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REPORT
Aug. 25, 2020

【イベントレポート】「映画祭のニューノーマルとは?」
行定勲監督ほか映画人が語る
(イベント全文書き起こし/前編)

2020年6月4日(木)、オンライントークイベント「映画祭のニューノーマルとは?クリエイター目線での価値を考える」が開催されました。

米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭 ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(略称:SSFF & ASIA)が国内外の若手クリエイターや映像制作に関わる方を対象に主催するオンラインイベントシリーズの第1回目。
今回は、SSFF & ASIA代表の別所哲也が、ゲストに行定勲監督、平林勇監督、札幌国際短編映画祭の久保俊哉プロデューサーを迎え、映画監督の視点、映画祭主催者としての視点で、これからの映画業界と映画祭について熱く語り合いました。
BSSTOではこの模様を書き起こしレポートとして掲載します。

トークゲスト
行定勲(映画監督・くまもと復興映画祭ディレクター)
久保俊哉(札幌国際短編映画祭プロデューサー)
平林勇(映画監督・映像ディレクター)
別所哲也(SSFF & ASIA代表)※モデレーター

新型コロナウィルス流行下、
映画祭と映画業界の現状

別所:早速ですが、まずこのコロナ禍での近況を教えてください。まずは行定監督からどうぞ。

行定:僕は『劇場』と『窮鼠はチーズの夢を見る』と、4月と6月に公開の予定の2作品が公開延期になってしまいました。初めての経験なのでやはり結構落ち込みました。観客のみなさんに披露して舞台挨拶をして作品を観ていただくことが、いかに贅沢で特別なことだったのか実感しました。毎年4月にやっていた「くまもと復興映画祭」も延期になって、その中で自分たちにできることは、映画作ることしかないと思い、『今日の出来事:a Day in the home』と『今だったら言える気がする』という2作品をこの自粛期間にリモート製作して配信しました。

久保:1999年に原宿で別所さんが映画祭をはじめられたのを見て、2000年にShortShorts Film Festival in Hokkaidoとしてスタートしたのが札幌国際短編映画祭の始まりです。2006年に札幌市が入って札幌国際短編映画祭になり、いまでは5日間でだいたい1万人弱来ていただける規模の映画祭になりました。今年も100以上の国と地域から、3800を超える過去最大の応募数になっています。でもこのコロナ禍で、東京の映画祭もそうですが、実際にこのあとどう運営していくかというのはやはり悩ましいところがあります。オンラインを中心としながらリアルを作っていくのか、もしくはオンラインだけになってしまうのか、そのあたりは別所さんの動きも参考にさせていただきながら、札幌の方も進めたいなと思っています。

平林:僕は20年ぐらいかけて20本の短編映画を作ってきて、大きな映画祭にもいろいろ選んでいただいて、実際にその映画祭に行っています。そして去年はじめて長編映画をつくることができて、やっと劇場公開できることになって、3月27日が初日でした。しかし小池都知事が3月25日に会見して、そこから一気にイベントを全部やめるように劇場からも言われて、広報活動がなにもできなくなってしまいました。結局1週間で上映は打ち切りになってしまいましたが、上映中も、やっているのに「観に来てください」と言えないのが一番辛いところでした。出演者の方々も「来てください!」って言えない、そこがとてももやもやして、一番悲しかったです。

別所:世界の映画祭のムーブメントも含めてこの後お話したいと思います。

イベントアーカイブ映像

くまもと復興映画祭と札幌国際短編映画祭、
これからの開催は?

行定:くまもと復興映画祭は、元々は菊池映画祭という小さな映画祭でした。私が参加した世界の映画祭でも、ちょっと鄙びたところにある「ここどこ?」みたいなところの映画祭がとても印象深かった。そういうものを目指して、温泉街で、街が美しくて、でもちょっと寂れている街だから映画的でもある。そういうところにすごいゲストを呼べたらいいなということで菊池映画祭を始めました。
でも2016年に地震が起きて、やはり熊本県全体がひとつにならなければということで、「くまもと復興映画祭powerd by 菊池映画祭」になりました。熊本城の前に野外スクリーンを設置して、そこに1回で1万5000人集まった風景を釜山(国際映画祭)のスタッフに写真で見せると、「すごいことやってるね、手作りなのに」と。僕が釜山の映画祭に何度も行かせてもらって、「ああいう映画祭っていいよな」って思っていたので、地震があった中でも、ひとつになる力を映画祭が持てたことは、映画祭の成長としても非常によかったです。
県民にとっても良かったし、ここに全国から人が集まってきてくれるようになったことが、熊本が映画でひとつになれることを立証できた瞬間だったかなと思います。

