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COLUMN
Nov. 06, 2018

【シネコヤが薦める映画と本】〔第6回〕誰もがみんな、輝きをもっている
『ワンダー 君は太陽』によせて

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。今回は『ワンダー 君は太陽』と原作小説についてつづります。

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原作がヒットして、話題となっていたから、気になっていた。ブルーの表紙がインパクトあって、本屋に並んでいることは認識していた。それが映画になったのだから、やっぱり気になるのである。

ジュリア・ロバーツやオーウェン・ウィルソンが出演ということだったから、アメリカ映画のいかにも泣かせてくる、さぁ、感動してください!とでも言わんばかりのエンターテイメントなやつかと思いきや、案外素朴な映画で好感が持てた。単に主人公オギーの特別な状況や起こることを描くのではなく、オギーを取り巻く子どもたちの気持ち、そして成長するオギーと共にそのまわりの子どもたちの気持ちも変化していく様を描いているのが素晴らしかった。

10歳のオギーは、普通の子ではない。遺伝子の疾患で、人とは違う顔で生まれてきたのだ。27回もの手術を受けたせいで、一度も学校へ通わずに自宅学習を続けてきたオギーだが、母親のイザベルは夫のネートの「まだ早い」という反対を押し切って、オギーを5年生の初日から学校に行かせようと決意する。

夏休みの間に、オギーはイザベルに連れられて、校長先生に会いに行く。先生の名前はトゥシュマン、「おケツ校長だ」と自己紹介されて、少し緊張がほぐれるオギー。だが、「生徒が学校を案内するよ」と言われたオギーは動揺する。紹介されたのは、ジャック・ウィル、ジュリアン、シャーロットの3人。いかにもお金持ちの子のジュリアンはオギーに、「その顔は?」と聞いてきた。オギーは毅然とした態度をとるが、帰宅してからは元気がなかった。だが、イヤならやめてもいいと言いかけるイザベルに、「大丈夫、僕は行きたい」と答えるのだった…。

宇宙飛行士のヘルメットでいつも顔を隠し、学校へ行かないでずっと自宅学習を続けてきたオギー。両親は外の世界へ送り出そうと決意し、ついにオギーが一歩踏み出す時が来た。いつでもオギーの味方となってくれる姉オリヴィア、クラスで唯一の友だちジャック…オギーとその周りをとりまく暖かな人たちの物語だ。

自分とは違うもの

作者RJパラシオがこの本を書くきっかけとなったのは、ある出来事からだった。
アイスクリーム屋さんで息子たちと過ごしていたときのこと。
そこへ頭部の骨格に障害のある女の子がやってきた。当時3歳の下の息子が、その女の子にびっくりして、大声で泣き出した。作者は女の子を傷つけてはいけないと、息子を急いでベビーカーごと遠ざけようとした。慌てて動いたため、上の子が持っていたシェイクはこぼれるし、散々な状況だった。その様子をよそに、その女の子の母親は「そろそろ行かなくちゃね」と穏やかにその場から立ち去った。
その事件をきっかけに、この本は生まれた。

© Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

作者はそこで、自分のとった行動について振り返ったと語る。自分の取るべき行動は何だったのか…。障害や病気、あるいは別の何かだとしても、自分とは違う何かをすんなりと受け入れるのはきわめて難しいと思う。自分とは違うもの、世間とは違うものを、即座に自分のスタンスを持って受け取り、行動できることは、至難の業だ。

「ワンダー」に登場するオギーを取り巻く人たちもそうだ。姉のオリヴィア、初めてできた友だちジャック・ウィル、ジャックに裏切られたと思った時に救ってくれたサマー、姉の友人ミランダ…それぞれの視点で、オギーと触れ合う中で感じていることが描かれる。自分とは違うオギーをどのように受け入れ、どう接するのか。その描かれ方は妙にリアルで心を騒がしくする。きっと、自分の前にオギーがいたら、彼らと同じように動揺し、可哀そうに思い、嫉妬し、そして憧れを感じていたのではないか…そんな風に思う。

その人にしかない、特別な輝き

けれども、オギーだけが特別なんじゃない。ひとはみんな誰かが誰かに影響を与えている。オギーも優しい姉に支えられ、はじめての友だちジャックに出会い世界が広がり、自分をしっかりと持つサマーに強さを学び、そうやって、自分とは違う何かに影響を受けて成長していくものだ。

姉オリヴィアは「世界で一番手のかからない子」と、自分を封じ込めてきた。弟のオギーは太陽、私はその周りを囲む惑星…というオリヴィアの台詞が心に残る。自分の立場や居場所に寂しさを隠し持っていたオリヴィア。弟の輝きに決して勝つことができない自分は、いつも注目の外だった。無意識のうちにそう思ってきたオリヴィアは、弟の特別な輝きに隠れた自分の輝きに気づかずに生きてきたのかもしれない。しかしオリヴィアもまた、自分だけの特別な輝きを持っている。いろいろな人たちと出会い、影響されていく中で、自分の輝きに気づいていくのだ。

みんな誰かを太陽にして、その光にパワーをもらって生きているんだなぁ、と思う。

この物語は、特別な“オギー”のお話ではない。誰もが輝く特別なものを持っていて、それによって“みんな”に起こる“ワンダー(奇跡)”を描いた物語なのだ。

今回読んで欲しい本

『ワンダー』 2015年|アルファポリス|R.J. パラシオ (), 中井 はるの (翻訳)
『もうひとつのワンダー』 2017年|アルファポリス|R.J. パラシオ (), 中井 はるの (翻訳)
『みんな、ワンダー』 2018年|アルファポリス|R.J. パラシオ (), 中井 はるの (翻訳)

『ワンダー 君は太陽』(2017年/アメリカ/113分)

■監督 スティーブン・チョボウスキー
■出演 ジュリア・ロバーツ/ジェイコブ・トレンブレイ/オーウェン・ウィルソン
■コピーライト:© Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
■スケジュール:1116日(金)〜129日(日)まで上映

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜19:00(L.O)20:00(CLOSE)
毎週木曜日定休
【料金】
1DAY・1日出入り自由
一般:1,500円(貸本料)
小・中学生:1,000円(貸本料)
※18:00以降は1ドリンクが付きます。
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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