毎週土曜日の情報番組で映画コーナーを担当する映画コメンテーターのLiLiCoさん。アジア最大級の国際短編映画祭 ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)でフェスティバルアンバサダーを務めるなど、ショートフィルム通としても知られる。
18歳でスウェーデンから来日し、20代のころは地方の演歌歌手として下積み生活を送ったLiLiCoさん。その人生に、映画はどのように寄り添い、力を与えてきたのだろうか。映画から得る、人生を豊かにする学びについて話を聞いた。
LiLiCoさん
ショートフィルムとの出会いはいつごろですか?
LiLiCo:小学生最後の年に出会いました。私の母国スウェーデンの子どもたちは毎年サマーキャンプに参加するのですが、その年の課題がグループで1本のショートフィルムを作ることでした。無人島に辿り着く少年少女の話を作って、その時に「映画って自分で作れるんだ!」という発見をしました。
SSFF & ASIAとの出会いは?
LiLiCo:今から16~17年ほど前でしょうか。とあるパーティーで代表の別所哲也さんと知り合いになったんです。そこで一緒に何かやろうという話になって電話番号を交換したことが始まりです。そのあと映画祭のオープニングセレモニーで司会をずっと続けてきて、フェスティバルアンバサダーになったのは2014年からです。
映画という観点からライフスタイルの中に取り入れていることはありますか?
LiLiCo:インテリアからアクセサリーのつけ方までなんでも映画から影響を受けています。特にファッションはいろんな映画から影響を受けました。『エイプリルの七面鳥』(2003)を観た時はケイティ・ホームズのレザーバンドを手首から指輪まで結ぶスタイルをずっと真似しましたし、『キューティ・ブロンド』(2001)や『プラダを着た悪魔』(2006)や『セックス・アンド・ザ・シティ』(2008)のような作品も真似しましたね。人生の折々に身近にあった映画を観て、ライススタイルに取り入れてきました。
ショートフィルムからは生き方を学ぶことが多いです。短くても長くても、映画は人生に役立つヒントを運んでくれるエンターテイメントだと思うんですよね。通勤時間にショートフィルムを観てその日の役に立っていることもありますし、ミュージックショートを観てその曲を好きになることもたくさんあります。本当に人生の一部になっていますね。
映画をお仕事にされているのも、そんな映画愛があってのことなのでしょうか?
LiLiCo:趣味に思っていたことを仕事にできているのはラッキーなことではなくて、私の努力の成果です(笑)
やっぱりやりたいことをやらなきゃいけないと思うんですよね。それも映画から学んだことの一つです。たとえば『フラッシュダンス』(1983)のような成功物語を観ると、誰よりも頑張ったら夢は叶うって気付くんですよ。冷静に自分のことを振り返れば、うまくいっているときは努力しているときですし、うまくいかないときは努力を怠っているときだとわかると思います。
明るくて開放的な性格のLiLiCoさんですが、表と裏ってあるんでしょうか?
LiLiCo:「LiLiCo」を作り上げているところはありますよ。「肉食系」というイメージはキャラクターとして作り上げている部分ですね。「あら素敵な男だねー、食べちゃうわよっ」と言って全部食べてたら私忙しすぎてげっそり痩せてますよ(笑)
明るいという印象も普段からポジティブなわけではなくて、ネガティブな経験をしてきたからこそ、ちょっといいことがあるだけで明るくいられるのかもしれないですね。エッセイ本に書いているんですが、いろいろと苦労してきた過去があって人の痛みを知っているのが大きいと思います。他人への想像力という点だと、映画も似ていると思いますよ。
映画を観ることで想像力が湧いてくると?
LiLiCo:そうですね。それから、たくさん映画を観ることで他人のことをよく理解できるようになると思います。私は仕事でいろんな人に会いますけれど、会話が合わない人もいるんです。なんでこの人とは合わないんだろうってときに、いろんな自伝映画を思い出して想像をするんです。
良い映画に出会うための方法はありますか?