別所:まさに監督のふるさとに対する想いや熊本の特色を生かしながら、熊本を愛する方々が集まることで見えてくるものがたくさんあると思います。久保さんは北海道で短編映画祭やり続けていて、改めて映画祭の魅力はなんでしょう。

久保:我々の映画祭は短編ばかりなので、僕らのなかではすでに平林さんはヒーローですが、上田慎一郎監督(『カメラを止めるな!』)や、若いこれから伸びそうな監督が中心です。僕らがやっていてすごく手応えがあるのは、ある意味無名の作品・無名の監督を観に、約1万人の人たちが来てくれているということ。別所さんから受け継いだスピリットを、札幌がちゃんと定着させられているのは、札幌に若い人を育てようという観客が多いからだと感じています。

別所:くまもと復興映画祭のダイジェスト映像を観ても、僕らの映画祭も、もう今年からの映画祭はああいうふうに密で集まれない。今年はどうやりますか?

久保:先ほど平林さんもおっしゃったジレンマですね、来てくださいと言えない。実行委員会の中で話し合って早い段階でオンラインという案は出ました。私たちは東京から離れていることがある意味ハンデではありますが、逆にオンラインなら日本も海外も繋がれるので、いい面もあるかもしれないと考えています。

別所:僕らもいま一生懸命ガイドラインを探していますが、映画館でも1人分、2人分座席間隔を開けたり、後ろの列を開けたり。演劇もそうですが、1000人入る場所でも入れられるのは半分以下だったりしますよね。

久保:現実的に考えて、オンラインとリアル両方やろうとすると、予算もリソースもどうしても食ってしまいます。だからリアルがあるとしても費用対効果をちゃんと見極めながらやらないと、会場を押さえても採算取れないことになりかねないので。

別所:会場もですが、ボランティアや映画祭を支えるスタッフもマスクやフェイスガードをしたり、検温が必要になったりするかもしれませんね。今デパートなどがやっていることを、試行錯誤しながら映画祭もやっていく。そうこうしているうちに第2波、第3波がきたら、それに恐れながら、せっかく表現したものをどうするか考えなきゃいけない。

久保:お客様だけじゃなく、監督や審査員の方、海外からきてくださっていたゲストを呼べるのかということも。

別所:世界中からお客さんを呼ぶのは無理ですよね、僕らも海外にいけないし。

行定:一番の問題は、映画をどうやって観てもらうか。著作権を作り手が持っている自主映画的なものなら配信でも観てもらえる。ですが、商業ベースで作られた映画は、配信となるとハードルが高くなります。だから、くまもと復興映画祭ではまだ諦めていなくて、リスクはもう背負うしかない、要するに明らかに大きな会場の中で観客を半分以下にして、というやり方を探っています。ゲストを呼んでのトークなどは配信にして。
映画祭は多様性を重視している場所なので、こういう状況になってくると配信はやはりひとつの手段だと思います。作品の良さ、内容はオンラインでも伝わる。ただ作り手はやはりスクリーンに映写することを目的に作っているので、大きなスクリーンがあることで特別感が出る。インディーズの人たちにとっては、映画祭の1回1回の上映がものすごく重要で特別なこと。だからやはり映画祭は非常に重要だと思います。

平林:少し思ったのは、劇場で感染するのかどうか、まだ科学的に検証されていないと思う。なんとなく一般的なガイドラインを当てはめているだけなので、そこはもっと映画側が科学的に検証してもいいと思います。それならもしかしたら上映は可能かもしれない。

別所:ドライブインシアターみたいなものも出始めています。だから屋外の映画祭なら可能なのか、その場合映画の上映のありかたはどうなるのか。クリエイター目線でも、これからの映画祭で何をどう表現するのかということを考えていると思います。
行定さんも映画監督としてどうですか?僕は、映画祭の本旨は集まることだけではなく、それをみんなで評価したり、お客さんから拍手いただいたりしながら、作品が磨かれる場所という部分もあると思いますが、オンラインでもそれはできるかもしれないと思います。

行定:その経験がまだないのでわからないですけど、こういう機会だと思って、映画祭を作っていく人間がいろんな形でチャレンジしていくしかないと思います。

別所:映画祭として、コロナを受けて新しく始めていることや始めたいこと、なにか具体的にアイディアとしてありますか?

