バン型の軽自動車にスクリーンやプロジェクターを積み込んで、日本全国で上映イベントを実施するプロジェクト「Journey Screen」。運営しているのは東京都出身の26歳、足立勇馬さん。Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINEでは、野外上映を主催するフロントランナーたちをこれまでも紹介してきたが、20代という若さとフットワークの軽さで特に目を引く存在だ。
足立さんが活動を始めた背景には、学生時代に世界をヒッチハイクで回った経験があるとのこと。活動を始めた経緯や、活動を通して実現したいことを聞いた。
「移動型映画館」ということですが、まずは、いつ・どこで・どんな作品を・だれに向けて、上映されていらっしゃるのか伺えますか?
足立
私の場合は、自分で主催をするのではなく、上映の要望受けて出張するような形で動いています。場所は、ショッピングモールなどの商業施設、キャンプ場、ビーチなどです。屋内で上映するケースも結構あって、例えばGWには横浜の病院施設内の多目的ホールで、中長期の入院患者さん向けに上映会を行いました。たまに保育園とか老人ホームもありますね。私の持っているスクリーンが123インチで、屋内でも場所によっては入るようなサイズなので、場所を選ばずやっています。
足立勇馬さん
季節は選ばず?
足立
そうですね。私は選んでいないんですけれど、需要があるのは春から秋になります。
Journey Screenを始めたのは何年のことですか?
足立
2016年10月11日が開業届を出した日ですね。
延べ開催回数だと、どのくらいなんでしょうか?
足立
数えたことはないんですが、一昨年の春から月に3~4件ほどのペースで実施しています。上映イベントだけではなくて機材の貸し出しというところもあるので、どこまでが含まれるかっていうところではあるんですけれど。
全て「Journey Screen」と銘打ってやっているんですか?
足立
そうですね。
名前の由来は?
足立
開業にあたって名刺を作らなきゃねっていうことになって、たまたま居合わせた友達がつけてくれました。いろんなところにスクリーンを持って行って上映するということで、ジャーニーとスクリーンを掛け合わせて生まれた名前です。
客層としては、イベントごとに違うのでしょうか?
足立
そうですね。商業施設だとファミリー向けが多いですし、最近宮崎でやった時には、作品もサーフィンのドキュメンタリーだったこともあって、サーファーの方がすごく多かったです。神社でやった上映会では、その地域のおばあちゃんおじいちゃんがメインでしたし、病院でやったときは患者さんがメインでした。本当にイベントによってという形ですね。
運営は足立さんおひとりで?
足立
はい。個人事業でやっています。
現地の方が主催になって集客等をしてくれるということでしょうか?
足立
そうですね。機材だけお貸しする場合もありますし、映像もこちらで用意してっていう場合もありますが、主催は先方という形になっています。
作品はどのように選んでいるのでしょうか?
足立
もっと映画に詳しければいいと思うんですけれど、そこまで詳しくないもので。「ファミリー向けで」とか「こういう作品で」という要望を主催者から受けたうえで、配給会社に相談して、提案をいただいた中から予算との兼ね合いで選ぶことが多いですね。
Journey Screenを始めた経緯を伺えますか?
足立
正直言うと、映画が大好きで始めたわけではなくて、映画には人並みには観るかそれ以下くらいにしか興味がなかったんです。背景には、大学生の時にヒッチハイクでバックパッカーとして日本全国や海外を旅して感じた、「人が集まってくつろげるような空間づくりをしたい」という想いがありました。
大学卒業後は就職して宮崎県のホテルでフロントマンとして働いていたのですが、たまたま本屋で雑誌のページを開いたときに「野外映画特集」っていうのがあって、逗子海岸映画祭のページだったと思うんですけれど、ビーチに広がるスクリーンの周りに人が集まって、お酒を飲んだり子どもが走り回ったりする写真が載っていたんですね。その空間を楽しんでいる光景にビビっときて、「これを個人でやろう」と思ったんです。なので、直感で始めた感じです。
ヒッチハイクで、憧れや影響を受けた場所があったのでしょうか?
足立
具体的にどこというのはなくて、旅する中で生まれた空間から影響を受けています。台湾の原住民の村とか中東ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスみたいな辺鄙なところに行くのが好きだったんです。そういうところに行くと日本人の観光客が少ないことで、僕が一つのエンターテイメントみたいな感じになって人が集まってくるんです。
それは泊まったところで?
