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COLUMN
Dec. 08, 2021

【映画にみるファッション】『クルエラ』-デザイナーか 破壊者か?-

コラム「映画にみるファッション」。
今回はアニメーション映画『101匹わんちゃん』に登場する悪役クルエラの誕生秘話を、エマ・ストーン主演で実写映画化した映画『クルエラ』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

クルエラのモードの世界に圧倒される

『クルエラ』 © 2021 Disney

残酷な二面性を持つ女性エステラ・ミラー(エマ・ストーン)は、とあることをきっかけにクルエラという前衛的ファッションデザイナーとして活動を始めます。
クルエラが創造するモードは、精神性はヴィヴィアン・ウェストウッド、着想はマルタン・マルジェラ、構造はジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーンを彷彿とさせます。
が、本作は映画のために過去のモードの名作をリバイバルとして借用したという陳腐なお話ではありません。
そこには本当の意味で、過去へのオマージュとして空気感を纏わせているのであって、決して真似ではないオリジナリティへとアップデートされています。
だからこそ、終始クルエラのモードの世界に圧倒されてしまうのです。

考え尽くされた秀逸なアイデアとそれを可能にする高度な技術

『クルエラ』 © 2021 Disney

エステラとクルエラの共通項と言えばオールブラックですが、周囲とうまく調整を図ろうとするエステラは布帛素材の衣服を、サイコパスなクルエラはレザー素材の衣服を身に纏います。
レザー素材というのはルックスだけでなく気持ちも冷淡かつソリッドにさせてくれるので、アナーキーでパンクなクルエラの戦闘服になるのも納得です。

『クルエラ』 © 2021 Disney

そして、クルエラとして仲間の前に最初に登場するレザージャケット姿は圧巻です。
レザー素材は、硬く厚くおまけに縫い直しができないので非常に扱いには高度な技術がいる素材です。
レザー素材でここまで立体的なジャケットを仕立てる為には当然高度な技術も必要なのですが、アイデアも大切で、見頃はパッチワークを多用することで立体的な構造のために必須な複数の切り返しやダーツをデザインの一部に取り込んでいます。
そしてボディとは比較にならないほど稼働する袖部分は、そのままレザーを使用してしまうと、細すぎたり素材に伸縮性がないととても窮屈でストレスを感じてしまいますが、クルエラはその難題をレザーを細いテープ状にし、そのレザーテープを組み編みにすることで縦横無尽に動く袖を構築しています。
一見すると派手なレザージャケットに見えますが、細部まで非常に考え尽くされた秀逸なアイデアと、それを可能にした高度な技術には脱帽です。

汚いものは美しい

『クルエラ』 © 2021 Disney

ファッション界の女帝として君臨するバロネス(エマ・トンプソン)の登場するところを狙って作品を発表するクルエラですが、ある時沢山のオーディエンスが集まる会場前にゴミ収集車が登場します。
ゴミ収集車から排出されるゴミと共に現れるのがクルエラ!
ここからが驚愕で、なんとそのゴミが全てドレスの一部で、ドレスの作り込みの凄さもさることながら、ゴミなのにただただ美しく、演出の効果も相まって人々は魅了されてしまうのです。

ゴミ=汚いもの。要らないもの。

バロネスからも社会からもそういった扱いを受けてきたエステラが、クルエラとして「汚いものは美しいもの」と高々と雄弁にモードを通して語っているようで、こういった社会的メッセージを無言で発するのがアーティストでありファッションデザイナーであると再認識させてくれました。

生死のドレス

『クルエラ』 © 2021 Disney

バロネスは次第にエステラを自身の最強の右腕として、クルエラを自身の最強のライバルとして意識するようになりますが、バロネスを最大級に魅了したのが、エステラがデザインした黄金に輝くドレス。
建築物のような構造体のボディーを、黄金を纏うかのように黄金色に輝く物体が覆います。
完成時バロネスですらも言葉を失い魅了されてしまいます。

(注:以下ネタバレあり)

そしてなんとこのドレスはこれが完成形ではなかったのです。
黄金に輝く物体は実は昆虫の卵で、時間が経ち孵化することでこのドレスは朽ち果てていくのですが、この朽ち果てたドレスもまた美しいのです。
生きるものに生死があるように、このドレスには生命があり生死があるという非常に哲学的な深さを持ったドレスになっていて感動的ですらあります。
最初の黄金色のドレスをエステラの作品とすると、朽ち果てたドレスはクルエラの作品とも思えます。
哲学的でもあり、二つの人格の共作でもありと語るべき事が多すぎて、これが実際のモードの世界で発表されていたら時代を超越する作品であり、ファッションをアートの領域にあげてくれた崇高な伝説的作品になるのではないかと本気で思えてしまうのです。

クルエラはデザイナーか?破壊者か?

『クルエラ』 © 2021 Disney

物語の中で、タブロイド誌が「クルエラはデザイナーか破壊者か?」という見出しをつけていますが、現代ファッション、モードの世界の観察者として思うのは、クルエラは、ストリート、ファストファッションと、モードの区別がなくなろうとしている(なくなってしまった)この時代や、ウィズコロナ、アフターコロナを模索している状況下にこそ、現れてほしいモード界の救世主であり、待望されるスーパースター像そのものです。

『クルエラ』 © 2021 Disney

ファッションデザイナーは衣服をデザインするだけが仕事ではなくなってていますが、だからこそ「ファッション“を”見せる」のではなく、「ファッション“で”魅せる」ことが重要です。
クルエラのファッションには、デザイナーとして重要な精神性や哲学が存在し、衣服として究極の存在にするアイデアやそれを可能にする技術が備わっているだけでなく、人々のエモーショナルな部分を刺激して価値観や生き方を問いただすような強烈なパンチ力が備わっているのです。
そして、それらを最大限にアウトプットしていく為には、時にアナーキーでパンクでなくてはならないもので、想定される規定演技内のアウトプットでは、自身の作品を最大限輝かせることはできないですし驚きもほとんどないものです。
誰も見たことがなく、前例がないものを世に出すということはそういうことなのであり、だからこそクルエラのファッションには魅了されてしまうのです。
そして、そういったファッションデザイナーの存在は、ファッションで人々の人生を豊かにしていくのだと信じています。

『クルエラ』

© 2021 Disney

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Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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