今年7月、国際短編映画祭 SSFF & ASIA のオンライントークセッションの一環として、「コロナ禍の海外映画祭事情を紐解く特別インタビュー」が実施されました。先日公開したコロナ短編映画祭につづく2本目をお届けします。
2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件をうけて、ニューヨークの復興を願って2002年にロバート・デ・ニーロらによってスタートしたトライベッカ映画祭。フェスティバル・ディレクターのカーラ・クスマーノ(Cara Cusumano)氏に、延期やオンラインでの受賞発表に踏み切った経緯、そしてWe Are One A Global Film Festivalとの取り組みやオンラインでの展開から見えてきた新しい映画祭の形について訊きました。
公開インタビューのアーカイブ
東野 皆さん、こんにちは。SSFF & ASIAの東野正剛です。Withコロナ・Afterコロナの映画産業をテーマにしたオンライントークセッション、海外インタビュー第2回のゲストは、トライベッカ映画祭のフェスティバル・ディレクター、カーラ・クスマーノさんです。前回お会いしたのはトライベッカ映画祭で、確か3、4年前でした。その前にSSFF & ASIAでもお会いしました。
クスマーノその通りです。とても楽しかったですね。
東野最後にお会いした時から世界は一変してしまいました。今日はトライベッカ映画祭についてたくさん質問させてください。まず簡単に自己紹介をお願いします。
クスマーノカーラ・クスマーノです。トライベッカ映画祭のディレクターとして、13年間参加しています。トライベッカテレビ映画祭も過去2年監修し、年間を通して映画やテレビのイベントにも携わっています。
東野映画祭について詳しいお話を聞く前に、NYの新型コロナウイルスの状況を教えてください。街のロックダウンで悲惨な状況だったとお聞きしていますが、現状はどうですか?
クスマーノかなり良くなってきました。NYはアメリカでも感染拡大の時期が非常に早く、そのタイミングで映画祭の延期を決める必要がありました。患者数は3月に急増しましたが、みんなが自分の行動に責任を持ってこの状況に対応したおかげで、かなり安全になり、明るい兆しが見えています。屋外のレストランは営業を再開し、ドライブインシアターも開いています。時間をかけて、安全に元に戻る方法を模索中です。
東野それはよかったです。今日はclass=”“nameB””>クスマーノさんが主催した映画祭、“We Are One”についてお伺いします。トライベッカ映画祭は通常4月の開催ですが、今年はトライベッカ映画祭の代わりに“We Are One”を開催されました。この“We Are One”はどのようなきっかけで始まったのですか?
クスマーノ3月に映画祭を延期するかどうか判断する必要がありました。そしてこの状況の中で、映画製作者や団体になにか提供できないかすぐに考えました。“We Are One”はその一環です。真っ先に実現させたのは、映画祭のプログラムをバーチャル版にして、オンラインで体験できるようにしたことです。“We Are One”のアイディアを思いついたのは、映画祭の設立者のジェーン・ローゼンタールです。世界中にいる大勢の観客と映画祭関係者をつなげようと考えました。トライベッカ映画祭は、米国同時多発テロの直後に発足させた映画祭で、映画で人々を癒すことを目的に始まりました。そして今まさにこの癒しが必要だと感じたので、私たちはこのオンライン映画祭を開催することにしました。映画が与えてくれる力で、人々を繋ぎ団結させて、自粛生活で孤独を感じる人々に安らぎを提供したいと考えたのです。
“We Are One”は、トライベッカ映画祭に倣い、革新的な技術を用いた映画祭となっています。トライベッカ映画祭では、早くからVR部門やテレビ部門を設け、ポットキャストも使用するなど、常にスクリーンの様式にとらわれずに作品を披露してきました。ですからオンラインへの移行は、体制も整っていたので、自然な流れだったのです。
東野チームの皆さんは、“We Are One”の開催をいつ頃決定しましたか?ウェブサイトを開設するまでどのぐらい準備期間が必要だったのでしょうか?
