京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。
このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。
毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。
11月のブリリア ショートショートシアター オンラインは「秋の夜長のワイン・ショート特集」です。お酒で一番好きなのはワインですが、一人で飲んでいると適正量をうっかり超えてしまい、次の日悲惨なことになるので、特別な時に飲むお酒になっています。
今月の4本のなかではやっぱり『彼女とTGV / La femme et le TGV』が好きです!ジェーン・バーキンの姿をみるのはひさしぶりですが、フランスの片田舎で孤独に暮らす初老の女性を演じているのを見た時は「さすが女優!」と思いました。でもそこかしこに隠しきれない彼女のかわいさが出てましたねー。しぐさ、声がたまらなくかわいいです。だって(ほぼ)彼女とTGVしか出てこないのに、全く退屈しなかった。
彼女の家もこぢんまりとしてよかった。清潔で、必要なものが揃っていて、ちょっとした飾りがあって…でもこぢんまりとした家はこの間紹介しちゃったし(『しあわせの絵の具』)、『彼女とTGV / La femme et le TGV』はすでに素晴らしいイベント、「ショートフィルムと一緒にワインを楽しむ秋の夜」で紹介されているのです。
10月31日に開催された「ショートフィルムと一緒にワインを楽しむ秋の夜」
作品のテイストにあわせて選んだワインを飲みながら映画を楽しむなんて、なんておしゃれなイベントなんでしょう!しかも選び方までかっこいい。「すっぴんな味わいのシャブリ」なんて、そんな選び方があるんですね。奥が深いです。
というわけで私はイタリアの大女優ソフィア・ローレン主演の映画をご紹介させていただきます。
2020年製作/95分/イタリア
原題:La vita davanti a se 配信:Netflix
1977年にフランスで映画化された作品を、イタリアを舞台にリメイクされた映画です。主演はソフィア・ローレン、行き場のない子供達を預かって暮らす高齢のユダヤ人女性、マダム・ローザを演じています。愛情あふれる、世話焼きの女性かと思いきや、そこはソフィア・ローレン、むっちゃつよい、そしてこわい。言いたいことははっきりいうし、子供達には笑顔を見せないし。なぜ彼女が配役されたのか、と思ったら、監督がエドアルド・ポンティで彼女の息子さんだそうです。
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でも見ていくうちに、納得がいきます。というのも、知人の医者から頼まれて預かったモモがとんでもなくむずかしい子だったからです。いろんな事情を抱える人たち、とくに子供たちと接するには、彼女ぐらいつよくないとやっていけないよな、とリアリティを感じました。モモを演じたイブラヒマ・グエイェが表情豊かで、家に来たばかりの誰も信用しない野良猫の目から、マダム・ローザに心をひらいていく変化を見事に演じ切っています。彼はこの映画で、放送映画批評家協会賞2021の子役賞にノミネートされています。
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私はこの映画がなんだか好きで、何回も見ました。モモが、彼が持つやさしさや絵への情熱を無駄にすることなくそれに助けられていく、という物語も好きなんですが、マダム・ローザの家がいいんです。大きな窓のある明るいキッチン、ふかふかの赤いソファが中央に置かれたリビング、そしてなによりL字型の腰窓に囲まれたサンルーム!私は植物に囲まれたサンルームにずっと憧れを持っていて、きっかけは高校生の時に見た映画『グリーンカード』でした。いつか自分もサンルームがほしいと、中古で家を買う時にサンルームにできそうな場所をみて即決しちゃいました。
実際に住んでみると、というより我が家のサンルームは位置的、設備的な問題があり、夏はあまりに暑すぎて植物が枯れていき、冬は寒すぎて人がいられない、という状態で、憧れと現実の違いをまざまざと知らされました。
でもマダム・ローザのサンルームは違う!使い方としてランドリールームとしても使っているようで、洗濯機やアイロン台なんかも置かれています。大小様々な鳥籠の中に植物を置いたりして、素敵に飾り付けされています。キッチンにも小さなテーブルがありますが、一同揃って食べるときはサンルームに置かれた大きなダイニングテーブルを使っています。バラバラのデザインの椅子がカジュアルでいいのですが、エレガントな椅子も置かれていたりしてマダム・ローザのおしゃれな部分が垣間見えます。
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あかるく健康的なお家とは対照的に、マダム・ローザがときどき一人でこもる地下のお部屋があります。彼女はホロコーストを体験していて、安全で誰にも見つからないその場所が癒しになっているようでした。対比による魅せ方がうまくて、陰と陽、マダム・ローザの現在と過去、モモの気分の高揚と自分自身を見つめる静かな時間、といった複雑に絡みあう状況をうまく描いているように感じました。
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というわけで、今回は私が一番好きな部屋、サンルームについてご紹介しました。我が家のサンルームももう少しどうにかしたいところです。
チュニジアの鳥籠:toolbox
チュニジアの鳥籠。南イタリアはアフリカにも近く、鳥籠やタイル、カーペットなどインテリアも影響を受けているのでしょうか。異国情緒あふれる鳥籠、いかがでしょうか。
Netflixオリジナル映画『これからの人生』(La vita davanti a se)
監督:エドアルド・ポンティ
キャスト:ソフィア・ローレン、イブラヒマ・ゲイェ
あらすじ:自宅で子守をしているホロコースト経験者が、自分を襲った家なき子を引き取ることに。反発し合う2人だったが、共に暮らすうちに少しずつ心を開いてゆく。
2020年製作/95分/イタリア/配信:Netflix