ログイン
MAGAZINE
Dec. 13, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.21

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

あっという間に12月です。ありがたいことにこのコラムを書き始めて2度目のクリスマス、去年『Black Doves』をご紹介したのが、ついこの間のような気がします。大掃除に年賀状にとやることを盛大にのこしつつ、先週の日曜日はダンスの発表会に参加して、踊ってまいりました。はー!楽しかった!と気持ち的にはもうやり残したことはないような、清々しい気分でおります。

今月のショートフィルム『イトスギの影の中で / In the Shadow Of The Cypress』

今年も特集とともにたくさんのショートフィルムに出会えた一年でした。2025年最後の特集は「シュールなアニメーション特集」です。12月3日配信『イトスギの影の中で / In the Shadow Of The Cypress』はもうご覧いただけたでしょうか。まだの方はぜひ!辛い現実を、やさしい眼差しで描いた作品です。

STORY-
海辺の小さな家に、かつて船長だった男と、その娘が暮らしている。父は過去の記憶に囚われ、静かな孤独の中で日々をやり過ごしている。優しい父でありたいと願いながらも、心の奥に沈む痛みがそれを許さない。ある朝、思いがけない出来事が二人の前に訪れる。それは新たな試練なのか、それとも小さな救いの兆しなのか――。“影”と“光”のあわいに揺れる、父と娘の静かな時間を描く短編アニメーション。

二人が暮らすのは箱型の小さな家で、周囲に建物は見当たりません。内部のしつらえはシンプルで、広い空間にペルシャ絨毯、所々お花や額も飾ってあり清潔に整えられています。片隅には絨毯の織り機も置かれ、地域性を感じました。監督の二人はテヘラン芸術大学出身だそうで、イランの伝統的なお家の様式なのでしょうか。

穏やかな色使いと抽象化されたアニメーションで描かれるのはしかし、割れたガラス、壊された破片、暴力的な世界。娘の表情からは不安と恐怖、悲しみが消えません。彼女を傷つけるのは父親ですが、父親もずっと悲しそうです。突然訪れる発作、おそらくPTSDの症状が彼らを苦しめ続けているのです。

シンプルなアニメーションですが、二人の表情、光の描き方、風をはらんだ布の動きなど細部の繊細さに引き込まれます。過酷な現実をそのまま伝えるのではなく、アニメーションに置き換えることで、失ったものや戻らないものの尊さを感じ、心が締め付けられました。素晴らしい作品でした。

今月の映画Netflix『愛してるって言っておくね』『あなたが帰ってこない部屋』

Netflix映画『愛してるって言っておくね』

「過酷な現実を、アニメーションに置き換えてみせる」という意味で、Netflix短編映画『愛してるって言っておくね』もぜひ見ていただきたい作品です。以前もみた映画が改めて私のおすすめに上がってきたのは、実は前の週に同じくNetflixのドキュメンタリー『あなたが帰ってこない部屋』を見たからだと思います。

Netflix All the Empty Rooms

2025年12月配信『あなたが帰ってこない部屋 / All the Empty Rooms』はアメリカの人気ニュース特派員スティーブ・ハートマンが、写真家ルー・ボップ氏とともに7年の歳月をかけて撮ったドキュメンタリーです。彼らは全米各地の、銃乱射事件によって命を落とした子供達の部屋を訪れ、両親の話を聞き、誰もいない部屋の写真を撮りました。驚くことに、2000年からの22年間で、アメリカの学校では1375件もの銃乱射事件が起こっているんだそうです。(USA FACTS

Netflix All the Empty Rooms

たくさんの子供達の部屋がでてきます。アメリカはやはりプライバシーが重要視されているだけあって、個性が部屋に反映されているように感じました。お気に入りの写真や学校で作った自分の作品、大好きなキャラクターやお気に入りのファッションなど、子供達が思い思いに自分の居場所を作っています。だからこそ親はそこに手を触れられずにいます。子供の匂い、子供がつけっぱなしにした電気、子供が着ようと出していた服をしまえずにいるのです。

Netflix映画『愛してるって言っておくね』

子供を失うのはどんな理由でも悲しいことですが、不条理な暴力によって奪われてしまった場合はとくに受け止めきれないのではないかと、彼らの部屋を見て感じました。そして最初にお話した『愛してるって言っておくね』も、銃乱射事件によって子供を失った夫婦の物語がアニメーションによって描かれています。ぜひ2本とも見ていただきたい!言葉にできない感情をどう表現するのか、伝えるのかについて考えさせられました。

2025年の締めくくりに、しんどい記事になってしまいました。そうそう、Netflixで配信中の『A House of Dynamite』にも衝撃を受けて、友達や家族に宣伝しまくりました。この映画にも暗澹たる気持ちにさせられましたが、それが私たちの生きる現実なんだと改めて実感します。2026年、「じゃあ私たちはどうするんだ?」ということなんだろうと考えております。
今とこれからに想いを馳せ、2025年を静かに締めくくりたいと思っています。みなさんも良い年末をお迎えください。今年もありがとうございました。

https://fujifilmmall.jp/walldecor/
↑スマホやカメラを持ち歩くことが増えて、かわいい写真をたくさん持っているのにインテリアに活かしきれてないと感じる今日この頃。パネルにして飾ってみるのはいかがでしょうか。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