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Jan. 31, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.10

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

出会いの確立を上げていきたい今年、まず思いつくのは美術監督、種田陽平さんが関わった作品

©「私立探偵 濱マイク」プロジェクト ⒸCopyright YOMIURI TELECASTING CORPORATION. All rights reserved.

あたらしい年が始まりました。今年の(映画ライフ的)抱負はもう少し意識的に映画を見る、としました。今までは思いつきで、あるいはおすすめされるがままに映画を見てきて、その分偶然の出会いもあったのですが、一本一本の映画がぶつ切りでなにとも繋がってない。もうちょっと出会いの確率を上げていきたいのです。例えば監督だったり、俳優だったり、脚本家だったりをもうちょっと意識してみると、出会いの可能性がひろがるような…。映画好きのみなさまは当然やっていることかもしれないのですが、私も「もうちょっとちゃんとみる!」を意識してみようと思っています。

 

今月の映画 テレビドラマシリーズ『私立探偵 濱マイク』

そんな中まず思いつくのは美術監督、種田陽平さんが関わった映画。本屋さんで彼の本を見つけ、そのラインラップをみて驚きました。私が意識せず選んで、好きになった映画ばかり。『スワロウテイル』『フラガール』『キル・ビル』『有頂天ホテル』など印象的な映画にはかならず種田さんが関わっている。

私が常々感じているのは、日本映画において美術の仕事で個性を出すのって難しいだろうな、ということ。というのも、日本の家は大体どこも似ていて、Netflix『阿修羅のごとく』なんて見てたら親戚のうちかな?と思っちゃうほどうまく昭和の家を作りこんでいます。そんな既視感が美術さんの腕の見せどころだったりすると思うのです。現代のドラマを見ていても、部屋の様子から「どこにでもいる普通の家族の家」が表現されている。つまり大体どの家もおんなじ、というのがベースにあるような気がします。もちろん大金持ちの家だったり、昔の豪邸だったりも出てくるのですが、それも割と「The お金持ちの家」という感じがします。

そんな中で種田陽平さんが作る美術は既視感はありながら、「実際にはあまり見たことない」微妙にファンタジックな要素がある。その塩梅が絶妙なんです。そしてまさに部屋を通して、そこに住む人のいろいろを想像したくなっちゃう。

種田作品で一番思い入れのあるテレビドラマシリーズ『私立探偵 濱マイク』

©「私立探偵 濱マイク」プロジェクト ⒸCopyright YOMIURI TELECASTING CORPORATION. All rights reserved.

そんな種田作品で私が一番思い入れのあるのはテレビドラマシリーズの『私立探偵 濱マイク』です。というのも、街を丸ごとをセットみたいに使っちゃってる作品のまさに撮影同時期に私もその街に住んでいたから。彼が映画を作るときに架空の地図を作るのは有名な話だそうで、実際の街の断片を繋ぎ合わせて、濱マイクが住んでいる黄金町を作っているのです。映画の中に自分が知っている路地や、よく行っていた焼きそば屋さんが出てくることで、現実と虚構の間に漂っているような不思議な感覚を覚えました。

彼は美術監督としての目線で、映画や登場人物の設定にもアイディアを出すそうです。家は単体で存在しているのではなく、時代やその街の空気感が家の中に入り込んでできている、という想いが根底にあるのだと思います。濱マイクが住む映画館の屋上の小屋も、マイクのアジア系の友人(近くに中華街があります)が勝手に作った、という設定だそうで、見事に多国籍の友人たちが好き勝手に、いろんなものを持ち込んだ感じが部屋に漂っています。彼の映画を見ていると、人間も、みんな同じように見えて実はだいぶ違うんだよ、と言われているような気がして、ワクッとするような、ちょっと怖いようなそんな思いにさせられます。

今月のショートフィルム『いつまでもいつまでも』

さて1月のラインアップで好きだったのはノルウェーの映画『いつまでもいつまでも』。雪降りしきるオスロの冬、そこでひょんなことから出会った二人の男性の会話劇です。凍った湖の真ん中でテントを設営しようとする旅行者に注意したのがノルウェー人のソーリル、彼はブルース・スプリングスティーンが好きなようで、アメリカ人だという同年代のフランクに興味津々。フランクは特に何を訊ねるでもなく、ソーリルはなんとなく去り難く、といった微妙な距離感の二人の会話がとてもいいのです。

神奈川出身のしゃべり下手な私にとって、リズミカルで笑いとオチまでついてくる関西人の会話術には圧倒されるばかりですが、たとえうまくしゃべれなくても、あるいは話題が偏ってたりちょっと変だったりしても、「あなたに興味があります」ということをただただ伝える、醸し出すことで、人と人とは出会えるのよねー、と妙に元気が出ました。ちょっとずつ違う個性を、ちょっとだけ見せ合うような、そんな映画でした。

濱マイクといえばラバーソウル!

https://www.georgecoxfootwear.com/

お部屋にはジョージコックスと思われる、イギリス国旗がプリントされた靴の空き箱が積まれインテリアの一部になっていました。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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