海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に佇む「映画と本とパンの店・シネコヤ」。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。
今回は、 “16歳”という限られた季節の、美しくて、切なくて、笑える、素敵な物語について。
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16歳は、なんて響きのいい言葉なのだろう。“16歳”に何か言葉をくっつけると、それだけでアンニュイな雰囲気になるから不思議だ。“16歳”という言葉のイメージが共通認識として自然と理解できてしまう。その特有さゆえに、小説や映画のタイトルにはぴったりだ。
「十六歳のマリンブルー」(本城美智子(著))
この本の装丁が好きで、いつかここで紹介したいと思っていた。「BANANA FISH」「海街diary」などの漫画で知られる吉田秋生さんの、この表紙のインパクト。この装丁のバージョンが欲しくて、古本屋でやっと見つけた。
この小説、江の島が舞台。
江の島に住んでいる“えみ”ちゃんは16歳の高校生。おうちではお兄ちゃんとお母さんのペットとなって、いつも明るく元気いっぱい。でも心の内では、早くも人生に絶望しかけていたりして。そんな“えみ”ちゃんが夜中にボーイフレンドと会ったことからとんでもないことが起こる…。
“十六歳”と“マリンブルー”という言葉の組み合わせが持つ強烈な親和性が、その独特な年齢の醸し出す雰囲気にピッタリ当てはまる。ノスタルジーや、ファンタジーを連想させる言葉となって惹きつけるのだ。更に、台詞の「」(鉤括弧)がなく、まるで詩を読んでいるかのように旋律的な文章で綴られていて、不思議な浮遊感のある小説となっている。その浮遊感と“16歳”が相まって、物語の揺れ動きをさらに加速させる。
16歳のなんとなく絶望―――
16歳のなんとなく孤独―――
そういうものが確かにあった気がする。
月並みに友だちに恵まれているし、大した家庭問題もない。
それでも自分だけが誰にも愛されていないような不安みたいなものが、いつもつきまとって、隣には楽しそうに過ごす制服姿の女子高生をよそ目に、なんとなく自分が劣っているような気がしていた。
初恋と呼べる経験をしたのはそんな頃だった。あらがえない何か大きなものに出会ってしまった感覚は、今でも鮮烈に覚えている。夢中になるほど、不安も同じくらいにおおきく風船のように膨らむ。その風船がいつか割れてしまうのではないか、と更に不安になった。
あの頃の心の揺れ動きを見事に表現した、映画『スザンヌ、16歳』。
“16歳”という言葉の響きは、ここでも意味深に存在感を放ち惹きつけられる。
(あらすじ)
スザンヌは16歳。同年代の友人たちに退屈している。恋に憧れはあるけれど、学校の男の子たちが魅力的とは思えない。ある日彼女は、劇場の前で年の離れた舞台俳優のラファエルと出会う。彼もまた繰り返される舞台や仲間たちとの付き合いに退屈していた。そんな二人はすぐに恋に落ちる。けれどスザンヌは、彼に夢中になればなるほど、不安にもなりはじめる。自分が思い描いていた“16歳の時”が、どこかに消えていってしまいそうで…
本作が、デビュー作となる20歳のスザンヌ・ランドン監督。彼女が15歳の時に執筆した脚本を元に、19歳で映画制作に着手、更には主演までも務め本作の公開となった。映像はクラシカルでありながら、衣装や音楽の使い方などにはハッとさせられるフレッシュさもある。「これが撮りたい!」という声がスクリーンから聞こえてくるような、エネルギーを感じた。なんとも早熟な才能に感嘆の声が漏れてしまう。
初恋を経験した15歳〜16歳のころ、お気に入りのクロッキー帳に色んな複雑な想いをしたためていた。脚本にしたらこんなふうに美しいものになったのだろうか…と、昔のクロッキー帳を読み返してみたら、自分の残念な文才が爆発していたので、親友に見せて大笑いしながら捨てることにした。
きっと誰にでも “16歳”の、美しくて、切なくて、笑える、素敵な物語があるはずだ。
みんなの“16歳”の物語を本や映画にしたら、面白いんじゃないだろうか、と思ったりする。
【おすすめの本】「十六歳のマリンブルー」
1987年|本城美智子 (著)
【おすすめの映画】『スザンヌ、16歳』
■監督:スザンヌ・ランドン
■シネコヤでの上映期間:9月30日(木)〜10月17日(日)
「映画とパンの店・シネコヤ」
【営業時間】
9:00〜18:00ごろ
※月火水、休業。HPでご確認ください。
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/