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COLUMN
Jun. 19, 2018

【映画にみるファッション】『ブレードランナー 2049』
―ファッションの未来―

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回は伝説のSF映画『ブレードランナー』の30年後を描き、2018年のアカデミー賞で視覚効果賞等3部門に輝いた『ブレードランナー 2049』。
本作をファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

ファッションの未来はどのように進化しているのか…?
世界中を熱狂させた『ブレードランナー 2049』が描く未来のファッションを、さっそく紐解いていきましょう。

SF映画の醍醐味は未来を感じること

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

SF映画と言えば、テクノロジーの進歩で進化した未来の街並みや乗物を先ずは想像されると思いますが、人物が登場するということは必然的に未来のファッションも登場します。

未来を描くということは、時に進化だけでなく、行き過ぎた進化の果てに荒廃が描かれることもあります。
未来のファッションもファッションを取り巻く環境の変化や進化に左右されるものです。
『ブレードランナー 2049』が描く未来の世界では、どんなファッションの変化や進化が起きたのか想像してみましょう。

デザインの進化はミクスチャー

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

ライアン・ゴズリングが演じる主人公のブレードランナー(※注1)Kの印象的なファッションといえばコートです。

素材は防寒性に優れるムートンの様な素材で、丈は膝丈、襟元を立たせて閉めれば口元まで覆うことができるなど、一見現代にもあるアーミーコートデザインですが、ショルダーの作り込みや補強の仕方はアーミーというよりライダース仕様になっている点が注目です。

現代のデザインが無くなって全く新しいデザインが生まれるのではなく、デザインや機能に優れたものをミックスするミクスチャーデザインで進化を表現しています。

心情とファッションの因果関係

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

デザインディティールでポイントとなっているのが襟です。
シルヴィア・フークスが演じるレプリカント(※注2)のラヴは、襟がソリッドにそびえ立つスタンドカラーを着ていて、その襟が冷酷さや不気味さを際立たせる演出に一役買っています。

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

Kの上司であるジョシ(ロビン・ライト)も秘密を抱え守る立場であるがゆえに、ハイネック気味のロールカラーを着て首元を隠すことで、真相を守る盾の役目を襟がしているのではないでしょうか?

現代でも心が開放的になるとファッションも覆い隠すものが削ぎ落とされます。
そして、心の内に隠したいものがある時は自然と肌をファッションで覆い尽くして、強い意志を持ちたい時は襟を正すという言葉の通りに襟元がソリッドになってくるものです。

未来のファッションでもそういった人間の心情が襟元に映し出されています。
心情とファッションの因果関係は、現代でも未来でもあまり変わらないのかもしれません…。

進化しながら現存させていく

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

未来を描く映画のファッション・テキスタイルの定番といえば透明ビニール素材です。

Kの良き理解者であるジョイ(アナ・デ・アルマス)もビニール素材のシャツで登場しますが、そういった定番の素材がある一方で、レプリカントの開発者であり大富豪のウォレス(ジャレッド・レト)は日本的な作務衣(さむえ)を着ています。
特筆すべきはそのテキスタイルで、現代の作務衣では使用しない絹で織られた最高級の古代ちりめんを使用しています。

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

未来に絹を生み出す蚕が生存しているのかはわかりませんが、仮に蚕が絶滅しようともテクノロジーの進化で絹という紬は現存させて、古くから伝わる本当に優れたテキスタイルはそのままの表情で残っていくのではないでしょうか?

ファッションサイクルの終焉が起きる時

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

本作が描く未来のファッションを紐解いていくと、人類の知恵や経験から生まれたデザインやテキスタイルが、時代に応じて絶妙にアレンジされ繰り返されるファッションサイクルが、現代から続いていることがわかります。

それくらい現代のグローバル社会の中で生まれ紹介されたファッションは完成されたものであり、人類の価値観に大きな変化が起こらない限りは、このファッションサイクルにも大きな変化は起こらないということを『ブレードランナー 2049』では描いているのではないでしょうか?

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もし近い将来に、本作の更なる続編が誕生して人類の価値観に大きな変化が起こった瞬間を描いたとするならば、ファッションは一体どのような変化をするのでしょうか…。

注1)ブレードランナー=レプリカントを取り締まる捜査官
注2)レプリカント=本シリーズにおける人造人間の総称

『ブレードランナー 2049』

発売中
Blu-ray 4,743円(税別)
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。
文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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