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Jul. 22, 2024

【映画にみるインテリア】ショートフィルムにみるインテリア
〜 Interior Design In Short Film 〜 vol.4

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

最近気になるオーストラリアの映画

最近オーストラリアの映画がなぜか気になります。Netflixでみた『少年は世界をのみこむ』は1980年代を舞台に、ヘロイン中毒の母とドラッグディーラーの義父、ある時期から全く喋らなくなった兄を家族にもつ少年がジャーナリストを目指すまでの成長の物語。テンポよく、ファンタジーや笑いも混ぜながら、少年を取り巻くハードすぎる環境を描く視点がとてもよかったです。

BSSTOで配信中のオーストラリア発・ショートフィルム

今月BSSTOで配信しているショートフィルムにもオーストラリアのものが2本あり、どちらも印象的な映画でした。『冷たい海』では老夫婦の家が、『サングラス』では母と息子、ボーイフレンド3人の家族の家が出てきます。平屋建てで部屋の大きさもコンパクト、日本の家と近しいものを感じます。『サングラス』では外で日常的に食事を楽しんでいるようなシーンもあり、すごく居心地が良さそう。オーストラリアでは日陰を作って外での生活を楽しむ家が多いようです。

今月の映画『ブレス あの波の向こうへ』サイモン・ベーカー初監督作品

『ブレス あの波の向こうへ』 © 2017 Screen Australia, Screenwest and Breath Productions Pty Ltd

さて、今月ご紹介する映画です。いよいよ夏!そしてパリオリンピック開幕!というわけで、2020年東京オリンピックから正式競技となったサーフィンの映画を選んでみました。なにを隠そう、私は江ノ島のすぐそば、鵠沼海岸の出身で、身近には常にサーファーがいました。みんなちゃんと働いているんだろうか?と子供心に心配になるほど海には一年を通して真っ黒に日焼けしたサーファーがいて、商店街では上半身裸、ショートパンツにビーサンの軽装でウロウロしてらっしゃいました。そんな「自由を謳歌する」ようなスポーツ(と私が思っていた)サーフィンが、オリンピックの正式種目になるなんて驚きです。

オーストラリアの映画『ブレス あの波の向こうへ』は、自身もサーファーであるサイモン・ベイカーが初めて監督をつとめた作品です。ベイカーが演じるのは伝説とよばれるサーファー、サンドー。やっぱりというか、納得というか、サンドーもなにをして働いているかわからない、自由人のようです。そんなサンドーに出会った14歳の少年2人が本作の主人公、彼らの「子供から大人になる一瞬」を切り取ったような、そんな映画です。

『ブレス あの波の向こうへ』 © 2017 Screen Australia, Screenwest and Breath Productions Pty Ltd

サンドーが住むのは森の中に建つ、高床式の一軒家。下はサーフボード置き場になっていて、ボードのメンテナンスを行う作業場になっています。サーファーの方々は海に入るか、メンテナンスをしているかどっちかなんじゃないかと思うほど、まめにメンテナンスしている姿を見かけます。

階段を登ると広いバルコニーがあり、ハンモックやデイベッドが置かれています。サンドーの奥さん、イーヴァはいつもここで昼寝をしていて、生活が外部にはみ出しているようなオーストラリアの家の気持ちよさを感じることができます。室内に置かれた布張りのソファ、インド綿のカーテン、大量のレコードや壁に貼られた写真など、自然を愛し人生を謳歌する「サーファーの家」がそこにありました。

『ブレス あの波の向こうへ』 © 2017 Screen Australia, Screenwest and Breath Productions Pty Ltd

インテリアでは、同じく海沿いの街であるカリフォルニアの家をモデルにした「カリフォルニア(西海岸)・スタイル」というジャンルがあります。太陽の光や風をとりこむ大きな窓、開放的な大空間、外での生活を楽しむ大きなバルコニーなどが特徴的です。でもサンドーの家はそんなにさわやかじゃない、もっとゴツゴツとしたラフな家です。でもそのラフさがたまらなくかっこいいのです。

『ブレス あの波の向こうへ』 © 2017 Screen Australia, Screenwest and Breath Productions Pty Ltd

この映画、やはりサーフィンのシーンは圧巻です。波のうねり、力強さ、そして恐ろしさが迫力のある映像で描かれ、それに挑む人間の小ささをまざまざと感じます。この映画で知りましたが、自然の産物である最高の波を、最高の状態で捉えるため、サーファーは常に海中の地形をよみ、天候をチェックし、ボードのメンテナンスに励みながらその時を待ちます。片手間ではとてもできない、狂気と紙一重の世界です。そんなサーフィンを通して人生を描こうとしたサイモン・ベーカーの狙いはとてもうまくいっているように感じました。オーストラリアの雄大な自然のうつくしさ、サーフィンの面白さ、そして誰もが経験する子供から大人になるときのドキドキとヒリヒリ、そんな見どころが盛りだくさんの映画です。

今回、おすすめしたいアイテムはーー

お庭がなくても自然と風を感じたい!そんな方におすすめのハンモック。カラーバリエーションも豊富でインテリアとしても楽しめます。

『ブレス あの波の向こうへ』(原題:Breath)作品情報

監督・脚本:サイモン・ベイカー
キャスト:サイモン・ベイカー、エリザベス・デビッキ、サムソン・コールター、ベン・スペンス、リチャード・ロクスバーグ他
制作年:2017年 
尺:115分
【あらすじ】
オーストラリア西南部の小さな街。内向的な少年パイクレットは、好奇心旺盛な友人ルーニーの無鉄砲な行動に影響を受けながら、彼の後を追うように日々過ごしていた。ある日彼らは、不思議な魅力を持つ男性サンドーと出会い、サーフィンを教えてもらうことになる。暇を見つけてはサンドーと妻イーヴァが暮らす家に通い出す2人。彼らにとって、大人の女性イーヴァの謎めいた存在感も刺激となっていた。サンドーはいつしか彼らを命をも脅かす危険な波へと挑ませ、恐いもの知らずのルーニーはスリルを楽しむように果敢に挑戦するがパイクレットは…。

© 2017 Screen Australia, Screenwest and Breath Productions Pty Ltd

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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