コラム「映画にみるファッション」。
今回はティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメスという実力派若手俳優が共演し、新型コロナウイルスの影響で海外旅行に行けない今、屈指の人気旅行先であるニューヨークの魅力が存分に味わえる映画でもある『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。
©2019 Gravier Productions, Inc.
本作の監督は、長年ニューヨークを舞台にした作品を撮り続けている名匠ウディ・アレン。
彼の作品の特徴は、ホームタウンであるニューヨークと、主人公がその飾らなくて変わらない監督自身のファッションを投影したかのようなファション!
本作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』もまさにその特徴をしっかりと抑えた作品です。
しかし毎回同じ特徴をトレースしているだけかと言えばそうではなく、大好きで変わらずに欲しい物ではあるけれど、しっかり時代の空気という変化を絶妙に汲み取りアップデートをしているからこそ、そこにはニューヨークの“今”、ファッションの“今”を、毎回感じさせてくれるのです。
©2019 Gravier Productions, Inc.
主人公のギャツビー(ティモシー・シャラメ)は生粋のニューヨーカー。しかしどこか儚さや脆さなどを持ち合わせています。
だからなのか、一見すると若者が着なさそうな懐古主義的ファッションもうまく着こなしているのです。
カラーはベージュ、ブラウン、バーガンディ、モスグリーンなどアースカラーが中心で、アーバンなブラックやネイビーなどは一切入ってきません。
素材もコットンやウールなどの天然素材が中心で、スポーティーなナイロンなどの化学繊維は着用せず、ジャケットに関しては昔ながらのヘリンボーンのツイードジャケットを愛用と、アイテムだけで判断してしまうと、まさに”おじさんファッション”の特徴がずらりと並んでいます。
それでも、ギャツビーはオシャレなんです!
その秘密は「着崩し」「スタイリング」です。
ツイードジャケットにダンガリーシャツとニットタイを合わせるのは、古き良きメンズファッションです。
しかしギャツビーは、バーガンディーのTシャツをダンガリーシャツの中に着るのですが、第2ボタンどころか第5ボタンまで開けてかつタックインしているのです。
そこまで開けるのならシャツを閉めないでタックアウトすればよいと思ってしまいますが、この着崩しで実はジャケットのVゾーンにしっかりとしたアクセントが生まれています。
本来ならジャケットのVゾーンはネクタイで演出するものですが、着崩しで演出するあたりは、現代のロックスピリッツなファッションと相通じるのです。
©2019 Gravier Productions, Inc.
ヒロイン達のファッションも物語をしっかり支えるエレメンツになっています。
アシュレー(エル・ファニング)は、パステル系カラーのニットにシャツを着込みチェックのプリーツスカートを合わせていますが、どこか垢抜けない印象は拭えませんが、それもこれもアリゾナ出身で、銀行家の令嬢という役柄故のファッションです。
そして唯一と言っていい若者らしいアイテムがミニのプリーツスカートですが、ここにはニューヨークの雨のなか、様々な出会いを通して翻弄されながらも奔放に行動する様を表現したかったのではないでしょうか?
©2019 Gravier Productions, Inc.
対して、もう一人のヒロインであるチャン(セレーナ・ゴメス)は、流石ニューヨーカーといえる洗練されたファッションを魅せてくれます。
白Tにパープルのミニスカート、オレンジのニットにエンジのレインパーカーなど、アイテムはシンプルイズベストを体現するものしか登場しないのですが、とにかくカラーコーディネートがとってもキュート!
ミニマルなアイテムの中に真似したくてもなかなか真似できない色の配色に、ニューヨーカーならではといえる時代を読む力や洗練されたファッションセンスを感じさせるのです。
さらに、本作はニューヨークと雨がコラボレーションした作品です。
チャンが着るエンジのレインパーカーにも特別なメッセージを感じずには入られないのです。
©2019 Gravier Productions, Inc.
改めて”ウディ・アレンの作品の特徴”と言えば?
ニューヨークが舞台で主人公が監督自身のファッションを投影したかのような姿で登場する、そんなイメージを持っていますが、ウディ・アレンが稀代の映画監督と言われる所以は、好きなものを大切にするもその捉え方や表現の仕方を毎回アップデートしていることではないでしょうか?
例えば、ギャツビーのツイードジャケットは素材やフラップ付きのパッチポケット、ナットボタンなど懐古主義的な特徴をしっかり抑えながらも、細いラペルやハイゴージで現代的なデザインにアップデートされたツイードジャケットです。
チャンの着るレインパーカーも、現代的という観点でいえば、アウトドアブランドのソリッドなレインパーカーを着用するのがお約束ですが、あえて一昔前のゴム引きレインパーカーのような雰囲気のものを着用しているのです。
そこには、「古いだけでも駄目、新しいだけでも駄目、それぞれの良いところを上手に取り入れなさい」というウディ・アレンからのメッセージを感じずには入られないのです。
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
監督・脚本:ウディ・アレン
Blu-ray¥4,800+税
DVD¥3,800+税
発売中
発売元:バップ
©2019 Gravier Productions, Inc.
Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)
新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。
文化服装学院 非常勤講師
Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp