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Jul. 25, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.16

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

今月は7月3日「涙の日」にちなんで「涙の訳は」特集です。年齢を重ねると泣くことも減り、それは辛いことがなくなった訳じゃなく、なんというかじーっと耐えるようになった気がします。なので今月第一週に配信された『Cascade -泣き続ける男-』をみたときは、身につまされる思いがしました。人生いろいろありすぎいちいち一喜一憂してられない、それでも虚しさや無力感はおりのように積もっていて、ちょっとやそっとじゃ解消できない。そんな中高年の悲哀をひしひしと感じました(しみじみ)。

でも本当は年齢にかかわらず「泣く」って大事なことなんだそうです。ストレスを解消させリラックス効果もあり、最近は「涙活」とよぶんだとか。泣くのってしんどいし、お化粧落ちるし、目腫れるし…と悲しい映画はできるだけ避けてきましたが、これからは映画をみながら「涙活」にいそしみたいと思います。

今月のショートフィルム『デデは死んだ / Dede Is Dead 』

『デデは死んだ / Dede Is Dead』はプラハ芸術アカデミーでアニメーションを学んだPhillippe Kastnerによる作品。この作品はベルリン国際映画祭で特別賞を受賞したほか、他の映画祭でもノミネートを受けています。

白と限りなく黒に近い濃紺の、ほぼ2色で構成された版画のようなタッチ。セリフはなく、文字と音でストーリーを追います。少年と犬、お母さんの二人と1匹で暮らしていることが伺えます(途中もう1匹加わります)。虫の声と川のせせらぎしか聞こえない、彼らの静かな生活。そこに突然訪れる、デデの死。静かな世界を、息を潜めて覗き見しているような感覚でみているので、彼らの様子をただただ見守るしかない無力感に襲われます。そうですよね、死は受け入れるしかないんですよね。でも後半、素晴らしいです。実家の犬を思い出し、久しぶりに涙しました。

今月の映画『僕のワンダフル・ライフ』

© 2017 Storyteller Distribution Co., LLC and Walden Media, LLC

そんな素敵なショートフィルムをみて思い出した、私の泣ける映画『僕のワンダフル・ライフ』。これはもう、中盤から涙が止まりません。というのもこの映画は犬の転生をテーマにしていて、大切に育ててもらった飼い主イーサンの幸せを見届けるために何度生まれ変わっても彼を探し続ける犬、ベイリーの物語なんです。生まれ変わってる間も、それぞれの飼い主の幸せをその都度叶えようとする犬たちの健気な様子がみられて、しかもそんな犬の死を何度も味わう羽目になるのです。

監督はLasse Hallströmラッセ・ハルストレム、スウェーデンの監督ですが、『ギルバート・グレイプ』などハリウッドでも活躍する方です。映画は1962年ごろから2010年ぐらいまでのアメリカが舞台で、生まれ変わりを繰り返す5匹の犬が出てきます。

初代ベイリーが少年イーサンと暮らしていたのが1960年代のアメリカ、郊外にある一軒家で敷地前面に広々とした芝生と紫陽花のお庭、正面のポーチ、うつくしいサイディングの壁、おしゃれでやさしいお母さんと野心家のお父さん、ピカピカの車…本当にいつみても夢のような時代です。当時多くの日本人が、『パパはなんでも知っている』『うちのママは世界一』などのドラマから、豊かで幸せそうな”American way of life”に憧れたそうです。

© 2017 Storyteller Distribution Co., LLC and Walden Media, LLC

家には営業マンとして働くお父さんのホームオフィスがエントランス横にありました。海外には日本の玄関、たたき(土間)がないので、入ってすぐお部屋というのが広々としていいですよね。とても使いやすそうに感じましたが、当のお父さんはオフィス勤務に憧れていて、要望を受け入れてもらえないことにストレスを感じ始めていて、家庭内に不穏な空気が…。

© 2017 Storyteller Distribution Co., LLC and Walden Media, LLC

このほかにもシェパードと暮らす警察官のお家、コーギーと暮らす大学生の女の子のエスニックなお部屋など当時のヒット曲と共に40年間のアメリカの住宅の変遷がみられます。
愛犬との別れは辛いけど、人間と暮らす動物たちは言葉が通じなくともたくさんの交流がありますね。涙活にはおすすめの映画です。

https://rosebowl-antiques.com/?pid=184839689
↑イーサンの家にも大きめのテーブルランプがたくさん置かれていました。この時期に作られたアメリカ製のランプはデザインが特徴的で、ヴィンテージでも手頃な価格で楽しむことができます。こちらはちょっとお高めですがゴールドのラメが効いててかわいい!

参考:「ただ泣けば良いものじゃなかった!?ただしくストレスを解消する「涙活」のメソッド」
https://www.yakult.co.jp/archive/magazine/09.html

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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