ログイン
MAGAZINE
Mar. 05, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.12

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

2月があっという間に終わり、いよいよ3月です。私ごとですが、3月はスペイン旅行というビッグイベントが控えており、慌ただしい日々を送っています。仕事の合間にスペイン、バルセロナでどこに行こうかと本屋さんやネットをうろうろしているのですが、それだけですでにガウディの偉大さに圧倒されています。きっと誰もがそうだと思いますが、ガウディだけでバルセロナが終わってしまいそうです。彼は78歳で市電にひかれてこの世を去りましたが、その生涯でこれだけのものを残せる、そしてその建築が今もまだ継続しているという奇跡に今さらながら感動しています。

今月のショートフィルム『E. for Eileen』

Gerard & Kelly, E for Eileen, 2024. 4K video, color, sound, 22 min. Nikki Amuka-Bird. Courtesy of the artists and Marian Goodman Gallery. © Adagp Paris, 2024 EFE_Still

そしてそんなガウディと同時代を生きた天才がフランスの建築家ル・コルビジェ。近代建築の巨匠と言われる人物です。今月のショートフィルムはそんな天才ル・コルビジェと、彼がその才能に嫉妬したといわれる女性建築家・デザイナーのアイリーン・グレイとの確執にインスパイアされてつくられた物語です。

映画はアイリーン・グレイが1929年に恋人であり建築家・評論家のジャン・バドウィッチと住むために作った別荘「E.1027」で実際に撮影されたそうです。崖の上に建つ、船をイメージして作られた家は無駄な装飾がなく、伸びやかな直線だけで構成された、近代建築の見本のような建物。コルビジェは同時期に「近代建築の5原則」というものを提唱していますが、それが見事に実現されています。

Gerard & Kelly, E for Eileen, 2024. 4K video, color, sound, 22 min. Nikki Amuka-Bird. Courtesy of the artists and Marian Goodman Gallery. © Adagp Paris, 2024 EFE_Still

映画の冒頭ではその建物の設計者といわれるEileen(アイリーン)という女性が一人で生活する様子が描かれています。有名な建物なので写真は見たことがあったのですが、実際にそこで生活する様子をはじめてみられてとても感動しました。

彼女は元々家具デザイナーとしてキャリアをスタートさせています。そんな彼女がこの住宅のためにデザインした、今では名作と言われる家具があちこちに散らばっています。造作家具というのは収納棚など建物と一体となった家具のことですが、実際に使っている様子をみるといかに彼女が細やかな気配りでデザインしていたかがよくわかりました。食器を置いた時に不快な音がしないようにコルクを天板にしたテーブル、ベッドの天蓋をそのまましまえるようにベッドサイドに作られた収納、拡大鏡と照明が仕込まれた洗面所の鏡など、彼女が彼との生活をイメージして楽しみながらデザインしたことがとてもよくわかります。

Gerard & Kelly, E for Eileen, 2024. 4K video, color, sound, 22 min. Nikki Amuka-Bird. Courtesy of the artists and Marian Goodman Gallery. © Adagp Paris, 2024 EFE_Still

色使いも素晴らしいです。全体は白と黒のモノトーンで構成されていますが、玄関を仕切るRの壁は落ち着いたグリーン、室内側は深い青で塗装されています。よくみると彼女がデザインしたラグやカーテンなど家具には色が使われていて、塗装された壁が建物と家具をゆるく繋いでくれています。

Gerard & Kelly, E for Eileen, 2024. 4K video, color, sound, 22 min. Nikki Amuka-Bird. Courtesy of the artists and Marian Goodman Gallery. © Adagp Paris, 2024 EFE_Still

映画ではアイリーンやコルビジェを巡るいろんなエピソードがミックスされているので、実際の確執などは出てきません。ただ一人の女性が自由に解き放とうとしていた才能や可能性を、周囲の無理解や嫉妬、女性に対する風当たりの強さが邪魔をする。一人の女性が残した家を通して、そんな彼女の無念さや孤独感をショートフィルムで描きだしていて、見応えのある一本でした。

Gerard & Kelly, E for Eileen, 2024. 4K video, color, sound, 22 min. Nikki Amuka-Bird. Courtesy of the artists and Marian Goodman Gallery. © Adagp Paris, 2024 EFE_Still

現在「E1027」は7年の歳月をかけて修復され、一般公開されているそうです。すぐそばにあるコルビジェの山荘「カバノン」と共に人気のエリアになっています。海もきれいで、一度は訪れてみたい場所です。

「E-1027」と名付けられた、有名すぎるサイドテーブル

https://www.cassina-ixc.jp/shop/g/ge-1027/?srsltid=AfmBOopAZ_jjQ6ThxRQLGkuEvgYVf_Bd0Tx7w04fHNuSNqy9yrZUMKvg

ガラスの天板は一本脚で支えられ、ソファに差し込むことができる優れもの。高さも調節できます。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