足立
泊まったところでもそうですし、小さな店の前とか路地裏とか、そういうところですね。たまたま降ろしてもらった町の、「この後どこに向かって行こうか」と考えて座っていた路地裏で、子どもたちが「日本人がいる」みたいな感じで集まってくることもありましたし、お店とか飲み会の席などでもありましたね。
最初は僕がきっかけで集まった人たちなんですけれど、そこで会話が生まれたりお酒を飲んだり。僕がきっかけでその人たちの出会いや再会が生まれる、その繰り返しですかね。別に意識してその空間を作ったわけではないんですけれど、結果としてそうなったっていうのが、しっくりと来ます。僕が主役ではないとは思っているんですが、一つのイベントをきっかけにいろんな人が集まったり再会したりすることを考えると、現在の活動とつながっていると感じます。
初回の上映はどんな形で実行したのでしょうか?
足立
開業して一週間後くらいだったんですけれど、宮崎から東京に帰る途中で島根の電波も通じない山奥のキャンプ場に行って、山岳信仰のドキュメンタリー、僕には全然わからない世界の作品を上映したっていうのが最初ですね。
作品は向こうが用意して、機材を持っている人として協力したという感じなんですね。
足立
主催の方はもともと知り合いで、僕がFacebookで「これからこういうことをします」って書いたところにコメントをくださったんです。日本国内をヒッチハイクで旅していた時に出会った方で、当時は栃木県の大学で職員をされていた方です。大学を退職されて島根に移住されていたのですが、ずっと覚えてくれていたという。
Facebookで書き込みしたら、そこから案件が生まれたと。
足立
Facebook、Twitter、noteで書きました。「公言しないと始めないな」と思ったので、まずは書いたんですね。雑誌を見たのが確か在職中の2016年の冬で、瞬間にこれをやると決めて、その日の夜にスクリーンを探して、その時見つけたのが今使っている空気でふくらます形のスクリーンでした。それから毎月10万円貯金しようと決めて、半年後に購入して、そこで初めてほかにどんな機材が必要なのかとか、著作権はどうすればいいのかっていうところにぶちあたったので・・・何も考えずに「スクリーン買います!」と宣言だけしちゃったっていうところがあります(笑)
ホテルを辞めるときはスパッと辞められたんですか?
足立
そうですね。ホテルの仕事は大好きで楽しかったですが、雑誌を見た瞬間にスクリーンで場所を作る事業を本業にしたいと思ったので。
夢持っている人でも、会社を辞めようかどうか迷っている人っていっぱいいると思うんですけれど、そこに躊躇はなかったんですね。
足立
躊躇はありました。ですが、これはもうヒッチハイクの時もそうでしたが、考えすぎるといいこと無いと思います。いま振り返れば、映画の手配の仕方とか機材とかも調べなくてよかったなと。調べていたらハードルを感じていたと思うので。まず「やる」って決めた一番熱量があるときにSNSで公言して、自分を追い込むと。それを毎回、意識しています。
ご出身は東京都青梅市だと伺いました。青梅は映画の看板が有名ですよね。
足立
そうですね。だから映画に馴染みがあったかっていうとそういうことはなくて。映画館も青梅にはないですし。まさか映画に携わることになるとは思っていなかったです。
就職の時にホテル業界というのはまたどうして?
足立
漠然とではあるんですけれど、これまでいろんなところに出向いてお世話になったので、今度は自分が受け入れる側になろうという気持ちがありました。それからおもてなしを専門的に学びたいなっていう思いで、一番自分にとってしっくりきたのがホテルマンでした。
お勤めになられたのは、宮崎の南国風なところ?
足立
ヒッチハイクで一番惹かれたのが九州、欲を言えば宮崎の南国の雰囲気が一番気に入っていたので、採用面接のときからそこに行きたいですってずっと言っていて(笑)。宮崎勤務の希望を出す人はほかにいなかったので、すぐにそれが通って、卒業後すぐに移住したっていう経緯ですね。
ホテルを退職された後も宮崎に拠点を置いているのは、どういう理由なのでしょうか?
足立
ホテルマンとして働いていた時も、そのあと開業して宮崎と東京を行ったり来たりしているときも、宮崎にいるときの自分が一番しっくりくるというか、自然体でいられるといいますか。人との距離感が自分にとってしっくりきていて、それも直感に近いものですかね。
全国旅したからこそわかることですね。宮崎の日南海岸ですが、どんな魅力があるのでしょうか?
足立
宮崎の魅力は開放感ですかね。さえぎる建物や大きな山脈も島もなく、180度広がる海っていうのはなかなかないと思います。僕は青梅出身で海に縁がなかったので、開放感のある海に惹かれるのかもしれないですね。
今まで上映活動をされてきて一番記憶に残っているシーンはありますか?
