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COLUMN
Oct. 05, 2018

【シネコヤが薦める映画と本】〔第5回〕女の子の憧れがつまった、かわいい北欧の物語

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。

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大好きな友だちと、子どもだけで暮らす…想像するだけでワクワクしちゃう。1960年代にフィンランドで出版され、長く愛され続ける児童文学「オンネリとアンネリ」シリーズ。『オンネリとアンネリのおうち』『オンネリとアンネリのふゆ』の2作が翻訳されて、日本にやってきた。

『オンネリとアンネリのおうち』は、なかよしの女の子オンネリとアンネリが夏休みのある日、「正直な拾い主さんにさしあげます」と書かれた封筒をひろう。中に入っていたのは、たくさんのお金。家族の誰にもかまってもらえず、いつもひとりぼっちだったふたりは、そのお金でふたりだけのおうちを買うことに。女の子の憧れがぎっしりつまった夢のようなおうちで、ふたりだけの暮らしがはじまる…。フィンランド生まれの、楽しくて幸せな夏の物語。

薔薇乃木夫人(ばらのきふじん)というおばあさんから買ったおうちに、はじめて入るときのワクワク感。子どもの頃の空想を思い出す。子どものころの想像力は、現実とはかけ離れたところまで想像できて、本当に楽しかったなと思う。無限大の想像力は子どもの特権。未知の世界にすら飛び込めたあの頃のトキメキは、大人になるとだいぶ消失してしまう。

子どもの頃に読んだ、憧れの子どもの世界

子どもの頃に夢中になって読んだ本、『長くつ下のピッピ』。おかあさん、おとうさんがいなくて、ひとりで暮らすピッピ。子どもだけの生活に憧れて、シリーズを読んだ。ピッピみたいになりたくて、知らない道を冒険したり。子どもだけの世界は楽しいものだ。おうちの中でも、学校でも、日頃うるさい大人たちに囲まれているから。ピーターパンのネバーランドみたいに、大人のいない世界は、子どもの憧れだ。「長靴下のピッピ」も、「ピーターパン」も、そんな夢のような子どもの空想を叶えてくれる、夢の世界だ。

映画『オンネリとアンネリのおうち』はその想像を更に超えるほど、色とりどりで鮮やかな世界観でわたしたちを迎えてくれる。もうトキメキが止まらない。

映画『オンネリとアンネリのおうち』で蘇る記憶

観終わったあとの、幼い頃の記憶が刺激された感覚がなんとも言えない。これは、みんな大好きだ。女の子なら、みんな憧れる。花柄のワンピース、可愛い壁紙、キラキラしたシュガーポット、小さなベッドをふわりと包む天蓋…。まるで女の子が夢見るお人形さんごっこさんの世界。
魔法が使える姉妹が育てる不思議な食べ物や、偏屈で暗い魔女みたいなお隣さんのロマンス、どろぼうを捕まえるためアイスクリーム工場への冒険も、子どもの頃の空想で体験したものばかり。ほんのちょっと毒っ気があって、いたずらな子ども心が蘇る。
そういえば、こんな空想をたくさんして、たくさんの物語を作っていたっけ。自分がオンネリとアンネリだったら…なんて、子どもの頃に戻ってしばらく空想の世界に浸った。

© Zodiak Finland Oy 2015 All rights reserved.

どこか寂しい、子どもだけの世界

素敵なおうちに、大好きな友だち、優しい隣人と、楽しい毎日を過ごすふたり。
素敵すぎて、寂しさなんて感じない。けれども、実のところ本の冒頭はこんな風にはじまる。

“あれは、入学式の日だったな…もう一年たちます。あの日、ほとんどの子が、おとうさんやおかあさんと学校へ来ていました。でも、わたしは、ひとりだったの。だって、おとうさんはおかあさんがわたしをつれていくと思いこんでいたし、おかあさんはおとうさんがわたしをつれていくと思いこんでいたんですもの”

物語はアンネリの語りで、寂しい入学式の日を思い出すところからはじまる。そんな中、同じようにひとりぼっちで過ごしていたオンネリに出会う。アンネリは両親が離婚をして、おかあさんとおとうさんの家を行き来する暮らしをしているし、オンネリはたくさんの兄弟の真ん中っ子で、兄弟にも相手にされず両親にも何をしても気づかれない。そんなひとりぼっちのふたりが出会って大の仲良しに。親友となったふたりは、いつも一緒ではじめてひとりぼっちじゃなくなる。

子どものことに目もくれない大人の身勝手さの中で、子どもなりに自分の居場所を見つける物語でもあるのかな、と思う。だから出てくる大人はどこかみんな情けなくて、ズルくって、ダサくって、まったく大人は頼りにならないわよね、と子どもだけの生活で十分に幸せを掴んでいるようにみえる。オンネリとアンネリの中に寂しいとかそんな安易な感情を描いていないのが素敵だ。

寂しさなんて1ミリもない。だって、そこは子どもだけの夢の世界なのだから。

今回読んで欲しい【本】

『オンネリとアンネリのおうち』(2015年|福音館書店|マリヤッタ・クレンニエミ(作) / マイヤ・カルマ (絵)/ 渡部 翠 (訳))

『オンネリとアンネリのふゆ』(2016年|福音館書店|マリヤッタ・クレンニエミ(作) / マイヤ・カルマ (絵)/ 渡部 翠 (訳))

『オンネリとアンネリのおうち』(2014年/フィンランド/80分/)

■監督 サーラ・カンテル
■出演 アーバ・メリカント/リリャ・レフト
■スケジュール:108日(月)〜1021日(日)まで上映

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜19:00(L.O)20:00(CLOSE)
毎週木曜日定休
【料金】
1DAY・1日出入り自由
一般:1,500円(貸本料)
小・中学生:1,000円(貸本料)
※18:00以降は1ドリンクが付きます。
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

『オンネリとアンネリのふゆ』

11 ⽉24 ⽇ YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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