映像クリエイターとショートフィルムの繋がりを様々な角度から深掘りする「クリエイターズファイル」。
今回ご紹介するのは、国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2017のジャパン部門にノミネート、当時より世界が熱い視線を送る日本の食文化の一つ「おべんとう」を題材にヒューマンドラマを描いた板橋基之監督。
映画祭とその企画・運営を行う株式会社ビジュアルボイスによる、クリエイターのためのプラットフォームLIFE LOG BOX*に自身の作品『おべんとう』の情報を登録いただいたことがきっかけで、ブリリア ショートショートシアター オンライン(以下、BSSTO)での作品配信が決まった板橋監督に、作品制作の背景や、クリエイターとしてLIFE LOG BOXのようなサービスに期待することをインタビューしました。
*LIFE LOG BOXとは
ショートショート フィムフェスティバル & アジア、そして株式会社ビジュアルボイスが2023年にローンチした、永続的に保存可能なデータストレージや、ポートフォリオの機能を備えたクリエイターのためのプラットフォーム。
新しい仕事やマーケットプレイスでの収益獲得を目指し、コンテンツやクリエイターの価値を最大化するサービス。
板橋基之監督
■監督:板橋基之
■キャスト:柴崎 佳佑、清水 ゆみ、太田 美恵、清田 正浩、小暮 広宣、平林 剛、平林 麗大、庄原 八雲
【あらすじ】
お弁当は、食べる相手の人を思いやって作るもの。そして、作った人の想いを受け止めて残さず食べるもの。お弁当は、作る人と作ってもらう人の”ふたり”で食べるもの。そんなお弁当を、こよなく愛する青年の物語。
ーー今回、監督はLIFE LOG BOXにプロフィール、本作の情報を登録いただいたことから、BSSTOでの配信が決定しました。LIFE LOG BOXについては、どのようにお知りになりましたか?
映画祭からご案内をいただいて、知りました。
ーー登録してみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
クレルモン・フェラン短編映画祭が運営する「shortfilmwire」があって、自分の作品をアップロードして、世界中の映画監督やプロデューサーと繋がれて交流ができます。私も登録して全作品をアップロードしているのですが、面白い交流ができるので、海外と繋がれる良いキッカケになっています。LIFE LOG BOXも似てる機能がありますが、SSFFが運営されていて画期的な展開がありそうなので、登録しました。特に「収益化」がどうなっていくのかを期待しております。まだ自分自身、本格的には活用できておりませんので、そろそろ全作品をアップロードしようかと思います。
ーークリエイターの視点として、このようなプラットフォームの存在をどう思いますか?
今回のように、ご自身の作品が国内外の上映や配給のチャンスを得られるマーケットの場として、また、ご自身の作品データを安全に、永久にストレージできる機能について、クリエイターとしてはどのように魅力に感じますか?
「国内外の上映や配給のチャンス」というのは魅力的です。特に「配給」は、個人ではなかなか難しい部分もありますので、それにチャンスが生まれてくるのは嬉しいです。今後の動きに注目しています。
作品をストレージができる機能は、今は有料で様々なサイトがあります。個人的には、使いやすいプラットフォームが出来たら嬉しいです。例えば、クリエイターがプロデューサーとかに作品を視聴してほしい時に、作品URLとパスワードを送れば、登録していなくても見れるとか。(←しているかも知れませんが)
LIFE LOG BOXに作品をアップロードしておく理由は、ストレージにプラス、先の「国内外の上映や配給のチャンス」があってのことかと思いますので、躊躇なく登録させていただきました。全作品をアップロードできてないので、時間を見つけて作業したいと思います。
『おべんとう』ティザーイメージ
ーー今回の『おべんとう』は、世界的にもブームになっている日本食の文化を、日本人からは共感するドラマとして、また、海外の人からは新たな発見として興味深く描かれていると思いました。「食」をテーマに作品を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
自分は「食べる」とか「料理」とか、「食」に関することに「生」を感じます。また、食材や料理の中に物語がいっぱい詰まっているので、その物語と人間の物語をリンクさせるのが好きなんです。あと、作品を見て「美味そう」「腹減った」とか言われることも嬉しいです。
「おべんとう」をテーマに作品を作ったのは、フランスではお弁当が流行っていて「べんとう」という単語がそのまま使われている、というニュースを聞いたことがきっかけです。
『おべんとう』より
ーーモントリオール世界映画祭を始めクレルモンフェラン短編映画祭でも上映された本作ですが、海外の方の反応はいかがでしたか?
上映後に多くの問い合わせをいただいた事にとても驚きました。フランスでは、田舎の村に住む方から「自分の村の皆に見せたいから、村の公民館で上映させてくれ」という問い合わせもありました。クレルモン・フェラン短編映画祭から、フランス語の字幕をもらって、上映データを送ったこともあります。
「持ち運べる弁当っていいな」とか「卵焼きを真似して作ったよ。美味しかったよ」と写真付きでメールをいただいたこともあります。
日本人では当たり前で珍しくもない「お弁当」ですが、そのお弁当の中にある意味を物語に入れたことで、普遍的で海外の方にも共感していただけたのかと思います。
ーー調理するシーン、できあがった「食」のシーン、食べるシーンなど、こだわりを感じられるところがたくさんありますが、撮影時に大変だったことや、工夫されたことはありますか?