クスマーノとても早かったです。映画祭開催の早さでは世界記録を更新したかも。ジェーンは映画祭の延期が決まって数日以内に、イベントパートナーのYouTubeと協議しました。その2週間後に映画祭側に働きかけたので、まだ3月か4月頃だったと思います。みんなの思いもあって短期間で準備でき、イベント自体は5月に開催されました。誰もがすぐに行動を起こしてくれて、映画祭側も映画製作者たちも非常に協力的でした。彼ら自身も映画祭の延期や中止に直面していたので、我々のために時間を割いてくれたのです。
カーラ・クスマーノ(Cara Cusumano)
東野カンヌやロカルノの国際映画祭をはじめ、東京国際映画祭とも共に取り組んでいらっしゃいます。このアイディアに対する彼らの反応はどうでしたか?とても協力的だったのでは?
クスマーノそうですね。特定の地域に絞り込まない、国際的なイベントであることが重要でした。世界中のどこにいても同じものを鑑賞できますし、自分たちがよく知るコミュニティーの映画祭を、世界に向けて公開できるのです。みんなが協力し、一致団結して意欲的に取り組んでくれたと思います。これはとても自然で正しい流れで、映画祭として我々が提供できるのは、“観客に映画を公開して人々をつなげる”ということですから。結果として、国際社会にまったく新たな影響や価値観を、全く新しい方法で与えたのです。そしてこれは非常に魅力的で大切なことだと思います。
東野素晴らしい。開催期間は10日間でしたね。トライベッカ映画祭の授賞式もオンライン上で行われましたが、どうでしたか?トライベッカ映画祭ではレッドカーペットがあってセレブたちが勢揃いします。オンライン上での授賞式では難しい点などはありましたか?
クスマーノ反響はとてもポジティブで、人々の優しさや熱意が伝わってきました。参加していただいた審査員の皆さんは、通常は映画祭に足を運び、プレミアなどに出席されます。自粛生活で急遽審査方法を変更したにもかかわらず、彼らは映画制作者たちのサポートに徹してくれました。もちろん自宅からできることを含めてです。審査員や映画制作者はほぼ全員が賛同してくれて、プレミア上映は無理でしたが、審査員に映画をみせ、全ての賞を授与しました。今後受賞した作品が配給契約を結んで、最終的に観客の心に届くという、通常の映画祭と同じ役割を果たすことができたら嬉しいです。
東野素晴らしい。我々は日本の映画祭の関係者なので、海外での日本映画の評判はとても気になるところです。今年のトライベッカ映画祭で日本の作品はありましたか?短編映画も含めて。
クスマーノ『アイヌモシリ』が審査員特別賞を受賞しました。それから“We Are One”のために制作された深田晃司監督の短編映画『ヤルタ会談』もありました。映画祭で上映した作品は名の知れたものが多いですが、新作が2つありました。『ヤルタ会談』はこの映画祭のために制作されたので、特に刺激的な映画でしたね。東京国際映画祭に参加の打診をした際に、制作中のこの映画を提案され、非常に楽しみにしていました。結果的に人気の高い作品のひとつになりました。
東野それは嬉しいですね。次は短編映画について質問させてください。毎年多くの短編映画の応募があると思いますが、トライベッカが求める作品はどういったものですか?
クスマーノ短編プログラムの専門チームがありますが、担当はご存知のシャロン・バダルとベン・トンプソンです。彼らは短編映画の素晴らしいキュレーターですが、我々に似た観点を彼らも求めていて驚きました。今までにない斬新な意見があり、他と異なる作品です。我々も多くの映画を観ますが、彼らはシーズンごとに何千もの映画を観ます。そうすると似たストーリーや芸術的手法に気がつくので、独自のビジョンや目新しい内容であればとても目立ちます。個人的には短編の良さがでる作品が好きで、予想外の結末になる形式を取り入れてみた作品や、長編映画用に作られていない作品などが気に入っています。短編映画に適した形式だと、短編ならではの良さが出ます。
東野「どんな短編映画が好きですか」と次に質問する予定でしたが、もう答えていただきましたね。
クスマーノショートコメディーもいいですね。ご存知の通り、短編映画のジャンルはドラマが多く、またドキュメンタリーよりも物語映画が多いので、異なるジャンルは歓迎します。ここ数年はSFホラーの短編プログラムが人気なので、嬉しいですね。短編映画でもいろいろなトーンやジャンルに挑戦して欲しいです。
東野SSFF & ASIAでは短編映画を扱っていますが、商業コンテンツとなる映画は僅かです。今はYouTubeやNetflixといったメディアが存在します。しかし短編映画は映画制作者にとって、まだ長編を作る準備段階に感じます。将来の短編映画の可能性をどのように考えていますか?主要な商業コンテンツのひとつに、今後なると思われますか?
