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COLUMN
Nov. 12, 2020

【映画にみるファッション】『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
-個性とディティールの関係性-

コラム「映画にみるファッション」。
ルイーザ・メイ・オルコットの小説「若草物語」を、シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメ等、若手実力派俳優の共演で映像化し、今年のアカデミー賞では作品賞等6部門にノミネートされて話題となった『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

世界的大ベストセラー「若草物語」

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

1860年代のアメリカ・マサチューセッツ州を舞台に四姉妹が自分らしく我が人生を生きていく様が語られる小説「若草物語」。

これまで何度も世界中で映画化やTVドラマ化されて愛されてきた名著の最新映画化作品である本作は、2020年のアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞しています。

衣装を担当したのは、過去にアカデミー賞受賞歴もある衣装デザイナーのジャクリーン・デュラン。

真のプロフェッショナルは、それぞれのキャラクターを衣装でどうやって引き立てたのでしょうか?

革新的なアイテムの開発がリバイバルブームを産み出した。

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

18世紀、極端にウェストをコルセットで絞り上半身はボディラインにぴったり合わせて仕立て、スカートを大きく膨らませたローブ・ア・ラ・フランセーズというドレスが登場し、マリー・アントワネットをファッションリーダーにロココ・スタイルが流行します。

そこから約100年がたった本作の舞台である1860年代は、ロココ・スタイルのリバイバルである新ロココ・スタイルとして「クリノリン・スタイル」が登場するのですが、四姉妹のファッションこそがそのクリノリン・スタイルなのです。

クリノリンとは、鯨ひげや針金を輪状に重ねたフープ(枠)に、馬毛と麻で織った布地を張りつけた下着です。

それまでペチコートという下着を、重ねで着用することでしか作れなかったドーム型のシルエットを、クリノリンを使用することで誰もが楽に容易に作れるようになり下半身に纏わりついていた何層ものペチコートによる重さから女性は開放されたのです。

だからこそ古き良きスタイルが廃れるのではなくリバイバルされたのではないかと思います。

いつの時代も使用する人を楽になりたい、楽にしてあげたいという心意気が革新的なアイテムの開発に繋がるのです。

四姉妹の個性

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

クリノリン・スタイル全盛の時代であっても、四姉妹にはそれぞれ違ったキャラクターが感じられます。

次女のジョー(シアーシャ・ローナン)は、男性のように自分を追求するような女性です。

そんなジョーだからこそ、基本的にはクリノリンもコルセットも使用しない中性的なファッションで、服地の柄も女性的な華やかな柄ではなくチェックを好んでいて、色も男性的な強い色味を選んでいるように見えます。

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

長女のメグ(エマ・ワトソン)は、ロマンチックで愛に生きるような女性で、ファッションは当然のごとくクリノリン・スタイルを楽しんでいます。

服地の柄もジョーとは対照的に、華やかな女性的な柄や淡い色味のものを好んでいるように見えます。

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

三女のベス(エリザ・スカンレン)は、内向的だけど人にやさしい女性です。

内向的な上に病気がちなベスは、着ていて楽な服装で過ごしています。

しかし心が綺麗で人に優しいベスは、柔らかくて優しいピンク色のファッションが印象的です。

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

四女のエイミー(フローレンス・ピュー)は、実利主義のしっかりものの女性です。

ファッションもクリノリン・スタイルですが、リメイク・リバイバル感を感じさせない、最先端のデザインディティールやカラーセレクトのファッションをセレクトしていて、流行に敏感でセンスを感じさせてくれます。

 

古き良き時代のファッションを現代人が観るとどれも同じように観えてしまいますが、昔から人々はファッションを楽しんできました。

四姉妹のファッションにも、それぞれの個性がしっかり表現されていて、しっかりとファッションを楽しんでいることが感じられます。

ファッションのディティールとは

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

映画の中では、ファッションは目立ものではなく登場人物をひきたてる演出アイテムです。

そこに必要以上の意味を探る必要はないのかもしれませんが、二度三度映画を見返した時にファッションが物語の伏線になっていたりすることに気づくと余計に楽しくなったりワクワクしたりするのも事実です。

「若草物語」の主人公である四姉妹のファッションには、それぞれのキャラクターが読み取れるようなディティールが溢れています。

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

表層的でわかりやすい、○○風、○○スタイルは、単なるカテゴライズでしかなく、その中で自分自身が投影されてくるのが、細部のディティールです。

そのディティールのちょっとした組み合わせの妙やセレクトこそがセンスの正体です。

だからこそカテゴライズごとにファッションリーダーが存在するのです。

ファッションのディティールとは、衣服の作り手だけではなく着る人本人からのメッセージがあるからこそ映画の中の登場人物達のファッションに注視することで、謎が深まり二度三度映画が観たくなるのです。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』発売中

Blu-ray 4,743円(税別)

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

© 2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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