2019年7月31日から、横浜を舞台にしたショートフィルム『乗り遅れた旅人』のWEB配信が開始された。本作はアジア最大級の国際短編映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(略称:SSFF & ASIA)を運営するショートショート実行委員会とSDGs未来都市・横浜が製作。
ショートフィルムの制作経験の豊富な古波津陽監督がメガホンを取り、注目の若手とベテラン俳優が共演した。
作品の公開に合わせて古波津陽監督と、出演の坂井悠莉さん(子役)、シブリさん、根岸季衣さん、板野友美さんにお集まりいただき、作品の魅力についてたっぷりと語っていただいた。
【記事末尾に本編映像がありますので是非ご覧ください】
はじめに、映画をご覧になっての感想をお一人ずついただけますか?
古波津:
登場人物がみんなチャーミングでしたね。キャラクターが温かくてかわいいと思いました。
板野:
ほっこりしました。撮影している時の空気感も柔らかくて温かかったんですけれど、最後のほうは泣きそうになるくらい感動する作品です。
坂井:
「ザ・横浜」という感じが好きです。人助けって、改めて素敵だなと思いました。
シブリ:
家族で観てほしい映画だなと思います。家族の絆の大切さを気付かせてくれる映画です。私はパキスタン出身ですが、パキスタンと日本の家族を比べると、日本の家族は本当はお互いのことを想っているんだけれど、口に出さず陰で心配しているというところがあります。もうちょっとそれを相手に伝えて欲しいなと思いますね。
根岸:
実現可能なメルヘンというか、監督がその世界を信じていて、これは思いようによっては実現できることなんだよっていう提案の仕方がとっても素敵だなと思いました。
左から古波津監督、板野さん、坂井さん、シブリさん、根岸さん
ありがとうございます。今回は横浜市が掲げるSDGs(国連の持続可能な開発目標)がテーマでした。最近よく耳にするSDGsですが、監督はSDGsのどんな側面に着目して作品を制作されたのでしょうか。
古波津:
SDGsってすごく幅が広いんですけれど、一番大事にしているのって「誰一人取り残さない世界を実現しよう」ことなんですよね。それを映画の中で端的に表そうと試行錯誤しました。
港でクルーズ船に乗り遅れて困っている旅人に、ひなちゃん(坂井さんの役名)が「大丈夫?」という声をかけて映画が始まるんですけれど、困った旅人のアミール(シブリさんの役名)に「手を差し伸べる感」をすごく自然に表現できたと思います。
古波津:
その「大丈夫?」って自然に言葉をかける雰囲気は、この映画の中で何回も繰り返されていて、玉置玲央さん演じる池谷が、「これどうぞ」ってアミールに充電器を差し出すところだったり、皆でカレーを作る段で板野さん演じる平子さんが「私の野菜使う?」みたいな感じだったり。
パッと手を差し伸べるのがこの映画の中では自然に描かれる。それが当たり前の世界を描くことで「手を差し伸べることって当たり前なんですよ」っていう前提をこの映画の中で作ってしまおうと。お客さんもそれを受け入れられるような世界観を作ろうと思って工夫しました。
横浜といえば、板野さんは横浜のご出身とのことですが、横浜の魅力ってどういうところだと思いますか?
板野:
横浜の魅力はたくさんありますね。最初のシーンで登場する港の近辺って、なんでもあるじゃないですか。そこが一番の魅力だと思います。私は中学生のころ友達とみなとみらいに遊びに行くことが多くて、映画館もあるし、遊園地もあるし、レストランもありますし。だからデートスポットにもいいですよね。ませた中高生が楽しめる街でした(笑)夜景もすごくきれいで、本当に何でもある街です。
私が住んでいた地区はそんなに華やかではない普通の住宅街なんですけれど、そこから電車で15分したら行けちゃうので昔から自慢でした。
板野さんは野菜を育てている女性として出てきますが、自然豊かなところも横浜の魅力かと思うのですがいかがですか?
板野:
そうですね。港や都会もあるけれど、一歩離れたら農家や自然もあるし、どちらかに偏っていないところに素晴らしさがあると思いますね。
古波津:
悠莉ちゃんはどこ住んでるの?
坂井:
横浜の鶴見です。
古波津:
横浜の良いところおすすめして。
坂井:
おすすめポイントは、公園で虫を捕まえることができるところ。
一同:
ああ~。いいね~。
古波津:
虫と遊ぶってすごいよね。何の虫?
坂井:
クワガタとかクモとかアリ。
板野:
クモ?!
