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COLUMN
Oct. 30, 2018

【映画にみるファッション】『リリーのすべて』
―ファッションと内に秘める気持ち―

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回は来月公開のハリー・ポッター新シリーズ最新作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』で主演を務めるエディ・レッドメインが、世界初の性別適合手術を受けた人物、リリー・エルベを演じアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『リリーのすべて』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

性の悩みにファッションはどのように寄り添うのか?

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

ファッションにも明確なジェンダー(性別)は存在するのでしょうか?
直感では「YES.」という回答が出ますが、それは正装やオンタイムの仕事着の話であって、オフタイムのカジュアルスタイルでは、男女ともに着用可能なユニセックスデザインも多くの人に好まれているため、「NO.」という回答も正解ではないかと思われます。
グローバル社会を世界で共有するようになってからは、世界共通のジェンダーファッションの様式が統一規格のように広まりましたが、スコットランドの衛兵がスカートのようなキルトを今でも着用している事を例に出すまでもなく、その統一規格が伝統という名のローカルルールと合致していない例も数多くあります。
本作の主人公が抱えるトランスジェンダーという悩みに対して、ファッションはどのように寄り添うのでしょうか?

自分を隠す鍵となるファッション

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

1926年、デンマークの首都コペンハーゲン。
主人公の風景画家のアイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は、結婚して6年目になる肖像画家の妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)と仲睦まじい日々を送っていた。
英国調で仕立てたスリーピーススーツにハットなど、その時代の代表的な紳士の出で立ちですが、他者とちょっと違うのがシャツの襟デザイン。
台襟がとても高くタートルネックのように首元が覆い被されています。
一般的には、襟を高くすることで、肌の露出が減るので格式を上げる効果がありますが、アイナーに至っては、女性のようなスリムな首元をシャツの襟で隠すことで、自分の内に潜んでいる“女性”を隠し、男性でいる為の重要な鍵にファッションがなっていたのでないでしょうか?

ボーイッシュ×フェミニンなファッションスタイル

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

妻のゲルダ・ヴェイナーは肖像画家として、夫のアイナーと互いに支え合い刺激を受け合っています。
ルーズウェストのジャンパースカートや、テーラードスーツ形式の衣服を身につけるなど、20年代の基本的な女性ファッションであるウェストを締めずヒップやバストのラインを強調しないボーイッシュなファッションスタイルを好み、髪型はこの時代に大流行したボブヘア。
時代に合った合理的な衣服だからこそ、パステルカラーや華やかな絵柄がより良く見えて、ボーイッシュなファッションでありながらとてもフェミニンに見えるのです。

女性を感じられるアイテム

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

ゲルダが冗談でアイナーを女装させ「リリー」という名の女性として知人のパーティーに連れていくことから、アイナーの内に潜んでいた女性性が目を覚まします。
リリーのファッションもゲルダと同様、ウェストを締めずヒップやバストのラインを強調しないボーイッシュなファッションにボブヘア。
どんなにスリムでも男性特有の骨格のため、その時代以前に主流だったコルセットを用いて女性的なラインを強調したファッションでは、ここまでリリーが女性的に見えなかったのではないでしょうか?
また印象的だったのは、この時代に流行したクローシュハットをとてもフェミニンに被り意中の男性に合いにいく姿です。
きっとリリーにとって、あのクローシュハットが一番女性を感じられるアイテムだったのでは?

内に秘める気持ちの表現手段

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

アイナーが抱えるトランスジェンダーという悩みに対して、ファッションはどのように寄り添ったのでしょうか?
それは自分自身の内に秘める気持ちの表現手段だったのではないかと思います。
表層的な女性服や男性服を着用することでの満足感は確かに大きくもありますが、「アイナー=リリー」からは、内に秘める気持ちを隠す鍵や、女性の恋心を映し出すアイテムとして、ファッションがとても重要な役割を担っていたように思います。

ファッションは自身のアイデンティティを表現する手段ですが、表層的には分かりえない深いメッセージをディティールやアイテムに込めるものです。
そういったメッセージをファッションから読み解ける人が一人でも多くなれば、素敵な個性を持つ人にとってもっと寄り添う事が出来る社会になるのではないでしょうか?

『リリーのすべて』

Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税 発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2018年10月の情報です。

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。
文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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