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COLUMN
Apr. 02, 2019

【Cinema for Life】『恋する惑星』
—その世界観に人々がやっと追いついてきた—

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回はウォン・カーウァイ監督によるスタイリッシュな青春香港映画『恋する惑星』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

1990年台のファッションピープルが熱狂

刑事223号(金城武)は、雑踏の中で金髪にサングラスの女(ブリジット・リン)とすれちがう。
そのとき、彼女との距離は0.5ミリ-57時間後、僕は彼女に恋をした―。

1990年代に映画好きだけでなく、ファッション好きをも熱狂させたのがウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』。
登場人物のファッションも当時ファッション好きが熱狂したのも頷けるような趣向を凝らしたディティールやスタイリングが楽しめます。

©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

フェミニンでキュートな謎の金髪女

謎の金髪女は、無国籍地帯・重慶マンションを拠点に活動するドラッグ・ディーラーで、密入国したインド人に麻薬を運ばせる仕事を請け負っている―。

自分を隠すかのように金髪のウィッグにトレンチコートで全身を覆っていますが、それがとてもフェミニンでキュート。

エポーレットやガンフラップ、ストームシールド、Dリングといったアーミーディティールを排除して、素材も一般的な高密度のギャバジンではなく、もっと軽やかな素材を使う事で、フェミニンかつファッショナブルなトレンチコートにデザインされています。

©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

そして一見マリリン・モンローのコスプレのような金髪ウィッグですが、真っ赤なフレームのサングラスをセレクトすることで、コスプレではなく、モード感のあるファッショナブルなスタイリングに仕上げるアクセントとなっています。

ナイーブでオシャレなファッション

©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

刑事223号は、エイプリル・フールに失恋。
恋人が忘れられず、ふられた日からちょうど1か月後の自分の誕生日までパイナップルの缶詰を買い続けてしまう―。

とてもナイーブな青年ですが、ファッションでも男性の内に秘めたナイーブさが良く演出されています。
ボックスシルエットでベージュカラーのアトリエコートは、着丈を少し短めにすることで揺れ感は残しつつも、更に軽やかでシャツジャケットのような雰囲気を醸し出しています。
ストライプのシャツもカフスがないなどディティールに遊びがあって、それらにデニムを合わせたラフな着こなしには、型にハマらず割り切れないナイーブさが演出されています。
そして、謎の金髪女のハイヒールを自分のネクタイで磨く姿が、ナイーブでさらにオシャレな好青年を演出しています。

凛とした男が見せた強烈なギャップ

©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

刑事633号(トニー・レオン)は小食店〈ミッドナイト・エクスプレス〉の常連。
彼にはフライトアテンダントの恋人(チャウ・カーリン)がいたが、2人には別れが待っていた―。

©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

普段は警察官の制服を着用し、プライベートでマドラスチェックのシャツやチノパンなどアメカジテイストのアイテムを凛とした姿で着こなす男のギャップに、女性はきっとときめいてしまう事でしょう。

そして刑事633号は、白のタンクトップにブリーフ姿という強烈なギャップもお披露してくれます。
これは警察官でも生身は普通の人間で、時には女性と別れてナイーブな気分になることを、この強烈な姿がファッションとして絶妙な空気感を纏って演出しています。
しかしながらセクシーな男が身につければ、白のタンクトップにブリーフ姿でもセクシーに映ってしまうから不思議です。

アンバランス感が魅力のファッション

©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

小食店〈ミッドナイト・エクスプレス〉の新入り娘フェイ(フェイ・ウォン)は、ある日フライトアテンダントが刑事633号にあてた手紙を店主からことづけられるが、手紙には彼の部屋の鍵が入っていた―。

フェイのファッションは、モンチッチヘアにチビT、ボーダーニット、オープンカラーシャツ、タンクトップというボーイッシュスタイルで、まさに王道の1990年台ジャパニーズガーリーファッション。
男性に免疫がなく好意や興味を異質な形でしか表現できない大人になれない少女のような女性の役柄をファッションでも演出しています。

この映画でフェイ・ウォンは、日本でもアーティストという枠にはまることなくファッションアイコンになりました。
スクリーンに映るフェイの姿は、男の子のようなアイテムばかりですが、サイズ感、柄、色が、とても女の子的で、そのアンバランス感が魅力的で大人になれない少女のような女性像にはまっています。

決して色褪せることのない世界感

©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

『恋する惑星』は四半世紀も前の作品ながらその独特の世界観は、決して色褪せるどころか、その世界観に人々がやっと追いついてきたかの印象を与えます。
ファッションはサイクルで、以前のファッションは廃れて終わるのではなく、アーカイブされて未来に新しいファッションとして再登場するものです。

『恋する惑星』も、そんなファッションサイクルのように、あの時代に観た作品は、全く別の作品であったかのような錯覚を覚えるほど、新鮮でクリエイティビティを強く刺激してくれるようなファッショナブルな作品でした。

『恋する惑星』

DVD&Blu-ray発売中
DVD:1.500円/Blu-ray:2.500円(税抜)
発売元:アスミック・エース
販売元:KADOKAWA
©1999 BLOCK 2 PICTURES INC ALL RIGHTS RESERVED

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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