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Sep. 16, 2026

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.30

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対し、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

今月のショートフィルム『PUSH / 背中を押して』

9月は「宇宙月間に迷い込む My Strange World」と題して、自分の中の不思議な世界を描く作品特集です。誰もが持っているかもしれない、心の中の「ストレンジな世界」を、私的に、感情豊かに描く、選りすぐりの5本をお届けします。

イギリスからはエリー・コンドロン(Elly Condron)監督の『PUSH / 背中を押して』をセレクト。はじめての出産を控えた女性を監督自らが演じ、感じた違和感を赤裸々に描いています。

【ストーリー】
妊娠9か月のマグスにとって、妊娠は決して「美しい奇跡」ではない。孤独を抱えた彼女は助言を求めるが、訪問者は慰める代わりに、間もなく始まる新しい人生を受け入れるよう彼女の背中を押していく。妊娠と母性の理想像にユーモラスな視点で切り込む短編。

この映画の出発点は、監督であるエリーが感じた、ある違和感だったようです。

肉体的な変化ではなく、もう一つの変化、つまり「独自の人生経験とアイデアを持つ一人の人間、エリー」から「社会全体の所有物である、ありきたりな母親」へと変化したことです。

エリーが戸惑ったのは、それまでの人生で築き上げてきたアイデンティティが、突然「母親」という大きなくくりに入れられてしまったことでした。そもそも人はいつから母親になるのでしょうか。少なくとも私は、出産の瞬間「母親になったー!」とは感じませんでした。
そのことに対する疑問や意見を認めてもらえない孤独。おそらく妊娠という限られた時間だからこそ感じ取れる心の機微を描いています。

エリーの、大迫力の妊婦さんが最高です。大きな変化にただただ困惑する女性と、それとは無関係にお腹のなかで育っていく別の生命。彼女の家はデコレーションと生活感が混在していて、まさに生活が変わりゆくタイミングなんだなと、リアルに感じました。すべてが等身大で、共感しました。

今月の映画『20センチュリー・ウーマン』

(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

母親の役割とはなにか、母親とはどうあるべきなのか。そんな悩める母親と、まわりで生きる人たちを描いたのが、マイク・ミルズ監督の『20センチュリー・ウーマン』です。監督自身の母親をモデルにした、半自伝的な作品でもあります。

(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【ストーリー】
1979年のサンタバーバラ。シングルマザーであるドロシア(アネット・ベニング)は、思春期の息子にどう接するべきか、わからなくなっている。彼とぶつかりあうなかで、50代の彼女は自身の半生についても同時に向き合うこととなる。親子と下宿人、幼馴染、多様な人との関わり合いのなかで、それぞれの姿を見つめていく。

ドロシアが一目惚れしたという大きな家で、年代も職業もバラバラな5人が人生のある瞬間を共にします。ドロシアは、技術を身につけて稼ぐ進歩的な女性。学校からの呼び出しにも笑って乗り越えてきた、あたたかくもたくましい母親です。

インテリアは見どころがいっぱいです。かつては豪邸だった大きくて古い家を、ドロシアと下宿人とで少しずつ手を加えながら住んでいる、というインテリア好きにはたまらない設定。監督自身も「物語の中でまるでもう一人の登場人物のような役割を果たす」というほど、存在感のあるお家です。

(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

母と子がふたりで暮らすには広すぎるこの家は、他人をも受け入れる懐の深さがあります。下宿人がいて、息子の幼馴染が泊まりにきて、食卓には血のつながっていない人たちが集まる。手を加えながらみんなで育てているその家が、そのままドロシア自身の子育てに重なりました。
一人で抱えきれないものを、みんなで担っていく。
『PUSH /背中を押して』を観たあとだったからでしょうか。私はこの大きな家までもが、ドロシアの子育てを助けてくれているようにも感じました。

(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

色彩に関して、その組み合わせに何度もハッとさせられました。70年代の空気をまとっているのに、どこか個性的。監督のマイク・ミルズはグラフィックデザイナーでもあり、色についてかなり明確なイメージを持っていたそうです。美術と衣装が連携しながら、画面全体の色彩を作っています。

下宿人のアビーが、「母親になるのって大変だね」と言った言葉が印象に残りました。
ほんと大変。大仕事です。でも母親だけじゃない。結局みんな、「生きるって大変」なんですよね。この映画に出てくる人たちも、『PUSH』のマグスも、みんな泣きながら生きています。
世界のどこかに、自分と同じように悩んでいる人がいる。映画を観て励まされるのは、そんな瞬間なのかもしれません。

【今月、ご紹介したいアイテム】

ドロシアの寝室には、ヴァーナー・パントンが1971年にデザインした「パンテラ」と思われる照明が登場します。サイズはオリジナルのパンテラ400でしょうか。今購入するならポータブルもおすすめです!充電すればどこにでも持ち歩けて、インテリアの楽しみを広げてくれるはずです。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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