久保:実際に仲間がドライブインシアターの実験を始めています。事業化するためにどうするか、見積もりをとったりし始めています。もうひとつは、オンラインの取り組み。アメリカの在札幌米国総領事館の方から声かけがあって、我々のほうで企画して、アメリカのショートフィルムを観るという企画がありました。このトークライブのようにオンラインで、LAから映画製作者や出演者も参加して、思いのほか盛り上がりました。80人限定でしたが応募は80人以上あって、これはアリだと。なので、映画祭の方も、オンラインの可能性の追求もやっていこうと思っています。

別所:とはいえ監督からすると、オンラインは著作権や音楽配信権の問題にぶち当たっていきますよね。この権利関係はどう考えていますか。

平林:まさに今これから上映される、ヨーロッパとアメリカの映画祭がありますが、やはりワールドワイドで配信されると、どちらかにプレミアが全くなくなってしまうと相談されたんですね。だからオンラインでもどこで上映するかを決めないと、映画の権利や映画祭の価値、プレミアが全滅してしまいます。そこは映画祭の中でもルール作りが必要になってくると思います。

別所:今まさにクリエイター、映像作家の立場としても、映画祭だけでなく世の中のものなんでもオンラインになる中で、著作権や配給の山を越えなければならないですよね。

行定:難しい問題ですね。やはり映画祭をプレミアとしてどういう風な位置づけをするかが最も難しくなるでしょうね。

劇場か、配信か。
映画製作そのものが変化していく時代。

別所:例えばアメリカでは、映画館での上映の前にオンラインで有料配信したり、NetflixやAmazonでの上映だったり、コロナの前からそういうものがあります。オンライン先行で、あとから映画館で流れて、そういう新しい形の作品がアカデミー賞をとっている。映画祭もこのコロナ禍でオンラインに移っていくと、映画を映画館でみることを大切にしていきたい気持ちは当然ありますが、上映の場が一気にオンラインになっていく流れが出てきますよね。

行定:僕個人、ひとりの映画ファンとしては、劇場で観なきゃという本能的なものが動きます。なぜなら作り手はスクリーン上映のサイズで計算して作っているので。やりたいことを、エッジを丸くすることなく作れる環境がインターネット上での配信になるんですけど、では完成度としての作り手が求めるものはどこにあるのか。
インターネット上では世界中が相手で、要は観客がそれだけいるので、ひょっとすると多様性という点では配信ではキープできるのかもしれません。へんてこりんだけど映画としてはなんか面白い、そんな映画が、スターが出演する有名な映画と同等に扱われる時代になっていくと思います。
だからこそ映画館が特別な場所になっていく。観客が三分の一になっても、どうしても映画を観たい人は観に来ることが実証されるべきだと思っています。

別所:映画館が値上がりして、演劇の劇場みたいになるかもしれませんね。

行定:今までは、僕は映画祭がそういう役割をしていくものだと思っていました。多様性をキープするいうのは、要するにビデオ作品や配信作品でしかなかった作品が、作品として良ければ選ばれて、劇場につながっていく。今回カンヌ映画祭のオフィシャルセレクションに入った深田監督の映画も、元々はテレビドラマがベースで、映画版として再編集されたものですが、作品として良ければカンヌは選ぶわけですから。

別所:深田監督の作品は、テレビの番組の再編集の4時間バージョンですが、それをカンヌがオフィシャルセレクションにする時代です。
そうするとテレビ、YouTube、シネマの境界線がどんどん重なるというかにじむというか。このコロナ禍で、奇しくも映画監督たちが映画をオンライン上で制作して、ある意味YouTuberになっているわけです。そうなってくるのは面白い時代ですよね。平林さんもだからYouTuberなんですよ、映画監督でありながら。

平林:世の中に溢れているYouTubeって本当にダイレクトに刺激が強いというか、距離が短いですよね。辛い物を食べたい時辛いもの食べるみたいな。映画は出汁みたいなところがあるので、そこが競合してくると出汁の味は負けちゃうんじゃないかと。

別所:面白い表現ですね。刺激物か出汁か、優劣ではなく、今どちらが欲しいかということですね。

平林:劇場で大画面で見ることは、料亭にいくような、あそこで飲む出汁が美味しいというようなもの。料亭を弁当で持ち帰って家で食べても多分美味しくない。逆にYouTuberの映像を大画面で見てもたぶん面白くないと思います。だから映画の人たちがYouTubeに入ってきても勝てるのかなとは思います。

別所:行定さんはオンラインで作品を作られましたが、普段の映画制作とリモート制作はどう違いましたか?

