということで、 Swiss Shorts特集です。

映画界に多大な恩恵をもたらしたスイス人といえば、H.R..ギーガーが挙げられます。エイリアンを生み出した画家、アーティストです。今回のインテリア解説では、彼の最晩年に密着したドキュメンタリー映画「H.R.ギーガーの世界」をお届けしたかったのですが…。ごめんなさい、みる勇気がありませんでした。こちらの映画ではギーガーが晩年に住んでいたチューリッヒの自宅も見られるということです。エイリアンが架空の化け物ではなく、彼の中にある深い恐怖、人間の闇の部分から生み出されたものであることが彼のパートナーやキュレーター、精神科医によって語られる…ことでしょう。私も「人の家好き」「ユング(この方もスイス人!)好き」として絶対見たいと思っていますが、衝撃を受けてから社会生活に復帰する余裕がある時に挑戦したいと思っています。勇気がある方はぜひ。
『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』予告編

スイス映画界が誇るダニエル・シュミット監督の『ヘカテ』

©1982/2004 T&C FILM AG, Zuerich © 2020 FRENETIC FILMS AG.

というわけで、今回ご紹介するのは同じくスイス映画界の至宝と言われるダニエル・シュミット監督の「ヘカテ」です。日本で公開されたのは1980年代、フランス人俳優ベルナール・ジルドーとアメリカでVOGUEの表紙を飾るなどモデルとしても活躍していたローレン・ハットンが出演しています。スイスとフランスの合作映画で、物語冒頭はスイスのベルンで開かれるあるパーティーから始まりますが、ほとんどはモロッコを舞台にしています。

ヘカテとはギリシャ神話の女神に由来し、フランス外交官としてモロッコに赴任された青年ジュリアン(ジルドー)が、ミステリアスな女性クロチルド(ハットン)に溺れていく様子が描かれています。

自分のことを語ろうとしない、相手を繋ぎ止めようともしない、ただただ今の快楽を味わい尽くそうとする彼女に、男性が翻弄され、支配されてしまう様子はまさにファム・ファタルそのものです。

と、むずかしいことを言おうとすると程度がバレるので、映画のインテリア解説です。ほとんどがモロッコで撮られていることもあって、モロッコの地形を感じる入り組んだ街並みや路地、床にも壁にも贅沢に使われたモザイクタイルや日差しを遮る雨戸、窓飾りや色ガラスなどモロッコらしいインテリアが満載です。

エキゾチックな世界

©1982/2004 T&C FILM AG, Zuerich © 2020 FRENETIC FILMS AG.

エキゾチックは日本では「異国情緒」などと訳されますが、私にとってまさに彼らの家は異国の世界でした。ジュリアンは赴任早々に彼女に溺れ、仕事にも行かなくなり、ほぼ彼女の家に入り浸ってしまうので、映画のほとんどは彼女の家が舞台です。硬質なタイルであるが故の反射音、コツコツという靴音、窓飾りの影が映り込んだ家の様子など日本の家との大きな違いを感じます。古くは畳や紙、現代でも木を多く使う日本の家では、吸音が居心地の良さに繋がっているとわたしは感じています。音が反射する場所はフォーマルな、どこかよそよそしさを感じます。そこに生活感が全く感じられない、というのがある意味新鮮でした。ジュリアンは彼女との関係に生活など求めていないし、そんな幻想的な、非現実性が設定としてよりしっくりくるのかもしれません。

©1982/2004 T&C FILM AG, Zuerich © 2020 FRENETIC FILMS AG.

とはいえ、私も最近は洗面所以外の室内でもタイルを使っています。壁一面に使ったぐらいでは反射音は気にならないし、柄や色、質感など非日常感やフォーマルな雰囲気を演出する素材としてとても魅力ある素材です。

それにしても壁も窓飾りも床も、さらに床に敷かれたカーペットも、色と柄にあふれているのに、全体としてゆったりと落ち着いたまとまりが出ているインテリア、素晴らしいと思います。空間のボリュームが大きいことや、壁でも全面同じ柄ではなく、小さなパターンと大きなパターンをミックスして作るなど、歴史の中で培われた美の法則があるのだと気付かされます。暗闇の中に煌く素材の艶感、硬質な空間の中で動く女性の曲線の美しさに見惚れてしまいました。

衣装はクリスチャン・ディオール

©1982/2004 T&C FILM AG, Zuerich © 2020 FRENETIC FILMS AG.

この映画、衣装はクリスチャン・ディオールが提供していて、2人のエレガントな装いも必見です。

名古屋モザイクの「バスケットウィーブ」という名前のタイル

名古屋モザイクの「バスケットウィーブ」という名前のタイル。劇中にも(質感は違いましたが)同じタイルが出てきました。カゴのように、タイルを縦方向と横方向に組み合わせたタイルです。

『ヘカテ』作品情報

原題:Hécate, maîtresse de la nuit
監督・脚本:ダニエル・シュミット
キャスト:ベルナール・ジロドー 、ジュリアン・ロシェル ほか
制作:フランス・スイス
制作年:1982年
尺:108分
【あらすじ】
第二次世界大戦の中立国スイスの首都ベルン。フランス大使館主催の豪華絢爛なパーティーの会場で外交官の男ジュリアンが、追憶にふけっている。約 10 年前、赴任した北アフリカの植民地で出会い、狂ったように愛した謎のアメリカ人妻クロȁルドのことを…。
https://hecate-japan2021.jp/
© 2020 FRENETIC FILMS AG.

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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