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Mar. 20, 2022

【シネコヤが薦める映画と本】〔第40回〕『〈主婦〉の学校』〜家事と手仕事の魅力〜

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に佇む「映画と本とパンの店・シネコヤ」。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。
今月はアイスランドのドキュメンタリー映画『<主婦>の学校』と、映画『人生フルーツ』でお馴染み、つばた夫婦のエッセイから「家事と手仕事の魅力」を綴ります。

家事は、人生を豊かにする。
そんなふうに思うようになって、すっかり歳を感じる今日このごろ。毎日の雑巾がけも、洋服を直して着るのも、この時期には手作り味噌を仕込むのも、気持ちが良くて、楽しくて、そして美味しい。こういう日々のことを噛みしめることができるほど、歳をとってしまったのだなぁ、とババ臭いひとり言も増えてきた。

生活の手本“つばた夫妻”の生き方

そうした暮らしの手本にしているのは、『人生フルーツ』で話題となった、つばた夫妻の本。
建築家のご主人しゅういちさんがデザインをした家と庭。約200坪のキッチンガーデンと30坪の雑木林のお庭は、妻ひでこさんの育てた野菜や果物であふれる。その小さな自然に囲まれたワンルームの平屋が夫妻の暮らしの場だ。見るも美しい、そして美味しそうな二人の暮らしは、何よりも楽しそう。
四季に変化がある畑、自分たちの手で育てた食材で作る料理、日々の家事から編み物や機織りの手仕事まで…日々の営みとはこういったところに“豊かさ”があるのではと、本を開くたびに思う。
若いときからこの感覚を知っていれば、これまでの人生はもっと豊かであったであろうなぁ、と無関心だった過去の自分を振り返る。

『〈主婦〉の学校』が教えてくれること

© Mús & Kött 2020

例えばお節料理の作り方や、汚れがよく落ちる洗濯の工夫、洋服の修繕や編み物などの手仕事…知っていたら楽しいだろうな、と思うことが家事の中にはたくさんある。昔は家庭で教えてもらったり自然と受け継がれてきたりしたものなのだろうけれど、多くの便利な機械や道具に囲まれた生活の中では、そういったことも少なくなってしまった。

そういうことを学校で教えてくれたら良かったのに…と、
私の気持ちに応えてくれる映画があった。

© Mús & Kött 2020

『〈主婦〉の学校』
(監督:ステファニア・トルス / 2020年 / アイスランド)

(あらすじ)
1942年に創立された首都レイキャビクの中心部にある男女共学の家政学校「主婦の学校」。白く美しい建物が優雅な雰囲気を醸し出すこの学校には、現在でもアイスランド全土から、様々な期待を胸にした学生が集まってくる。ここは学位のためではなく、学びたい人が自分のために行く学校だ。
「私は手仕事に興味があるわ」
「将来使える技能を学べるのを楽しみにしてる」
「服に開いた穴を直す方法も習えるかな」
彼らの多くは寮で共同生活を送りながら、一学期3ヶ月の間、あらゆる家事や手仕事を基本から学んでいく…。

『〈主婦〉の学校』では、主に20代の若者が学んでいた。そんなに若いときから、この豊かさを知ることができていいなぁ、と羨ましく思う。
若い頃にはそんなものには目もくれず、というよりも、“知らずに”過ごしていたような気がする。ベリーを摘んでジャムを作ることも、靴下の編み方も、きれいなアイロンのかけ方も、そう、ほとんどが知らなかったのだ。
家事のアレコレは、その知恵を知れば億劫なことも楽しみに変わることがある。毎日することだから、楽しくできれば日々も豊かになるはずなのに、家事は「めんどくさい」という称号を貼られて、家庭の嫌われ者になってしまった。便利な機械や時短、安価な商品に取って代わって、味気ないものになってしまった。

© Mús & Kött 2020

身近なところからできる、日々の手仕事

先日、シネコヤで『〈主婦〉学校』上映後にトークイベントを開催した。
ゲストは本作を配給するkinologue 森下詩子さん(以下、詩子さん)と、本鵠沼KAMOSU店主 早田のりこさん(以下、のりこさん)。のりこさんのお店は、オーガニック食材や調味料、手作りお菓子を扱うお店で、味噌作りや手仕事のワークショップなども開催している。
なぜこの映画を買い付けようと思ったのか?というお話からはじまり、手仕事の魅力、そして、お二人のプロジェクト「おいしい循環プロジェクト」へと話が広がった。

左から のりこさん、詩子さん、竹中

映画『〈主婦〉の学校』では、秋学期の始まりに自生のベリーを摘んでジャムを作る。食品を廃棄することなく使い切ることを大切にしている。ここ、鵠沼の地でも地域の食材をみんなで使い切り食べていく、“おいしい循環”をつくっていこうとプロジェクトがはじまった。
住宅地域の鵠沼のお庭でよく見かける、夏みかん。多いときには100個以上も実るため、放置されてしまったり、剪定して捨てられてしまっている様子をよく見かける。そんな夏みかんを見かけて「美味しく食べられるのに…」と心を痛めた詩子さん。のりこさんに声をかけ、地域で実りすぎて困っている夏みかんを使ってママレードなどをみんなで作って食べる試みを、昨年から少しずつ始めている。

シネコヤでも、期間限定メニュー「鵠沼夏みかんママレード」が楽しめる。

「おうちの夏みかん、どうしてますか?」夏みかん回収BOXをシネコヤにも置いています。

トークイベントに、スキマ時間で編み進めた手編みのセーターを着てきた、のりこさん。
時間に追われがちな毎日だからこそ、日々の小さなことが輝いて見える。便利や時短が求められがちな現代に、少し立ち止まりじっくりと家事や手仕事の魅力を感じるのも、人生を“豊か”にする一つなのかもしれない。

【おすすめの本】

『あしたもこはるびより。』
2011年|つばた英子、つばたしゅういち(著)
『ひでこさんのたからもの。』
2015年|つばた英子、つばたしゅういち(著)

【おすすめの映画】『〈主婦〉の学校』

監督:ステファニア・トルス
2020年 / アイスランド / アイスランド語 / ドキュメンタリー / 78分
原題:Húsmæðraskólinn / 英題:The School of Housewives
後援:アイスランド大使館 提供・配給:kinologue
© Mús & Kött 2020
■シネコヤでの上映期間:〜3月27日(日)
※月火水、休業。詳細はシネコヤのWEBサイトでご確認ください。

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
9:00〜18:00ごろ
※月火水、休業。WEBサイトでご確認ください。
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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