足立
僕が住んでいた青島という地域では、毎年GWから秋口くらいまで、ピザやハンバーガーやタイ料理などいろんなブランドがポップアップで出店する「AOSHIMA BEACH PARK」というオシャレなイベントがあるんです。
「そこでいつか上映をする」って決めて宮崎を出てきたんですけれど、そのちょうど一年後、上映が出来たんです。もともとビビッときた雑誌のページが「ビーチにスクリーンを」っていうものだったというお話を先ほどしましたが、まさにその光景が作れた日でもあって。
いつか上映がしたいと思っていたビーチにスクリーンを広げて、お客さんがBEACH PARKで買ったごはんや飲み物を片手にいろんな形でくつろいでいるっていう光景を後ろから見た、あの瞬間は忘れられないですね。
夢が実現したんですね。
足立
死んでもいいみたいなことを言っていたみたいなんですけれど、もうちょっと頑張ろうと思います(笑)
今後Journey Screenを展開していく中でこういう企画をやったら面白そうだなとか、こういうものがあったらもっと面白くなるだろうなということってありますか?
足立
映画にちなんだロケーションですね。地域で作られた映画の監督さんは、撮影した地域で映画を上映したいという方が多いので、そういう方とロケ地に行ってその映画を上映するのは自分にできることなんじゃないかと思います。
あとは、映画だけじゃないと思っていて、スクリーンや機材を使ってプロポーズのビデオレターをするとか、野外でトークイベントとかディスカッションをするとか。映画だけではない体験を発信していければと思います。
Journey Screenで観る映画体験と、映画館で観る映画体験の違いってどういうところだとお考えですか?
足立
映画だけじゃないところが一番です。映画にそこまで詳しくないからこそ作ることができる空間だと思っていて、賛否両論あるのはわかるんですけれど、写真を撮って「インスタ映えさせたい」みたいな人がいてもいいと思っています。
あとは季節の話でいうと、私がやるイベントは夏よりも肌寒い季節の方が満足度が高いように感じています。
それはなぜでしょうか?
足立
寒い中で観るっていうのが特別感になっていますね。キャンプファイヤーを焚いてあったかい火やストーブの周りに集まって観たり、カップルだと寄り添って観たり、それぞれで暖を取りながら観る魅力が一つ。それからあったかいフードが身に染みるらしくて、暑い中で提供するフードよりも肌寒い時の方がおいしく食べられるみたいですね。
なるほど。それは新しい視点ですね。
足立
やっていく中で最近感じましたね。
足立さんとして将来の目標はありますか?
足立
自分のイベントでなくても、全国で野外上映が当たり前になったら面白いと思っています。こういうイベントって人生に必須なものではなくて+αなものだと思うんです。ですが、人生を豊かにするコンテンツなんじゃないかなって思っています。映画が好きで始めたわけではないのですが、活動をすることで僕も映画の素晴らしさに触れた面があります。
自分の今後で言うと、今はまだ具体的ではないですが、例えば宿泊業とか人が集まってくつろげるような場所をつくっていきたいです。
映画の素晴らしさに触れたとおっしゃいましたが、それは?
足立
実体験が大事といわれる世の中ではあれ、実際に足を運んで体験するっていうのは難しいものです。それでも、他人の人生とか、ほかの国の文化とか景色とかを含め、なかなか触れることのできないものを一番身近に感じられるのが、映画なんじゃないかなと思います。
足立さんの好きな映画は?
足立
一番響いた映画は『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』。フードトラック一台でいろんなところに行って、SNSを使っていろんな人が集まる姿が描かれた映画です。
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足立さんの活動は、映画版の『シェフ』をやっている感じなんですね。
足立
そう言えれば一番いいですね。僕と同世代の友達は、SNSを使っている世代っていうこともあるとは思うんですが、フットワーク軽くイベントに来てくれます。
Facebookなどにコメントがワーッと入ってくる感じなんですか?
足立
そうですね。全然知らない人でもコメントくれますし、お客さんだけじゃなくて映画イベントをやりたいっていう方からも連絡をもらいます。やりたいっていう人たちも地方にはいっぱいいるんだなっていうのを感じます。
僕の事業がもっと発展すればいいってもちろん思う反面、僕がいなくてもいろんなところで毎週イベントがあれば、もっと日本中が面白くなるんじゃないかなって感じています。
取材:大竹 悠介
撮影:吉田 耕一郎
足立 勇馬(あだち・ゆうま)
「Journey Screen」代表。1992年生まれ。東京都青梅市出身。ホテルマン勤務を経て、2016年10月より出張上映サービス、移動シアターを開業。上映機材一式を車に積み、屋外での映画上映をはじめ、PV上映や写真展など、新しい映像体験を全国に提供。
Writer:大竹 悠介(おおたけ・ゆうすけ)
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長。大学院でジャーナリズムを専攻した後、広告代理店勤務を経て現職。「映画体験の現代的な価値」をテーマに全国の取り組みを継続取材中。ショートショートではWEBマネージャーやクリエイターコミュニティの運営を兼務。
Twitter:@otake_works