京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。
このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。
毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。
12月のブリリア ショートショートシアターオンラインは「ウィンター&クリスマス特集」。先行配信された『霧の中』は、1978年のクリスマスイブ、フランス・ニースで起きた実話をもとにしたサスペンス。全編を通してほとんどが家の中でのシーンですが、窓からの弱い日差し、彼らの服装、窓辺に飾られたイルミネーションなどから季節が冬であることがわかります。タバコやお酒、終始涙目の女性によって、楽しいクリスマスとは無縁の深い闇を抱えた家の姿が映し出されます。その対比によってヨーロッパに住む人々にとって、クリスマスは家族を象徴する季節なんだと感じさせられました。
そんなクリスマスをお家で最高に楽しめる映画(ドラマ)をご紹介したいと思います。
Netflixで12/5から配信されている『BLACK DOVES』、キーラ・ナイトレイとベン・ウィショーが主役を務めるスパイアクションムービーです。
ベン・ウィショーといえば、先日解説させていただいた『自慢の息子 / Good Boy』ショートフィルムでダメな息子を演じていた彼ですね。
人にやさしく、どこかさびしげな瞳を持つ彼の魅力はそのままに、今回は殺し屋(サム・ヤング)という側面もあわせ持っています。『自慢の息子 / Good Boy』とは違い、ちゃんと仕事(殺し)のできるサム、彼の恋人を敵から守りながら脱出するシーンは優しさと残忍さ、冷静さが互い違いに押し寄せてきて思わず「惚れてまうやろー!」と叫びたくなりました。
この映画、クリスマス直前のロンドンが舞台なんですが、実際に100箇所以上のロンドン(主にウエストミンスターやサウスバンク周辺)のスポットで撮影されたそうで、壮大なタウンガイドになっています。なかでも私が好きなのは、キーラ・ナイトレイ演じるスパイ、ヘレン・ウェッブや殺し屋サムが、ハンドラーであるミセス・リードに会うために指定される場所。ミセス・リードはあらゆる情報を最高額で落札した顧客に提供してビジネスをする謎めいた女性です。
中央の吹き抜けが印象的なブックショップやかつての煌びやかな時代を彷彿させるビンゴホール、このビンゴホールは歴史ある古い映画館を利用して作られたそうで、織り上げ天井の装飾が見事です。最後にヘレンとミセス・リードが会うのはキルバーンの聖アウグスティヌス教会。街の風景を随所に織り込むことで、彼らがロンドンを拠点に活動するスパイだということを、臨場感を持って感じることができます。
この映画ではいろんなロンドン市民のインテリアも見ることができますよ。ヘレンが住むのは、夫である国防大臣の地位と経済力を反映した6ベッドルームの大豪邸。プロダクションデザイナーのLaura Ellis Cricksによれば、ヘレンには双子の子供がいるので、常にちょっと散らかっていて、家庭的な雰囲気を出すように気をつけたんだそうです。
サムの友人である建築家のカップルが住むモダンなフラット、元兵士の殺し屋が住む川沿いのアパートメント、フリーランスの殺し屋エラとガブリエルが住むハウスボートなどなど。クリスマスが家族や家を象徴するからこその最後のシーンは、イギリスらしいシニカルさも効いていて非常に満足度がありました。
同じくロンドンのクリスマスを舞台にした『ラブ・アクチュアリー』(同じくキーラ・ナイトレイが出てる!)はもちろんはずせませんが、今年のクリスマスはちょっとダークな『BLACK DOVES』もお家で楽しんでみてはいかがでしょうか。おすすめです。
ロンドン在住のデザイナー、マイケル・アナスタシアデスによってデザインされたFLOS社 IC light. 『BLACK DOVES』ではとにかく膨大な数のランプが出てきました。おしゃれな空間を作るのに、やっぱりランプは欠かせない、と改めて感じます。
(参考)
https://www.countryandtownhouse.com/travel/where-was-black-doves-filmed/
https://www.atlasofwonders.com/2024/12/black-doves-locations-london.html