古波津:
変な子って言われるでしょ。
坂井:
変な子って言われない!みんなやってるもん。学校にも小っちゃい池があって、木もいっぱい生えててそこにもいっぱい虫がいるから平気。
古波津:
今度は虫捕まえる役で出て、虫食べちゃう?
坂井:
持つは良いけど、食べるはNG!
次の質問ですが、この作品ではシブリさんが船に乗り遅れて困った旅人を演じています。皆さんは旅行に出かけて困った体験お持ちでしょうか?
根岸:
ついこの間も、メンフィスに行くのに直行便がないのでダラスで乗り換えだったんですけれど、飛行機が1時間遅れたんですよ。空港での乗り換え時間がギリギリで、着くまではドキドキドキドキしました。だからよく分かる、あの気持ち(笑)。人ごとに思えなかったです。
シブリ:
僕もいろいろあるんですけれど、その中で一つ、困ったことから出会いに結び付いた経験があります。以前マレーシアへ一人で留学に行ったんですよ。現地に誰も知り合いがいない中で、ホテルを2日間だけおさえて、家も何も決めないで行ったんですね。
ホテルにずっと暮らすお金もないので、学校行って何か情報がないか、いろんな人に話しかけたんですよね。どこに住んでいるのか、長期滞在するのにいい場所はないか。教えてはくれるんですけれど、その日から泊まれるところはないんですよね。
その中で一人の男性が言いました。「僕のところ泊まりなよ」と。マジですか!となるわけですよね。それから気付けば3か月彼の部屋に。
古波津:
それは甘えすぎ(笑)
シブリ:
本当に良い人で。彼の良かったところはお金も一切とらなかったんですよ。いやそうじゃなくて、僕もせめて食費とか出さないと住めないから「払う」ってずっと言ってたんですけど、でも彼は「ダメ、僕のお客さんだから」と。
根岸:
へー、すごい。でもそれはすごい運が良かっただけじゃないの!?
シブリ:
本当に僕、恵まれているんですよ。僕も日本に彼を呼びましたし、今でも大親友です。誰か困っているときこそ人に話しかける!映画にもつながりますけれど、トラブルからいろんな人につながっていくみたいな人生です。
なぜ計画を立てずに行ったんですか?
シブリ:
やっぱり冒険がしたい。決めすぎて生きるのがあんまり好きじゃないっていうか、行けばどうにかなるだろう、人生経験にもなるし…と。そういう気持ちでいきましたよね。ちょっと半泣きくらいになりましたけどね(笑)
板野さんはいかがですか?
板野:
私は困ったことではないんですけれど、半年前くらいに初めてロケでブラジルに行ったんですよ。やっぱり治安が悪い地域があるんですよね。ここまではいいのに一本裏に入ったら危険な地区みたいなのがたくさんあるから、絶対に現地を知っている人と一緒じゃないと歩いちゃだめだと注意されました。都会の真ん中にそういう場所があるってことが、同じ世界でもこんなに違うんだなって思いましたね。
シブリ:
でも生きている心地しません?そういうところに行くと。
古波津:
さすが、冒険者。
古波津監督は実際に乗り遅れそうになった経験があるとか。
古波津:
クルーズで乗り遅れそうになったことがありました。観光しすぎて「やばいこれ戻れるか?」みたいなことになって(笑)。走りに走ってやっと船たどり着いたら、まさに船にかかっている橋をたたんでいる最中でした。「すいませーん」て言いながら、それを渡るみたいなことがあったんです。それがこの物語の原点なんですよ。
それで、もし乗り遅れていたらどうなってたか聞いたら、次の寄港地まで自力で行ってくださいと。国をまたいじゃってもそこで追いついてくださいって言われたんですよ。でも、パスポートも荷物も全部船の中にありますから、一歩遅れただけで地獄みたいな展開になりますよね。「これは怖いなあ」と思いました。
待ってくれないものなんですね。
古波津:
待ってくれないって言ってましたね。本当に待つ気配無かったもん(笑)
短編ということで撮影期間はどれくらいだったんですか?
古波津:
2日間です。
現場の雰囲気や、撮影中のエピソードとして思い出に残っていることはありますか?
根岸:
一番大事なシーンでヘリコプターが来てね。それでそのヘリがずっと動かなくて。たくさんしゃべらなきゃいけないシーンだったからどうなるんだろうと。
古波津:
根岸さんのセリフの後からヘリコプターが旋回し始めて。
根岸:
ほかのキャストの皆さんは後日アフレコだったんですよね。ですが、本編を観たらアフレコだって思えないくらい自然でした!
