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COLUMN
Dec. 04, 2019

【Cinema for Life】『ノクターナル・アニマルズ』
—異能のクリエイティブ・ディレクター-

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回は、アメリカの三都市を舞台に、別れた夫婦の関係性を描くミステリー映画『ノクターナル・アニマルズ』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。
ファッションデザイナーであり、監督を務めたトム・フォードは意外にもテキサス出身。モードなイメージと西部のスタイルが混在する、まさに彼の人生を写したかのような作品です。

© 2016 Fade To Black Productions, Inc. All Rights Reserved.

クリエイティブ・ディレクター トム・フォード

ファッションデザイナーのトム・フォードが『シングルマン』(2009)に続く映画監督第二作目として手掛けたのが、1993年に出版されたオースティン・ライトの小説『ノクターナル・アニマルズ』の実写化。
現在も第一線で活躍するファッションデザイナーでありながら映画監督としても高い評価を受けるトム・フォードは、まさにモードの世界から誕生した異能の天才です。
そもそもトム・フォードがモードの最前線を引っ張る存在になったのは1990年代のグッチでの活動期。
それまでは、ファッションデザイナーの役割といえば、純粋に服のデザインに集中することでしたが、トム・フォードが画期的だったのは、洋服のデザインだけに留まらず、店舗デザイン、広告デザイン、果てはショッパー(購入時の紙袋)に至るまですべてのデザインを手掛けたことです。

© 2016 Fade To Black Productions, Inc. All Rights Reserved.

ミニマムなディテール、非日常的なスタイリッシュな空気、それらが絶妙な塩梅で混ざり合って全ての創造物に妥協することなく、しっかりと落とし込む異能なディレクション能力こそが、トム・フォードの真骨頂。
今ではファッションデザイナーが総合的にブランディングを施して、すべての空間や制作物に同じ空気感を演出するのは当たり前になっていますが、当時では画期的で手掛けるクリエイションが果てしなく広いことから、自らの肩書をデザイナーではなく、クリエイティブ・ディレクターと称するなど、モードの世界から新たなカルチャーを創出した天才こそがトム・フォードです。
映画というジャンルも、トム・フォードにとっては、自身のクリエイション領域の一つに過ぎないのかも知れません。

異なる世界観を共存させる異能

『ノクターナル・アニマルズ』は、LAを舞台とした「現在」、NYを舞台とした「過去」、テキサスを舞台とした「小説」という、3つの時間軸で描かれた作品です。
LAを舞台とした「現在」では、アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)を中心に描かれます。
アバンギャルドなアート作品を中心に扱うスーザンは、ミニマムなデザイン、モノトーンを中心に落ち着いた彩度の原色系のアイテムを合わせることで、非日常的なスタイリッシュが演出されていて、どこか冷酷で哀しみを感じさせる空気感をファッションでも演出しています。
テキサスを舞台とした「小説」は、トニー(ジェイク・ギレンホール)と、アンディーズ警部補(マイケル・シャノン)を中心に描かれます。

© 2016 Fade To Black Productions, Inc. All Rights Reserved.

テキサス・ファッションと聞いて、恐らくファッション好きがイメージするのは、「カウボーイ」でないでしょうか?
カウボーイファッションのアイテムやディティールには、メンズファションに欠かせないものが数多く存在します。
アンディーズ警部補が被る「テンガロンハット」などはまさにわかりやすいアイテムですし、ブルゾンには「ウェスタンヨーク」の意匠がしっかりと入っています。
また、トニーが着用するシャツも「バッファローチェック」であり、カウボーイ臭・西部劇臭がプンプンしてくるアイテムです。
モードの天才トム・フォードだったら、ここでもミニマムで非日常なスタイリッシュな甘美なファッションが登場するのでは?と思ってしまいますが、テキサスはトム・フォードの生まれ故郷。
トム・フォードは普段、テキサス、カウボーイ、アメリカンなファッションを好んで着用しているようで、こういったファッションを着用したプライベートショットなどもよくメディアを通して紹介されています。
こういった、2面性3面性を持つ世界観を無理なく共存させながら描けるのも異能であるトム・フォードならではの世界だと言えます。

© 2016 Fade To Black Productions, Inc. All Rights Reserved.

色彩メッセージの意味とは?

3つの時間軸で描かれた作品『ノクターナル・アニマルズ』。
この3つの時間軸の集結点が最後のシーン。
スーザンが、エドワード(ジェイク・ギレンホール)と再会する意味とは?
エドワードが、スーザンとの生活・別れを経てどうしてあのような小説を書いたのか?
そして何故送ってきたのか?
その答えがトム・フォードだからこその演出で描かれているように感じさせてくれるのがスーザンのグリーンのワンピース。
これまでのどの時間軸にも登場してこない色彩が突如現れることで、惹き込まれ、そこに深いメッセージを感じ、その意味は映画を観ている人それぞれに委ねているようにも思えます。
その演出手法から私が感じたのは、「ミニマムで非日常的なスタイリッシュな空気」。
まさに、天才トム・フォードのクリエイション世界。
モードではなく映画の世界でも自分自身のクリエイションをしっかりと落とし込む異能なディレクション能力こそがトム・フォードの真骨頂であり、「世界一のクリエイティブ・ディレクターは、今でもトム・フォードである」と世界中の人々が認めざるを得ない作品になっています。

© 2016 Fade To Black Productions, Inc. All Rights Reserved.

『ノクターナル・アニマルズ/夜の獣たち』

Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※ 2019 年 11 月の情報です。
© 2016 Fade To Black Productions, Inc. All Rights Reserved.

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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