行定:脚本を作って、企画から公開まで2週間です。中井貴一さんはじめあれだけのキャストがいる作品で。みんな個人的に自分たちがOKならOKなんですね。いろいろなプロセスがなくて、かつリモートで撮っているので、俳優に全部任せています。
僕が好きな作品で、フランスのエリック・ロメールの後期の作品がありますが、彼らは少人数でやっていて、10万人ぐらい映画を観てくれれば資金は回収できるから、その10万人に向けてやっているという話をしていました。それに近いものを僕も今回は味わえた。脚本を渡してそれぞれの考えをみんなが持ち寄ったスケッチですね。
これで面白いと思ってくれたのは、ちょっと甘くないかなとは思ったんですけど。でもなぜ面白いと言ってくれたかというと、たぶん即時性です。要するに何の予告もなく、筋書きも何も知らない。つまり今までは宣伝ですり込んですり込んでお客さんに来てもらおうとしてたということに気が付きました。

別所:久保さんはこの映画作りの変化について、どう思われますか。

久保:明らかに変わっていくことを前提にしないといけないとは思っています。僕も映画は大きいスクリーンで観ることがデフォルトだったので、例えばショートフィルムをパソコンで観るというのが個人的にはまだ馴染めていません。
でもいろいろな可能性を追求していけないということを、自分に課した課題として持っています。劇場で観てもらう課題の解決方法を考えることもそうですし、劇場を特別なものとして価値を高めていくという活動をやはりしていかないといけない。そして、まだまだ知られていないショートフィルムを知ってもらうことを、前に向けて進めていかなければならないと思っています。

行定:ひとつ僕が思ったのは、映画祭や映画館が映画を作り出すという形があるのではないでしょうか。僕はくまもと復興映画祭で『うつくしいひと』という映画を作りましたが、それは助成金や民間から集めたお金で、熊本復興のために作った作品です。映画祭の後は、義援金を集めていただくことはありましたが、上映自体は無償でいろいろなところで上映していただきました。それは僕はひとつの成功パターンだと思っています。
今回YouTubeで配信した2作品もほぼお金がかかっていなくて、こういう状況だからというのもありますが、俳優もみんなボランティアです。ただこういう状況じゃなくても、実際どれくらいの課金制度を作れば、低予算で作ったものを自分たちの作品としてみせていけるか。そういう事例が集まっていけば、そこに賛同者が集まって、その映画祭や映画館を通して、ひとつのレーベル、ブランドを作っていって、ブランディングしていくという形ができると、そこに著作権がキープされる。
YouTuberという話もありましたが、配信で課金はして、並行して映画館でもやりたいです。映画館にそこに行けば本来望ましい映画体験がちゃんとできる。ということが起こっていっても良いと思います。

久保:僕も映画館はライブという感覚です。だから音楽産業でいうとラジオでガンガン流れて知ってもらって、でも実際に生で演奏するライブがあるような。だから映画館や映画祭といったライブをまた再開したい、そのためにどういう形で再開できるかを考えなきゃいけない。
でも一方で、先ほど話したように映画祭の存在自体が知られていないので、知ってもらう手段としてオンラインの重要性を考えたい。ポピュラー音楽がラジオでガンガン無料で流して、それを聞いてCDを買ったりライブに行きたいと思ったりするようなものです。コンテンツの価値は知ってる人の数に比例すると思っているので、オンライン開催でそこは追求したい部分です。

行定:どういう形で観客に届くかがすごく重要ですね。

久保:短編を扱う映画祭をやっている立場からすると、せっかく素晴らしいショートフィルムがあるのに、観客の方からは毎回これはあとどこで見られるんですかと聞かれる。映画祭に来た方は分かるけれど、それ以外の人には映画祭で何が行われているか全くわかっていない、そういうジレンマがあります。大きいスクリーンで本当に素晴らしい映画体験ができるということをどうやって伝えるのか、今もう1回考え直すチャンスかもしれないと思っています。

後編につづきます

(構成:安田佳織)

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2020 (SSFF & ASIA 2020)

■開催期間 9月16日(水)~9月27日(日)
■上映会場 表参道ヒルズ スペース オー、iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズ 、渋谷ストリーム TORQUE SPICE & HERB,TABLE & COURT、赤坂インターシティコンファレンスほか
※開催期間は各会場によって異なります
■上映作品 世界110以上の国と地域から集まった約5,000本の中から、選りすぐりの約200作品を上映。
■料金 無料上映 (一部、有料イベントあり)
■主催 ショートショート実行委員会 / ショートショート アジア実行委員会
※全てのイベント、上映作品などの情報は変更の可能性があります。

■オフィシャルサイト:https://www.shortshorts.org/2020/

Writer:BSSTO編集部

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