【映画にみるファッション】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
—ファッションは自分自身のクラスを演出するツール—

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回はレオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシ監督のコレボレーションとして5作目であり、有名株式ブローカーの波乱万丈な人生を描いた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

一方で、ジョーダンの上司であるマーク・ハンナ（マシュー・マコノヒー）の着こなしは対照的で、野心家全開で威厳そのものというべき着こなしを魅せてくれます。ネイビー地のストライプはドレッシーな雰囲気でエグゼクティブクラスの装いの代表格。しかも、金融関係の成功者が好むことからバンカーストライプの別名をもつチョークストライプをセレクトしています。

さらに権力や威厳を示す色と言われるレッドのネクタイだけに留まらずジャケットの裏地までレッドをセレクトするあたりファッションの力でも周囲に威厳を演出していることがよくわかります。

ストライプの種類でクラスを演出

26歳にして廃墟同然のガレージで証券会社を設立したジョーダンは、仲間とともに瞬く間にウォール街のスターダムへと成り上がっていきます。それに合わせてジョーダンの着こなしも無地のスーツからネイビー地のストライプスーツというエグゼクティブクラスの装いに変化していきます。

ストライプの種類はペンシルストライプのように見えますが、このストライプは目の間隔がピンストライプよりも狭くて鉛筆で線を引いたかのようなくっきりとした輪郭のストライプです。しかしながらピンストライプと比べると格は下がるので「まだ上がる」「まだまだ成長過程」というジョーダンの現クラスを演出するディティールだったのではないかと思います。

また小紋柄、ペイズリー柄、レップタイなど、様々な柄のネクタイを着用していますが、レッドをベースとしたネクタイを締める回数が増えています。これは投資銀行時代の上司のように権力や威厳を示す色レッドをセレクトすることで、ファッションの力でも周囲に威厳を演出していたのです。

全てを手に入れた男のファッション

年収4900万ドルを稼ぐようになったジョーダンは、欲に溺れて常識外れな金遣いの粗さで世間を驚かせます。その勢いは誰にも止めることが出来ず全てを手に入れたジョーダンは「ウォール街のウルフ」と呼ばれるようになります。そしてスーツのストライプ柄もピン頭のような極小のドットを縦に連ねたピンストライプに変化しています。英国では濃紺にピンストライプのスーツは最も風格あるビジネスウエアとされていますが、ジョーダンはファッションでも風格ある男になっています。

また全てを手に入れた余裕からか、ネクタイも威厳を示すレッドだけではなくスーツやシャツとのバランスを計算したカラーをセレクトしています。そしてストライプ柄だけではなくグレンチェックのスーツを着用するなど、柄やカラーの力を利用するだけではなく、本物の威厳や権力を持つ男の余裕を魅せてくれます。

またオフ・ファッションでは、ラルフローレンのポロシャツ、レイバンのサングラス、プレッピーベルトで締めたプリーツ入りのコットンパンツをタックインして着こなす姿は、アメリカントラッドであり、クルージングファッションそのものです。

オン・オフ共に自身のクラスを表現するだけではなく、TPOを踏まえたファッションを取り入れることが、クラスが上がれば上がるほど大切な紳士のマナーであることも再認識させてくれます。

究極シンプルなファッションに辿り着くには

全てを手に入れたジョーダンの辿り着いた先は…

それは、ホワイトシャツにデニムという取り去るべきものがない究極シンプルなファッションでした。シンプルとは、加えるべきものがなくなった状態を言うのではなく、取り去るべきものがなくなった状態です。全てを失うことで、ファッションでも演出して周囲に誇示していた威厳や権力が取り去られました。

そして全てを脱ぎ去り一糸まとわぬ姿になったジョーダンに残ったものは、波乱万丈の仰天人生を経て得ることができた本物の風格でした。だからこそ、ホワイトシャツにデニムという取り去るべきものがない究極シンプルなファッションこそが、唯一無二の存在で、クラスを超越したジョーダンのファッションに、最も相応しかったのではないでしょうか？