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COLUMN
Mar. 21, 2018

【映画にみるインテリア】『キャロル』
―インテリアを通じて映画鑑賞してみよう!―

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。インテリアの切り口で、イタリアの高級ブランド家具の輸入販売を行う株式会社インテリアズの木村新治氏に語って頂きます。

映画のインテリアには、プロの技がぎっしり!

映画の何気ないシーンにも、細かいインテリア・スタイリングが込められている。

観る人に限られた時間内で、主人公の境遇や置かれた状況を瞬間で伝えることが出来るインテリアと家具のスタイリングは、映画にとって重要なファクターになっています。

TVの時代劇では、織田信長が主人公のドラマなのに、その時代には無いはずの派手な薩摩焼の壺が置いてあったり、尾形光琳が生まれる前の時代設定なのに、光琳柄のふすまが使われていたりと、時代設定に合わないシーンがあることもしばしば。
映画では、芸術性を標榜し世界中に与える影響力の高さから、そのような間違いは許されません。
観る人を無意識に画面の中に没頭できるように作りこまれる世界観は、まさに“プロフェッショナルなワザの結晶”といえるでしょう。

『キャロル』でのインテリア・スタイリングの役割

英国趣味のインテリアで統一されたキャロルの家

さて、今回取り上げる映画『キャロル』(2015年作品)は、1953年12月中旬から翌年の1月2日までの2週間と結末へ続く4月1日の物語です。
それはアイゼンハワー米大統領の就任アナウンスや、メモ帳、カレンダー、商品伝票などから読み取れますし、登場人物がありとあらゆる所で煙草を吸うシーンや、当時の自動車を使用する事でも、現代の物語ではないことを教えてくれます。

それでは「自動車」と「煙草」に時代背景を担わせた『キャロル』での、インテリア・スタイリングの役割を見ていきましょう。

本作は主人公2人の階級や違いを表現することをテーマに設定されているようで、キャロル(ケイト・ブランシェット)は、ニューヨーク郊外であるニュージャージー州のヴィクトリアンスタイルの家に、白くペインティングされたモールディグング(木製繰り型パネル)、ウイリィアム・モリスの花柄のカーテンと壁紙、家具はチッペンデールスタイルの椅子、前垂れスカートの付いたイングリッシュアームソファに、クイーンアンタイプのテーブルと、英国趣味のインテリアに囲まれたエスタブリッシュ層であることを表現しています。

インテリアに統一感がないテレーズの家。その意味するものとは?

一方、テレーズ(ルーニー・マーラ)は、地方から出てきたマンハッタンの安アパートに住み、ペンキの塗り壁、無機質の金属質のダイニングテーブルと椅子。目を引くのは家具ではなく、時代を強調する当時のGE製社の冷蔵庫の冷蔵庫という構成で、まだ自分自身のアイデンテティが何も確立されてないことを表現しています。
1点だけ、部屋に不似合な赤いベルベット張りのアームチェアがありますが、これはインテリアの構成というよりも、テレーズのテーマカラーの「赤」を象徴しているのでしょう。
映画冒頭の百貨店の売り子として被る赤いサンタ帽、ラストシーンに自分自身の方向を決意した時に持っている赤いハンドバッグというように…。

キャロルとテレーズが泊まった安モーテルの部屋

物語は2人が車でアメリカ横断の旅に出るシーンから大きく展開していきます。
安モーテルの宿泊はテレーズの世界…。一方、様式が守られているシカゴの高級ホテルは、キャロルの世界…。と、それが交互に出てくるように構成されています。
ちょっと面白いのが、モーテルでテレーズが選んだ部屋で、「プレジデント・スィート」と名前こそ立派なのですが、壁紙もセンスがなく、正式な様式でもない大袈裟なだけの木枠装飾家具が使われています。これは、テレーズがなかなかキャロルの洗練された世界には近づけないという事を意味しているのかもしれませんね。

季節感が表れるインテリアのカラーリング

クリスマスシーズンに彩られたインテリアも印象的

映画全体のインテリア・カラーリングはどうでしょうか?
本作はクリスマスシーズンという事を強調するため、全てが「赤&緑」で構成されています。
キャロルの自邸ソファの柄、テレーズの部屋のカーテン、家具、アウターの衣裳から、インナーのパジャマの柄、マフラー、スカーフの小物から、キャロルの娘リンディの靴まで、ありとあらゆるものが、その2色でコーディネートされています。つまり、インテリアとしてのカラーコーディネーションではなく、季節を強調するカラーコーディネーションがされていると言って良いでしょう。

ラストシーンのインテリアにも重要な意味が…

自分を偽る生き方を拒否したキャロル

インテリアを使って、今回もっとも重要なシーンは、後半、テレーズが自我に目覚めて、新たに生きることを決意した事を表現するために、アパートの部屋の壁のペンキを塗るシーンです。日本であれば引っ越しという感じですが、文化の違いを感じます。

一方、後半のキャロルは、重厚な木製モールディング壁に囲まれた弁護士事務所の部屋で「自分を偽る生き方では、私の存在意義がない」と宣言します。そして、キャロルの世界観の象徴であるニュージャージーの自邸を売却して、マディソン街に住むことにして、保守的な上流階級の「お飾りのワイフ」の世界と決別し、ビジネスの世界で生きていくことを表現しています。

キャロルとの出会いを通じて成長するテレーズにも注目

映画後半の、とある事件をきっかけに離れていたキャロルとテレーズが再会する、ニューヨークのリッツカールトンホテルのカフェでのシーン。
テレーズは、映画冒頭では「ランチさえ自分で決められない」と言っていたのに短い間にリッツのカフェに居ても様になる大人の女性に成長していて、その夜、テレーズは男友達の誘いで友人たちのパーティに参加しますが、もうそこには自分の居場所がないことに気が付き、キャロルの居るプラザ・ホテルのオークルームに向かいます。
そして、映画は重厚なマホガニー製のモールディングの壁面パネルの背にしたキャロルの自信に満ちた笑顔と、カメラに向けられた魅惑的な視線で、2人の世界が重なった事を示唆して映画は終わるのです。

この重要なラストシーンである、ホテルのモールディングの世界観を日本で体感するにはどこで出来るでしょうか?
東京でしたら、リーガロイヤルホテル東京でカナダ製のモールディングが、大阪でしたら、リッツカールトン大阪でアメリカ製のモールディングの世界を見る事ができますので、是非一度体感しに行ってみられてはいかがでしょうか?
きっと、より映画の世界観の理解が深まると思いますよ。

『キャロル』

■公式サイト:
http://carol-movie.com/

Writer:木村新治(株式会社インテリアズ)

イタリアの最高級キッチンBoffi社、ミラネーゼから支持されているDepadova社の家具などハイエンドなデザインアイテムを輸入販売をしているè interiors で、プロジェクトデザイン・ディレクターを担当している。

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