ログイン
MAGAZINE
COLUMN
May. 03, 2020

【映画にみるファッション】『ブラック・クランズマン』-ファッションは主張を語るもの-

コラム「映画にみるファッション」。
今回は黒人刑事が白人至上主義団体「KKK」に潜入捜査したウソのような実話を元に、2020年9月公開予定のクリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』のジョン・デヴィッド・ワシントンと『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のアダム・ドライバーが共演した映画『ブラック・クランズマン』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

実話を背景にした強烈なメッセージ

© 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

1970年代のアメリカ・コロラド州で唯一採用された黒人刑事が、白人至上主義の過激派団体「KKK(クー・クラックス・クラン)」に潜入捜査の為に入団して悪事を未然に防ぐ為に奮闘するノンフィクション小説を、ブラック・ムービーの礎を築いてきたスパイク・リー監督が映画化。

潜入捜査をコミカルかつ軽快なタッチで描きながらも、現代でも未だ蔓延している人種差別問題を、実話を背景にすることで強烈なメッセージを私たちに訴えてきます。

さて、そのメッセージとファッションには、どんな因果関係があるのでしょうか?

襟を正す

© 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

主人公ロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)のファッションで印象的なのは「襟元」です。

シャツもアウターの外に襟を出したり、ニットも襟元がポイントのタートルネックだったり、アウターも襟元に存在感のあるムートンボアだったりととても印象的です。

一見ロンはアフロヘアに印象がいきがちですが、良い意味で襟元のアクセントがアフロヘアのインパクトを中和していて、個性的だけど嫌に目立ち過ぎないファッションを完成させています。

しかしロンの襟元には、単なるファッションポイントとしてだけでない意味を感じるのです。
ロンはアメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署で、初の黒人刑事として採用されるも、署内の白人刑事から冷遇されていました。
だからこそ人種を代表して地位向上の為に職場で一人戦っていたのだと思います。

乱れたファッションは人種の印象を悪くするから「襟を正す」-。
諸悪に負けないように気持ちを引き締めるために「襟を正す」-。

私たちも、襟がある衣服を身につける時は、襟なしの衣服とは違い特別な感じや誠実なイメージを抱くものです。

チェック柄で多くを語る

© 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

ロンの代わりに、KKKに潜入捜査をするフリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)にも印象的なファッションがあります。

フリップもロンと同様に襟があるシャツを常に着用しているのですが、タータンチェックやバッファローチェックなどのチェック柄です。
襟があるシャツという括りでいうならプレーンな単色のシャツをローテーションに加えていいと思うのですが、彼は常にチェック柄のシャツを着用しているのです。

プリント以外で、ファッションで用いられる柄は、無地、ドット柄、縞模様、格子模様などに分けられます。
その中でも格子模様は、英語でチェスの盤面になぞられてチェックと呼ばれ、圧倒的なバリエーションが存在しています。
中にはグループや階級のアイデンティティとしての役割を持つようになるものもあるのですが、その代表格がスコットランド発祥の「タータンチェック」です。

他者との違いが明確に区別できる服を身につけることで氏族を伝えるタータンチェックは、日本の家紋の役目を果たしていました。

また「バッファローチェック」は、威嚇の機能や、猟師が山中で人と獲物を誤認するのを防止するため発案されたなど諸説ありますが、模様でありながら意味・機能を擁するチェックです。

フリップがそのチェック柄の出自を知りファッションに取り入れたかは分かりませんが、潜入捜査官として常日頃からユダヤ人でありながら多くを語らず誇らない彼は、まるで立場や立ち振る舞いをチェック柄で語っているかのようです。

自分自身を装飾する理由

© 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

劇中、ロンは様々なシーンで大ぶりなジュエリーを身につけています。
ブラックパンサー党の女性幹部パトリス・デュマス(ローラ・ハリアー)も、大ぶりなジュエリーを身につけています。

ロンやパトリスのジュエリーは、とても威厳があったりチャーミングな印象ですが、そこにしっかりと意味があることに気づかされます。

ジュエリーは、自分自身を装飾する装飾品です。

人によって装飾する理由はそれぞれですが、人種差別と戦う彼らは、相手に自分を対等な存在として認めさせるために、上品で洗練された人物に見せる必要もあったのです。

脳が覚えるのではなく身体が覚える

© 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

『ブラック・クランズマン』は、潜入捜査をコミカルかつ軽快なタッチで描きながらも、実話を背景にした人種差別問題がテーマの作品でした。

劇中のファッションを紐解くと、その背景には様々なメッセージが隠されているように感じられます。

それは、意図してファッションにメッセージを込めたものもあれば、意図しないでもメッセージが合致したケースもあるとは思います。

しかし何故そういった意図しない合致がファッションには起きるのでしょうか?

それは自分自身のルーツや育った環境などで自然と得た価値観から、何気なくそのファッションに秘められた意味を、知識として脳が覚えるのではなく、身体が覚えるからです。

多くのことを雄弁に語ることができる人は一握りもいないでしょう。しかし、多種多様な人々に共通しているのは、そのファッションでも自分自身の主張を語れるということです。

言い換えれば、ファッションでも自分自身の主張を雄弁に語れるように目指すべきなのです。

『ブラック・クランズマン』

Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 2018 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
※ 2020 年 4月の情報です。

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