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COLUMN
Oct. 29, 2019

【映画にみるファッション】『キングスマン』
—紳士になる為にキングスマンから学ぶべきもの-

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回は、派手な戦闘シーンとポップな音楽で世界的大ヒットスパイ映画『キングスマン』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。
2020年の2月14日、バレンタインデーにシリーズ3作品目『キングスマン:ファースト・エージェント』の公開が予定されています。記事を読みながら1作品目から振り返ってみてはいかがでしょうか。

テーラーの知られざる役割

© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved.

ロンドンのサヴィル・ロウにある高級テイラー「キングスマン」。
その実態はどの国にも属さない世界最強のスパイ機関だった!

ロンドンのサヴィル・ロウとは、オーダーメイドでスーツを仕立てる沢山のテーラーが軒先をならべるテーラーの街であり、日本ではスーツを「背広」と表現されることがありますが、この諸説ある語源の一つが、サヴィル・ロウが訛って背広になったと言われる程に歴史は古く、メンズファッションに造詣が深い紳士や、そういった紳士に憧れる男性にとって、ロンドンのサヴィル・ロウとはメンズファッションの聖地。
劇中では高級テイラー「キングスマン」が副業として、スパイ機関を始めたとありますが、実は無理なこじつけではないのです。

© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved.

英国では今尚身分制が色濃く残り、サヴィル・ロウのテーラーでスーツを仕立てられるのは、昔から現代に至るまで王族や貴族、アッパークラスなどの一握りの選ばれた紳士のみです。
そして聖地だからこそ、英国人だけではなく、世界中の選ばれた紳士もサヴィル・ロウのテーラーに集まります。
それはつまり、世界を動かす財力や影響力を持ち得る人々が顧客であるという事。
そしてあまり知られていないテーラーの役割として、実は紳士同士のサロンとしての機能があります。
顧客はテーラーに採寸や仮縫い納品だけで足を運ぶのではなく、ちょっとした待ち時間に、紅茶や時にはシャンパンを片手に顧客同士で会話をし、力を持つ者同士の新たな交流が生み出されるのです。

世界を動かす財力や影響力を持ち得る人々が、秘密裏にスパイ機関を作り、そのキッカケとなったテーラーに運営を任せる。それが「キングスマン」誕生のキッカケである―。
あながち夢物語ではないのではないでしょうか???

紳士スタイルを学ぶなら英国スタイル

© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved.

「キングスマン」の諜報部員であるハリー(コリン・ファース)は、英国の諜報部員の代名詞ジェームズ・ボンドと同等かそれ以上に英国紳士ファッションの教科書のような存在です。
スーツは、英国的仕立てが色濃く反映されたダブルブレステッドデザインで、しっかりとした芯を使った胸元のドレープ感・シェイプを強く強調させたハイウェスト・立体的な袖付など、それぞれに深い理由がある伝統的な英国仕立ての特徴が色濃く反映されているうえに、セレクトする生地は、英国的王道であるネイビーやグレーのピンストライプ、グレンチェック。まさに英国的や・サヴィル・ロウ的スーツとはという質問に対して100点回答なスーツをハリーは着用しています。
そしてメガネも典型的なウェリントン型やボストン型などではなくて、60・70年代に英国ブランドであるオリバーゴールドスミスやカトラーアンドグロスなどが数多く生み出していた、典型シェイプの変形型セルロイドタイプのメガネを着用するなど細部にも英国的から外れていないのです。
さらに、武器になる紳士アイテムも、靴や傘、万年筆、ライターに至る小物まで英国ブランドを感じさせてくれる上に、紳士の持つべきアイテムとは何かを教えてくれているようです。

© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved.

紳士スタイルとは、紳士のスーツスタイルと言っても過言ではありません。
その紳士スタイルには、大きく国によって区別されます。英国、イタリア、フランス、米国、日本。
その中でも紳士スタイルのルーツともいえる英国紳士スタイルを体現しているのがハリーのスーツスタイルです。ハリーのスーツスタイルは一見とても個性的なスタイルに見えてしまいますが、実は昔からの伝統に則った普遍的なスタイルです。
昨今はルーツやルールを理解していないような着崩したスタイルが、もてはやされていますが、着崩す為にはベースとなる基本形を知らなくては、かっこよく着崩せないものです。
だからこそ紳士たるものはハリーのスタイルから今一度、紳士スタイルの基礎を学ぶ必要があるのです。

紳士スタイルには、細部に渡って意味がある

© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved.

劇中に登場するファッションアイテムの中で、さらに深い意味を感じさせてくれるアイテムがハリーのネクタイであり注目すべきポイントはストライプ柄です。
このストライプのネクタイはレジメンタルタイと言われる種類のものですが、「Regiment=連帯」から名付けられた名称です。
これは英国の各軍連帯に伝わる連隊旗にちなんだ斜めストライプをルーツに生まれた柄模様で、連隊旗ということであれば16世紀に生まれたとても歴史ある伝統的な柄模様です。
英国の伝統的な紳士スタイルで登場するハリーにはうってつけの柄模様でもありますが、忘れてはいけないのが、連隊旗から派生したという点です。
実はハリー以外も「キングスマン」のエージェントは会議の際には、皆同じ柄のレジメンタルタイを締めて登場します。これは「キングスマン」という組織・チームのメンバーである証としてこのレジメンタルタイを締めているのです。
だからこそ、まさかの裏切りをする組織の幹部であるあの人は、メンバーである証のレジメンタルタイをしていないのです。

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紳士スタイルには、細部に渡って意味があります。
特に伝統的な英国紳士スタイルには、長い歴史がありとても深い意味やメッセージがあるのです。
だからこそ時には、それが暗黙のルール説明になっています。さらに深いメッセージ発信にもなっています。

英国紳士スタイルを深く知るということは、そこに込められたとても深い意味を解読する鍵に繋がるのです。

『キングスマン』発売中

Blu-ray:¥1,800+税
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC. All rights reserved.

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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