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COLUMN
May. 15, 2018

【映画にみるファッション】『ロスト・イン・トランスレーション』
―ファッション性の高い映画とは?―

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
2004年のアカデミー賞で、作品賞/監督賞/主演男優賞/オリジナル脚本賞の主要4部門にノミネートされ、アカデミー賞脚本賞を受賞するなど映画として高い評価を受ける一方、公開当時ファッション性の高さにも注目を浴びた『ロスト・イン・トランスレーション』。
本作をファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

ファッション性の高い映画とは?

『ロスト・イン・トランスレーション』と聞いて、ファッション性の高い映画であると答える人は少なくないと思います。

しかしながらビル・マーレイ演じるハリウッドスター「ボブ・ハリス」は、劇中で赤い迷彩Tシャツを着用し「中年の危機って感じ」と言われるなどファッションをからかわれています。

一方で、スカーレット・ヨハンソン演じる若い人妻「シャーロット」も特別感のないシャツやニットを、コンサバに着こなしていて、主演の二人は劇中を通して洋服を着飾っているわけではないのです。

では『ロスト・イン・トランスレーション』がファッション性の高い映画という評価を受けているのは何故でしょうか?

ガーリーカルチャーという「ブランディング」

監督のソフィア・コッポラと言えば、ガーリーカルチャーを代表する映画監督。

本作品でもそのガーリー感が随所に発揮されていて、中でもスカーレット・ヨハンソンのヒップが映し出されるオープニングが象徴的です。

インパクトある描写と共に、着用するショーツやTシャツの色や透け感のセレクトが女性ならではで、強烈にソフィア・コッポラの個性が発揮されており、ガーリーカルチャーが本作品の「ブランディング」にまで発展しています。

「憧れ」のパークハイアット東京

『ロスト・イン・トランスレーション』のメイン舞台はパークハイアット東京。

昨今では、様々な外資系ラグジュアリーホテルが東京には存在します。
しかしながらどのラグジュアリーホテルよりも前にオープンして、その後の東京・ラグジュアリーホテルカルチャーが産まれる源流になったのがパークハイアット東京です。

人々は、カルチャーの源流だからこそパークハイアット東京に「憧れ」て、劇中のように最上階のシグニチャーレストラン ニューヨークグリルで、一時のバータイムを楽しむことに「共感」できるのです。

空気感を「情報」としてインプット

『ロスト・イン・トランスレーション』の魅力の一つは、リアルなTokyoの空気感を描いたことです。

本作品では、トーキョーポップカルチャーの顔役と言える人達が大勢カメオ出演しています。

ソフィア・コッポラは、若かりし頃バックパッカーとして東京に滞在して、本作品でカメオ出演したトーキョーポップカルチャーの顔役ともいえる人物達と交流があったと聞きます。

その時にトーキョーポップカルチャーの空気を敏感に感じて、その空気感を「情報」として自身にインプットしたことで、リアルなTokyoの空気感を本作品で描くことが出来たのです。

服を「スタイリング」するような感覚

『ロスト・イン・トランスレーション』は、ボブとシャーロットによる物語です。

しかし二人の物語は言うならば人体であって、そこに「ガーリーカルチャー」「パークハイアット東京」「トーキョーポップカルチャー」など様々なピースを、まるで服をMIXして「スタイリング」するような感覚で二人の物語に纏わせたことで、より魅力的な作品へと昇華させています。

今求められるのは「ファッション感覚」

現代では、アパレル産業の製品だけではなくて、多くの産業の製品がファッッション製品化されています。
まるでファッションを楽しむように、その製品を人々に好意的に受け入れてもらう為の鍵となるのが「ファッション感覚」です。
本作品を通して「ファッション性の高い映画とは?」を紐解いてみると4つの要素に辿り着きました。

1.個性を自己主張として打ち出せる「ブランディング力」

2.憧れや共感を産み出す「共感力」

3.時代の空気に敏感な「情報力」

4.異なるピースをスタイリングする「編集力」。

これらの「力」は、正に今求められている「ファッション感覚」を形成する要素です。

『ロスト・イン・トランスレーション』は、バランスの良い「ファッション感覚」をベースに製作されました。だからこそ「ファッション性が高い」=「人々に好意的に受け入れられる要素を持ち得た」ことで、高い評価を得たのではないのでしょうか。

ファッションとは、衣服だけを指すものではないのです。

『ロスト・イン・トランスレーション』

DVD発売中
価格:3,800円+税
発売元・販売元:㈱東北新社
© 2003 LOST IN TRANSLATION INC.

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。
文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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