古波津:
裏庭のシーン。みんなでカレー作ろうっていうところですね。
坂井:
ヘリコプターのことなんですけれど、それには続きがあって。私がノリで「あのヘリコプター、シブリさんが連れてきたんでしょ」って言ったら本当に「そうだよ、俺のこと見てるんだよ」って話し始めて、それでみんな盛り上がりました。
シブリ:
それ、僕は何気なく言ったんですが、そのあとみんなに「ヘリコプター」って呼ばれて最後には「ヘリコプター」が僕のあだ名になっちゃいました。
板野:
私の面白かったシーンは、アミールがダンスしてるシーン。監督にすごいプレッシャーかけられてて(笑)
シブリ:
意地悪だったよね(笑)
根岸:
踊るマハラジャ、「インド映画みたいに」って(笑)
坂井:
あと台本!
古波津:
そっか、悠莉は台本なしでやったね。そんなにセリフないし大丈夫だろって思ってたら、結構セリフあったんだよね(笑)
坂井:
一番あったよ!
古波津:
覚えた台詞じゃなく感情で返すほうが素敵だったから。彼女はオーディションの時からそうだったんですよ。感情で跳ね返してくる感じが面白かったからこのまま撮影まで持っていきたいなあと思って。それでシナリオ無し作戦にしました。
今回は横浜の市民の助け合いの力や、心の大切さを描いている作品です。先ほど監督からも「大丈夫?」と声をかけるというお話がありましたが、演技をするうえで「市民力」を表現する工夫はされましたか?
根岸:
監督がそれを信じて無理のない台本を作られているので、あまり構えずに自然と優しい人になれるという感じでした。監督がもし「絵空事だよなぁ」と思いながらやっていたら、そういうのがどこかに出てきて私たちも嘘っぽくなるかもしれないですが、信じられる自然な作品でした。
シブリ:
根岸さんがおっしゃるとおりですね。役柄的にもストーリー的にもみんなそれぞれの人生で体験していることじゃないでしょうか。アミールとシブリも重なります。僕がずっと思っているのが、愛情を持って人と接したい、愛情を持って接して笑いを作りたいと。だから恥ずかしかったですけど踊りも頑張りました(笑)
古波津:
なんでそんなにダンスを恥じるの?あそこすごい名場面だよ。
シブリ:
上映しているときは本当に見てられなくて(笑)。でも、人を笑わせるために、自分を捨てられた自分もいたんですけれどね。
坂井さんは演技の工夫っていうところではどうですか?
坂井:
どんな人も笑顔にするやさしい女の子っていうところを意識しました。演じるときに「特に気を付けるのは、悲しい顔を見せないようにすることだ」って監督が言っていて、笑顔は欠かさないようにしていました。
たしかに笑顔がチャーミングで素敵でした。板野さんはいかがでしたか?
板野:
血が繋がってなくても家族と同じように愛情を持って人と接する平子は、自分にも共通するところがあるので演じやすかったです。おばちゃんへの愛や、ひなちゃんへの愛が大きいからこそ、アミールを叱るようなシーンもありましたね。
ファッションからしても開放的なキャラクターなのかなと思ったんですが、平子はどんな性格だと思いますか?
板野:
アーティスティックなところはありますかね。モノづくりが好きなところとか、野菜作りもそうですし。最終的には教室みたいにビーズを作っていたんですけれど、個性的な性格だと思って演じました。
根岸さんは女優として数多くの作品にご出演されていますが、長編映画と比べてショートフィルムにはどんな魅力があるとお考えですか?
根岸:
小説と同じなんですよね。「短編ならでは」っていうのは。一つの印象に焦点を迷いなく当てられるというか、心に迷いなく入っていくというか。これを長編でやったら、もっと細かなディテールを作る必要があって無理をしたり、役者もボロが出るかもしれない(笑)。私たちを一つの夢の中にポンと預けられるのが短編の魅力だと思います。
監督はそのあたりいかがですか?
古波津:
本当におっしゃる通りだと思います。言いたいことにピンポイントに絞るのがショートフィルムです。とは言っても、一つの物語を作るためのリサーチやキャラクターを考える時間など、準備にかける時間はかかるので、作りこむ過程は長編とあまり変わらないですね。
ただし、お客さんにここで驚いてここで不安になってここで感動してもらうみたいな、狙っている構成がみえるフォーマットなので、テクニックではなく最初のプランが一番大事です。それを優れた役者さんたちが信じて、キャラクターとして息をしてくれることではじめて完成します。
今回のショートフィルムはWEB上で全世界に向けて公開をされる予定です。みなさんは普段WEBで映画を観ることはありますか?観るシチュエーションやこだわりがあったら教えてください。
シブリ:
自分のタイミングで観れるのがいいですよね。携帯だったりタブレットで観ています。
根岸:
あたしが利用するのは見逃してしまった映画や、今観たい映画。そういうのを検索してその時に観ますね。
坂井さんは家で映画を観ますか?