クスマーノ従来あった短編と長編の壁が年々低くなっているように感じます。長編映画、テレビシリーズ、短編映画など、今後は区別する意味がなくなると思います。1時間×6エピソードの作品でも、15分の作品ひとつでも、長さは内容に適していればそれでいい。視聴者は受容的になっていて、素晴らしい短編映画があれば、人々は受け入れるはずです。ロックダウンという状況下に我々は置かれていますが、ウイルスが映画の制作方法を変えることは間違いありません。人々が観るものはすでに変わってきていて、例えばVRは多くの人が受け入れています。それに従来のように映画館での鑑賞ができないので、観客は必然的に別のコンテンツを求めざるを得ない状況です。クリエイターたちには絶好の機会です。“A Short Film a Day”という、トライベッカ映画祭で大成功したプログラムがあります。多くの映画祭が中止や延期になる中で、シャロンが選んだ卒業生の短編を毎日公開しました。明るい映画で、現状から意識をそらすのが目的でしたが、我々の過去のプログラムをはるかに超える反響の大きさでした。ですから今は映画関係者にとって絶好の機会だと思います。
東野撮影で使用するデバイスも変わりつつあります。特に短編映画に多いのですが、撮影や制作をスマートフォンで行っているものもあります。応募してくる短編映画にそのようなトレンドなどはありますか?
クスマーノスマートフォンもそうですが、市販されている安価な機材も広く使われています。以前と比べて、アイディアがあれば簡単に映画が作れるようになりました。特に短編の応募は以前と比べて簡単になったので数は増えましたが、やはり良し悪しはありますね。でもそうやって、いい作り手になっていくのです。物語を伝えたい人々には広く利用可能なツールですし、短編映画は非常によい芸術様式だと思います。
東野ありがとうございます。最後になりますが、今後、この夏と秋にむけてのトライベッカ映画祭の予定を教えてください。通常は4月に開催しますが、会場での上映は断念せざるを得なくなりました。今年の終わり頃に上映する予定などありますか?
クスマーノ中止ではなく延期になっただけなので、いつ頃開催するかは現在協議中です。NYの映画館が再開されて、大勢の観客が戻るまでは、我々も動けない状態なので具体的なスケジュールはまだ立てられません。ですがドライブインシアターの上映も同時に進めており、NY、ロサンゼルス、ダラスではすでに始まっています。ウォルマートと共同で秋の始めまで、映画館に観客が戻るまでの間、米国内の各地でクラシック映画を上映する予定です。
東野今後の活動がうまくいくことを願っています。トライベッカ映画祭のフェスティバル・ディレクター、クスマーノさんでした。ありがとうございました。
2020年7月収録
(構成:安田佳織)
SSFF & ASIA オンラインイベントシリーズ
米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(略称:SSFF & ASIA)は、1999年に初めてショートフィルムの映画祭を原宿でスタートした6月4日の「ショートフィルムの日」を皮切りに、映画祭が延期となった秋までの間、未曾有のパンデミックにより大きく変化しようとしている映像制作や映画祭、映画配給・興行といった映画業界の各立場からゲストを迎えて、現状と未来像を語るトークセッションシリーズを、SSFF & ASIA のYouTubeチャンネルにてオンライン配信しています。
Writer:BSSTO編集部
「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週金曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
https://sst-online.jp/theater/