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Aug. 13, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.17

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

今月のショートフィルム『As It Was / あの日のまま 』

戦後80年を迎える今年、総務省によれば日本で戦争を知らない世代(戦後生まれ)が総人口の87.9%に達しました。戦争が身近ではなく、家族も友人も戦争と関わりを持たずに暮らせるありがたさをいつも以上に身にしみて感じています。というのも毎日ニュースで報じられるガザの状況があまりにも悲惨で、戦争の恐ろしさを改めて実感するからです。武器を持たない市民、子供たちを飢えさせ、配給された食料を取りに来た人たちに銃を向ける。人間が人間を苦しませる手段は銃弾だけではないことをまざまざと見せつけられた気がします。

8月27日配信予定の『As It Was / あの日のまま 』、監督はウクライナ・キーウ出身の新人監督、2023年カンヌ・パルムドールにもノミネートされた作品です。キーウの家族と離れ、ひとりベルリンで暮らす女性、レラ。ある朝ふとしたきっかけで帰省を思い立ったレラは列車に飛び乗ります。あいにく家族が留守だったため、着いたその日は久しぶりに再会した幼馴染とキーウでの時間を過ごします。

まさに今戦時中の国、歩いている最中も警報が鳴り地下に避難する場面もありました。それでも友達とパーティーをしたり、家族と過ごす様子を見ていると、彼らが私たちと同じような日常を過ごしているように見えます。でももちろん違う。戦争がすぐ隣にあることを常に感じていて、誰もが傷ついているのが伝わってきます。実質的な被害だけでなく、戦争が人々の心にもたらす影響を何気ない会話や表情から繊細に描いています。暴力的なシーンはないので、戦争の映画をみるのはこわい、という方にもお勧めできる映画です。

今月の映画『戦場のピアニスト』

(C)2002 STUDIOCANAL - HERITAGE FILMS - STUDIO BABELSBERG - RUN TEAM Ltd

正直わたしも戦争の映画は苦手です。でもこれだけ戦争が各地で繰り返される現実を変えるために、まずは「知る」努力は必要なのかもしれません。

『戦場のピアニスト』は第二次世界大戦時のワルシャワが舞台、実在のユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験記がもとになっています。映画の冒頭、1939年のワルシャワの街を映し出すモノクローム映像が流れます。ワルシャワは第二次世界大戦中ドイツの侵攻によって、建物の90%が破壊された街だそうで、その無惨に破壊された様子は映画の最後にも出てきます。今のワルシャワ旧市街の姿は、戦後に市民が記憶や絵画を元に瓦礫も使って復活させたもので、それゆえに世界遺産に登録されているんだそう。恥ずかしながら私は知りませんでした。戦争はいつの時代も、その国の人たちが大切にしてきたものを破壊する行為であることがよくわかります。

(C)2002 STUDIOCANAL - HERITAGE FILMS - STUDIO BABELSBERG - RUN TEAM Ltd

シュピルマンが家族で暮らす家には、ポーランドらしい意匠があちこちに見られます。まず目につくのはタイル、暖炉の装飾にも使われお部屋のアクセントになっています。それから刺繍やレースの織物、窓周りの装飾(カーテンやレース)はもちろん、壁のタペストリー、クッション、テーブルクロスなど至る所に見られます。

他にダイニングにはどこのお宅にも立派な食器棚兼飾り棚が置いてあり、中にはカットガラスのグラスがいくつも飾られていました。ボヘミアングラスのような繊細なカット、小さめのグラスを使って家族や友人が集まってウォッカで乾杯する姿がよくみられました。タイルのツヤ、織物の立体感と豊かな色彩、ガラスの繊細な輝きなど多様な質感を重ね合わせたインテリアはとてもあたたかく居心地のいい雰囲気。家族や友人を大切にするポーランドらしいお部屋です。

(C)2002 STUDIOCANAL - HERITAGE FILMS - STUDIO BABELSBERG - RUN TEAM Ltd

幸せだった日常にどんどんと戦争の暗い影が忍び寄り、さらにユダヤ人の彼らにはジェノサイドが襲いかかります。ゲットーという特別居住区に閉じ込め食料を制限することで彼らを飢餓によって追い詰める、まさにガザと同じ状況がみられます。その後収容所に移送、ワルシャワでは30万人のユダヤ人が犠牲になったそうです。

戦争を知る日本人がいなくなれば、私たちが後世に伝えていかなければならない。まずは知ることからはじめなくては、と気持ちを新たにしたお盆です。

ポーランド東部に住む86歳アニャさんの手刺繍のクッションカバー

手仕事のやさしさ、モチーフの可愛らしさ、色合いのやわらかさ、何もかもに癒されます。

ポーランド東部に住む86歳アニャさんの手刺繍のクッションカバー

 

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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