坂井:
ゲームやるための自分専用タブレットがあって、それに動画サイトが入ってるのでそれで観ます。でも100%くらいアニメを観てます。
板野:
私はどっちもありますね。タブレットで観ることもあるし、家のテレビで観ることもあります。もちろん映画館に行ったりもしますし。でも今回の作品くらい短かったらタブレットで移動中に観たいですね。
古波津:
長尺のものはスマホでは観れない、集中できないので。モバイルで観るとしたら、短編のドキュメンタリーなど内容と会話で楽しめるものがいいと思います。
今回は最初からWEBで観られることを想定して作られたのでしょうか?
古波津:
結構ジレンマですよね。見えないのはわかってはいるのですが、大きく観られることもあるに違いないと思って、隅々までちゃんと作りこみました。
Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINEは、前身となる映画館がみなとみらいにあった経緯もありまして、横浜の方々にもたくさん読んでいただいています。最後に、これからこの映画を観る方に向けて、メッセージをお一人ずついただけますか?
根岸:
横浜の人がこの映画を観たら「だろっ?」って言いますよね(笑)。横浜愛が強い方たちの期待に沿う映画になっていると思います。
シブリ:
画もすごくきれいですし、海外の人から見てもこの場所に行ってみたいって思う映画です。
映画の中では「キッチンには店主のおばちゃん以外は入っちゃいけない」というルールがあるんですが、それを破ることによって、また新しい展開つながっていくというところが、自分の中で好きなポイントです。
坂井:
全部大好きなんですけれど、私とシブリさんの身長差と私の元気さを見てほしいです!
板野:
港町ももちろんきれいなんですけれど、そこからひなちゃんがアミールを連れてお店まで来るじゃないですか。そのお店の洋館の感じが横浜らしいなと思いました。横浜らしい洋館は私も好きなところです。もし第二弾があるならみなとみらいの夜景も入れて欲しいと思います(笑)
古波津:
シナリオを書くためのリサーチとして横浜に行ったときに、洋館に吸い込まれてたくさん見て歩きました。洋館がこんなに街の中に自然にある佇まいが素敵だなあと思って、何とかして洋館を登場させられるようにだんだん物語を寄せていったんです。
僕が考える見どころとしては、感情のアップダウンがおこなわれる映画なので、お客さんも観て一緒に感情の上がり下がりを楽しんでもらえるといいなあと思ってます。
あの洋館は一般の人も入れる場所なんですか?
古波津:
もちろんです。十番館という一階がカフェで二階がレストランになっている建物です。
根岸:
でも映画に出てくる畑は、実は裏にはありません(笑)
古波津:
あの畑は畑でちょっと遠い所ではあるんですけれど、横浜の方たちが本当に野菜育てててらっしゃるんです。そこから着想を得て物語の中に取り込んでいった経緯があるので、そういう意識の高い畑があるっていうところも魅力です。
編集でそこの距離感だけ合体してますけど、横浜の魅力を凝縮した作品です。
取材:大竹 悠介
撮影:吉田 耕一郎
『乗り遅れた旅人』本編映像
ショートフィルム『乗り遅れた旅人』
監督: 古波津 陽
出演: 坂井悠莉 / シブリ / 板野友美 / 玉置玲央 / 根岸季衣
作品時間:約20分
あらすじ:
浜っ子のひなは客船に乗り遅れた旅行客アミールを助けようと奮闘するが、文化の違いにより仲違いをしてしまう。しかし、二人を助けようと様々な人の力が結集していき、事態は思わぬ展開に…。
配信サイト:https://youtu.be/1cgAamsJs04
ShortShorts ×横浜音祭り2019「板野友美 TalkEvent ~音と旅する映画デート~」
3年に一度、横浜で開催される日本最大級の音楽フェスティバル「横浜音祭り2019」(会期:9月15日(日)~11月15日(金))内で、板野友美さんをお招きしイベントを開催します。
日時:9月16日(月・祝)14:00~15:30
場所:イオンシネマ みなとみらい
ゲスト:板野友美 ほか
内容:『乗り遅れた旅人』と『音楽』をテーマにセレクトしたショートフィルムの上映と、ショートフィルムと音楽の魅力について語るトークイベント。
チケット:8/16よりPeatixにて販売予定。詳細は後日shortshortsのオフィシャルサイトにて掲出します。
Writer:BSSTO編集室
「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週金曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
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