お弁当の中身は料理のプロにお願いをしていました。CMですと、映像で魅せるために食材に加工したりしますが、映画『おべんとう』では、加工無しの、本当に食べられるお弁当です。カメラの横にはプロが料理をした食材がいっぱい並んでいて、お弁当箱に詰めていく。お弁当が完成したら、スタッフみんなで食べました。撮影が深夜までかかったので、お弁当をツマミに乾杯して楽しかったです。
日本人って弁当を食べたことが無い人っていないんじゃないでしょうか。1回は必ず食べていると思います。年齢によって弁当の中身が変わったり、行事によって中身が変わったり、コンビニ弁当の日もあったり、、あぁ自分の味覚の記憶にお弁当ってあるかもなぁ、と思ってもらえたら幸いです。
『おべんとう』撮影現場より
『おべんとう』撮影現場より
ーー板橋監督は長編映画にも挑戦されていますが、ショートフィルムと長編映画の違い、各魅力はどんなところにあると思いますか?
作り方には違いはありません。監督のやることにも違いはありません。ですが、0から1を生み出す時の思考回路が違う様な気がします。使う脳が違う、と言いますか。その違いを文字で整理する、というのが初めてですが、下記にまとめてみました。
それぞれの魅力ーー
短編映画:頭の中の感覚をいっぺんに放出するイメージがあります。いっぺん、は沢山という意味ではなく、とんがった何か、みたいな意味です。コンセプトが明確にあって「一発ドンッ!」とか「これ!」的な中で、世界観を構築していくことができるのが短編映画の魅力かもしれません。
物語においては「省略の美学」や「はしょりの美しさ」などが魅力かもしれません。
長編映画:もちろんコンセプトは明確にありますが、尺に制限が無いので、時間の猶予の中で、時間をかけて世界観を構築できることでしょうか。短編映画で試したことをベースに、自分の好きな時の流れを、吐き出す感覚と言いますか。
自分が映画を作る時にいつも意識しているのが、時間の流れ、なのですが、その中にある空気感を最も大切にしています。その感覚を自分は「時に空気」と呼んでいます。それを、余すこと無く吐き切る、感じです。
って自分で書いていて、まとまってない、と思いつつも、こんな感じです。
短編映画って、なぜかアマチュアというイメージが強いですね。特に日本では。長編映画デビューへの登竜門、的な。また長編で評価されると、次回作の長編の制作に話がしやすい、というメリットはあるかと思います。短編で評価されても、長編の話がなかなか難しい、と言いますか。
ーー監督になるまでに、どんな道を通ってきましたか? 影響を受けた監督や作品はありますか?
大林宣彦監督『転校生』
市川準監督『つぐみ』『東京マリーゴールド』『トニー滝谷』など市川準監督作品は大好き。
磯村一路監督『がんばっていきまっしょい』
ーー何がきっかけで監督になろうと考えましたか?
高校二年生の時に、大林宣彦監督『転校生』を観て、映画を作ってみたい、と思ったのが始まりです。
大学に進学して、シナリオの学校にも通って、映画の勉強をしてきましたが、映画は作らず、就職はCMプロダクションです。
映画を最初に作ったのは、39歳です。他の映画作家に比べたらとても遅いと思います。映像ディレクターとして仕事をしてきましたが、ふと気がつくと40歳手前で、30代の今を残しておきたい、映画を作っておきたい、と思って『おべんとう』を作りました。
ーー現在、将来の取り組みについてお教えください。
現在は、福島県浪江町の長編ドキュメンタリー映画を制作しています。2月18日にクランクアップしました。2024年の夏ぐらいに完成する予定です。公開はまだ未定です。
また、長編シナリオも書き進めてまして、実制作に向けてパートナーを探しています。
ーーショートフィルムは撮り続けたいです? どんな(テーマの)作品を撮ってみたいですか?
ショートフィルムは撮り続けたいと思っています。
テーマは、年齢によったり、時勢によったり、その時々でテーマが見つかります。制作しなくてもコンペで評価されなくても、シナリオにして寝かせている作品がいっぱいあります。ストックが増えて、作品にするのもよし、長編に書き換えてもよし、今後が楽しみです。
今撮りたいテーマは、、、なんだろう、、。子どもが生まれて可愛いので、、、青春期の子と親の話、、とか、でしょうか。去年コンペに出した企画で「学校をサボる女子高生と一緒にキャンプに行く父」を書きました。落ちましたけど。「時の空気」はすごく好きなシナリオになっているので、また練り直してみようかと思います。
世界情勢から見ると、戦争、がテーマの作品が多くなってくるのでしょうか。
ーーショートフィルムの未来(たとえば10年後)はどうなっていると思いますか?
ショートフィルムは、もっと細分化されて、挑戦がいっぱい詰まった作品が生まれると思います。
今までにないもの、は限りないので、その時代に生きる人が新しいフィルムが生まれ続けていくのだと思います。
板橋基之(いたばし もとゆき)
1976年東京都生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業。日本映画監督協会会員。
フリーのディレクターとして、映画、ドキュメンタリー、広告映像などを企画・演出。
初監督映画『おべんとう』(2016)はモントリオール世界映画祭を始めクレルモンフェラン短編映画祭な数々の映画祭で上映。
2022年9月30日『Bridal, my Song』公開。
他、福島県浪江町の映画シナリオ執筆。絵本『ぼくギザギザ』シリーズ更新中。
Writer:BSSTO編集部
「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週水曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
https://sst-online.jp/theater/