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Aug. 13, 2024

【映画にみるインテリア】ショートフィルムにみるインテリア
〜 Interior Design In Short Film 〜 vol.5

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

パリオリンピック、今日閉会式を迎えました。スポーツには疎い私ですが、オリンピックの開会式と閉会式は毎回楽しみにしています。前大会では、オリンピックの負の側面ばかりが目についてしまいましたが、今回は素晴らしかった!パリの街を丸ごと会場にした演出で、チケットを持たずとも誰もが参加でき、場面場面で繰り広げられるエンターテイメントも過去から現在、国や文化、民族がひと続きに繋がっていることを実感できるような、オリンピックならではの演出だったと思います。場面場面の衣装も見応えがありましたねー。いやー、よかった。

今月の映画 『アメリ』

さて、今月ご紹介する映画はそんなパリのモンマルトルを舞台にした映画「アメリ」です。つい最近もデジタル・リマスター版が全国で上映されたりと、色褪せることなく世界中で愛されている映画ですね。インテリアが楽しめる映画としてもあまりにも有名で、「知ってる知ってる、全面赤いお部屋なんでしょ?」と言われそうですが、お部屋のメインカラーを赤に限定しながら、あれだけの奥行き、ニュアンスを出す技量に、やはりインテリアの本場、フランスの歴史をまざまざと感じます。

プロフィールの写真に使っていますが、実は私のアトリエも真っ赤に塗ってみました。もともと和室だった場所の壁紙の上から、ROOMBLOOMさんの”African Dance”という色を天井、壁、建具にも塗ってみました。アメリの赤は、彼女の内側にある情熱的な、マグマのように沸き立つ生き生きとした部分と、外側に見せる物静かな部分の両方を表現している特別な赤だと思っていて、それがどのあたりの赤なのか、ものすごく興味があったのです。塗ってみてそのバランスをちゃんと表現してくれるいい色を選べたと自負しています。

『アメリ デジタルリマスター版』Ⓒ2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC
INDEPENDENT-Tous droits reserves

でもアメリのお部屋はただ赤い、というだけじゃない、膨大な赤のバリエーション、柄、素材のレイヤーで構成されています。赤い壁紙だけでもリビングと寝室、トイレ、玄関とすべて違うデザインが使われていて、そこにソファやクッション、ベッドスプレッドなど素材の違う赤を加えているからこそ、ボリュームのある赤いお部屋ができているんです。グリーンのテレビやブルーのテーブルランプなど、アクセントカラーの使い方も新鮮で、映画美術としても、インテリアデザインとしても秀逸な作品です。もう一度見たくなってきた方はぜひDVDで、一時停止しながらじっくりとお楽しみください!

『アメリ デジタルリマスター版』Ⓒ2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC
INDEPENDENT-Tous droits reserves

今月のショートフィルム『ジェニーとジョンの最後の週末』

「そうはいっても赤いお部屋はあまり現実的じゃないよね」という方に、今月のショートフィルム『ジェニーとジョンの最後の週末』をおすすめします。スウェーデンの映画です。バスケをやっている娘ジェニーのために、父親であるジョンが試合に連れて行くある週末を描いた映画です。他の子は同じホテルに泊まり一緒に行動していますが、週末を娘と過ごしたいジョンがわざわざ車を出し、娘が喜びそうなおしゃれなホテルをとり、娘が喜びそうな雰囲気のいいレストランに予約をとるという、娘にしたら…という物語。

ホテルの部屋、お父さんが1人でソファに座っている、窓を背景にした場面

前編を通して色調がとてもやわらかく、光の採り入れかたがうまいと感じます。スウェーデンをはじめ北欧の国々は冬の日照時間が短く、寒さも厳しいために家での時間を大切にするんだそうです。自宅の娘の部屋、ホテル、レストラン、どこにも真っ白な壁はなく、くすみカラーといわれる彩度(あざやかさ)の低い色が使われています。

レストランの場面

ファッションでも人気の理由は馴染みの良さとリラックス感を感じさせる点にあると思います。派手さはなくても、インテリアでは照明を取り入れることでハッとするような、ドラマティックな表情をつくり出すこともできます。

色の壁の楽しさは、DIYでも気軽に試すことができ、色と色の組み合わせをファッションのように自分で試せること。面積が大きいのでガラッとお部屋の雰囲気を変えたい時にもおすすめです。その時のコツは、ぜひ照明も一緒に楽しんでほしいということ。全体の照明の明るさを少し抑えて、ランプを一つ加えると、立体感のあるお部屋作りが楽しめます。夏休み、ぜひ壁の色塗りに挑戦してみてはいかがでしょうか。

1946年からイギリスで愛されているFarrow & Ballは、歴史的建造物に使われるほど高い品質をもったペイントです。発色がよく、奥行きの深い色でくすみカラーも得意です。

『アメリ』

2001年製作/121分/フランス
原題:Le fabuleux destin d’Amélie Poulain
配給:アルバトロス・フィルム
劇場公開日:2023年11月17日
その他の公開日:2001年11月17日(日本初公開)
(C)2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves
https://amelie-film.com/

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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