LiLiCo:「良い」映画って好みの作品ということなんですよね。ただ、好みの作品ばかり見ていても人生つまらないと思いますよ。私も素人のころはフランス映画は難しいから観なかったですが面白いものはたくさんあります。視野を広げないといけないですね。好きな映画だけを観る、というのだけでは残念だなあ。小粒で美味しい映画を知るには、まずは私と別所さんの話を聞いてください(笑)。
今回、インタビューに先立って『犯罪オタクのカップル / Something Left, Something taken』(2010)というショートフィルムを観ていただきましたが。
LiLiCo:妄想しすぎ!の映画ですね。私自身の映画の見方は男性のほうに似ていて、歩いていたら急に「ボンッ!」みたいなテロに巻き込まれたり、タクシーに乗ったら連れ去られるんじゃないかとか空想するんです。だから、いつも危機感を持つべしっていう映画は好きですね(笑)
いつ何が起こるか分からないという少年のような妄想は楽しいと思うんです。誰もが怪しい人かもしれないし、見た目が怖い人が実は優しい人かもしれない。日々のちょっとした瞬間に「もしも」を考えることの面白さが、このショートフィルムが教えてくれたことかもしれないですね。
『犯罪オタクのカップル / Something Left, Something taken』
LiLiCo:もっと深く映画のことを考えると、一人一人に持論があると思いますよ。ここ最近すごくいいなぁと思ったのはスウェーデン人の監督ハンネス・ホルムから聞いた話です。
彼が監督した『幸せのひとりぼっち』(2015)はスウェーデンのベストセラー小説が原作なんですが、原作のある作品って元々のイメージがあるので原作ファンからは批判されることも多いんです。ですが、「ベストセラーを映画化することは怖くない?悩まなかった?」って聞いたら、「悩まなかった」って言うんです。
そして、「あなたはこの映画のことを人に話すときどう話す?」って私に聞いてきたんです。私が考えていると、「あなたはこの映画の話をしない。あなたはあなたの話をします」と彼は言いました。
LiLiCo:たとえば、『犯罪マニアのカップル』にしても、ストーリーは主人公の二人が車で移動するだけの話です。けれど私は「妄想するんですよ〜」という話をしました。映画を観るとき、人間は自分の話をする。自分が何を受け取ったのかって話をするんですね。映画はそこから会話が発生して広がるのが魅力です。ストーリーの説明がどうのこうのではなくて、その映画を観て何を受け取ったのかを話すのが映画なんですよね。
映画を入り口にして自分語りをしていると。
LiLiCo:2度3度観て、新しい感想や発見をすることもあります。だからこそ、何度も観られるショートフィルムには長編にはない価値がありますね。ショートフィルムは昔はクリエイターの登竜門とみられていたけれど、今は逆。長編を作ってきた人たちがあえて短編を作りたがっている時代です。マーティン・スコッセシが監督して、ロバート・デ・ニーロ、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットが出演した『オーディション』(2015)を観たときにはぶったまげましたね。
そんな映画、そしてショートフィルムの魅力をこれからも伝えていければと思っています。
(取材:大竹 悠介)
(撮影: 吉田 耕一郎)
犯罪オタクのカップル / Something Left, Something taken
制作国:アメリカ / 制作年:2010 /上映時間:10分
【あらすじ】
「犯罪現場では何かが残り 何かがなくなる」。犯罪マニアのカップルが出くわしたゾディアック事件の犯人…
LiLiCo
1970年スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日、1989年から芸能活動スタート。
TBS「王様のブランチ」に映画コメンテーターとして出演、フジテレビ「ノンストップ!」J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」など、出演番組も多数。
声優やナレーション、女優、プロレスラーなどマルチに活躍する映画コメンテーター。2011年ネイルクイーン協会功労賞受賞、2013年ベストジーニスト協議会選出部門受賞などファッションにも意欲的に取り組み、バッグやジュエリーのデザイン、プロデュースも手掛ける。