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COLUMN
Oct. 30, 2021

【映画にみるファッション】『ロード・オブ・ドッグタウン』
-ファッションスタイルが生まれる条件-

コラム「映画にみるファッション」。
今回は今年競技としても注目を浴びたスケートボードを一躍スターダムに押し上げた伝説的なチーム”Z-BOYS“の実話を元にした映画『ロード・オブ・ドッグタウン』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

唯一無二のオリジナルスタイル確立

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

スケートボード。 ストリート発祥で、これまでは一部の若者たちのカルチャーとして断固たる地位を築いてきましたが、今年は、スケートボードなどエクストリームスポーツに世界中が魅了された年となりました。
アクロバティックかつエキサイティングな演技は、スポーツ競技でありながらエンターテイメントショーを観ているようでしたが、最初からこういったエクストリームな競技ではなかったのです。
『ロード・オブ・ドッグタウン』の主人公達“Z-BOYS”は、70年代のアメリカ西海岸・ドッグタウンで結成されて、わずか数年でスケートボードの世界にイノべーションを起こしスターになりました。
しかしこういったイノベーションを起こした人達は、実際にはファッションにそこまで拘りがなく意味を持たせていなかったように見受けられます。
だからこそ流行に流されず唯一無二のオリジナルスタイルが確立されていて、フォロワー・ファン達が真似をすることで、一大ファッションスタイルが産まれるものです。

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

古いスタイルを残した功績

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

スケボーファッションのスタイルで思い浮かぶのは、「緩いデニムパンツにVANS。そして振り乱れるようなロン毛」ではないでしょうか?
しかしそれは“Z-BOYS”のスタイルであって、それまでのスケボーファッションといえば、ショートパンツにライン入のハイソックスに、汗取りヘアバンドでした、映画の中でも初期の大会などではこういったスタイルで優雅にスケボーの技を競い合っています。

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

その姿はどこか真面目でブルジョワな匂いを漂わせています。そこからも当初スポーツとしてのスケボーは上流階級のものだったと推測されますが、その中で突然ドッグタウンから現れた“Z-BOYS”は異端そのもので、優雅とは対象的な攻撃的なスケーティングも相まって、その自由な空気が人々のエモーショナルな部分を刺激したのではないでしょうか?
そういった時代の流れの中では、古いファッションスタイルは忘れられる運命ですが、スケボーファッションから派生したストリートファッションスタイルとして、今も尚、多少ストリート寄りにはなっていますが残存しています。

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

それは、ステイシー(ジョン・ロビンソン)が“Z-BOYS”脱退後、老舗企業がスポンサーのチームに所属しますが、そのユニフォームがまさに“Z-BOYS”以前のスケボーファッションそのものでした。 それまでの伝統を守りつつもエクストリームな技を武器とすることで、古いスケボーファンも巻き込むことができ短期間でスケボーがエクストリームなスポーツになったのではないかと思います。
だからこそどちらかがとって変わるではなくて、“Z-BOYS”以前のスケボーファッションは今でも残るストリートァッションスタイルになったのではないかと思います。

20世紀を代表するファッションアイテム

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

スケボーファッションの古い新しい両方ともに共通するトップスといえば、Tシャツです。
安価ということもあり誰もが所有でき、色やサイズ感(シルエット)で自分のファッションスタイルを演出したり、プリントで思いやメッセージを発したりすることができる、誰もが平等なアイテムがTシャツです。
“Z-BOYS”もチーム結成時に、スポンサーのスキップ(ヒース・レジャー)からチームに選ばれて嬉しそうな姿が印象的です。
対象的に初めは選ばれなかったステイシーが悔しさから大会優勝を果たして晴れてチームに加入する姿を見るに、チームTで得られる帰属意識というのは万国共通でいつの時代でも人間の心を動かす原動力だということを教えてくれます。
その他のプロスポーツでもサポーターといわれる熱狂的なファンは、チームユニフォームやTシャツを着用して、自分も選手と一緒に戦う仲間としてゲームに参戦するものです。

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

“Z-BOYS”を脱退して大スターになったトニー(ヴィクター・ラサック)は、一匹狼丸出しで心が安定しないのかゲーム中トラブルに巻き込まれています。
ジェイ(エミール・ハーシュ)も“Z-BOYS”を脱退後は、元のストリートでのスケボー遊びの延長でスポンサーがいるからしょうがなくゲームに参戦しているようでトニーと一緒で心が安定していない印象です。
やっぱり本当の仲間と組むチームは特別なものであり、特別な仲間とのチームの帰属意識を象徴するアイテムがチームTであり、だからこそのチームに憧れ応援する人をもチームTを大事にするんです。
チームT、ロゴTは、20世紀を代表するファッションアイテムと言われる所以はこの帰属意識に起因しているのだと思います。

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

味のある男が行き着いたアイテムは原点回帰

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

作品の中でもう一つ気になるファッションアイテムが、スキップが着用するシャツです。
“Z-BOYS”のメンバー=子ども、スキップ=大人 と捉えた時に、わかりやすく演出されているのが、“Z-BOYS”はTシャツ、スキップがシャツを着用しているのです。
シャツは襟が付いているので、Tシャツよりもしっかりしたイメージが湧き、きちんとした場所に着用していくもので、Tシャツシャツよりも大人のイメージがあるのです。
ジェイも作品中、周りとの関係で少しずつ心が離れたりしてからはシャツを着用することが増えています。
これは子どもから大人への変化を表しているようです。
そしてスキップのシャツが印象的に感じた要因は、実はスキップのTシャツ姿の対比としてでした。
サーフショップのオーナーであったスキップは、地元の成功者であって悪ガキ達の兄貴的存在でした、そのころのスキップは、シャツを着用していて色気があり大人の甘美な魅力を発していましたが、物語の後半一から出直すスキップはシャツではなく原点回帰のTシャツ姿で作業しているのですが、そこに色気や甘美な魅力はありません。
しかし作業に没頭している姿や息抜きで熱唱する姿からは、とても味のある年輪を刻んできた男になっていて、その姿はとても格好良いのです。

© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

歳を重ねることで、人はシンプルな思考になっていくようですが、ファッションもシンプルな方向になっていくものです。
しかしそのシンプルで格好良く魅せるためには唯一無二で飾らない自分自信を持ち得ていないと成立しないものなのです。

『ロード・オブ・ドッグタウン』

デジタル配信中
Blu-ray 1,980円(税込)/DVD 1,551円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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