京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。
このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対し、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。
毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。
10月は「食欲の秋 心満ちる SHORT FILM RESTAURANT」。世界各国の「食」を描く4作品の中から、10月28日配信予定のアーモン・マハダヴィ監督作『Kateh Gojeh Farangi (ケイト・ゴジェ・ファランギ) / 母からのレシピ』をご紹介します。
ブルックリンに越してきた若いイラン系女性が、母親から教わったペルシャ料理「ケイト・ゴジェ・ファランギ(トマトの炊き込みご飯)」をつくる物語。
引っ越したばかりの家には段ボールや本が積まれたまま。家具も少なく、よわい光の中で、時間が止まったようなお部屋です。そこへ聞こえてくる女性の声。「まずはお米を洗って、玉ねぎとトマトを切って……」。彼女は洗濯物をたたみながら、静かに耳を澄ませます。
監督は、この何もないアパートを、ひとつの家を離れて新しい家をつくろうとする過渡期の象徴として描いています。
わたしのように半世紀ほど生きていると、引越したその日から自分の家になります。使い慣れた家具や食器を並べ、カーテンをかけて、まるでマーキングするかのように自分の匂いをつけていきます。
それに比べて、彼女の透明さはどうでしょう。
まだ暮らしの輪郭が定まらないキッチンで、母から受け継いだ料理を作る。その香りは彼女を安心させてくれるはずです。そしてこれからはまっさらな空間に、彼女自身の匂いをつけていくんでしょう。あまりにもすがすがしく、心があらわれるような気持ちになりました。

天狗の台所Season3(c)田中相/講 談社
さて、そんな「食」をテーマにした作品として、ぜひおすすめしたいのが、BS-TBS制作のドラマ『天狗の台所』です。10月1日から待望のSeason3が始まりました。
以前このコラム(「映画にみるインテリア」vol.15)でご紹介した映画『国宝』で、俊介の少年期を演じていた越山敬達さんが、このドラマの主人公オンくんです。Season1から比べるとずいぶん大きくなりました。
ニューヨーク育ちの少年オンが、天狗の末裔のしきたりで、日本の山里に住む兄・飯綱基(いづな・もとい/駒木根葵汰)と1年間暮らすところから物語ははじまります。
ファンタジーな設定とは裏腹に、描かれるのは畑の野菜を収穫し、季節の食材を料理して、自然の滋味をいただく日々。
何より気持ちがいいのが、基のピシッとした立ち居振る舞いと、ていねいに整えられた家。
天狗の台所Season3(c)田中相/講 談社
障子の桟や欄間など、凸凹だらけの古い家をきれいに保つのは大変です。基やオンの倍ほどの年齢のわたしにとっても、昔ながらの掃除の仕方は身近じゃありません。このドラマのプロデューサーが自身のnoteで「初めて原作を読んだとき、都会の子が古民家で一年暮らすって、もはや現代ではファンタジ―の世界なんだなという印象を持ちました。」とおっしゃっていて、なるほどそういうものかも、と妙に納得しました。
「天狗の台所 Season2」より (C)田中相/講談社 (C)maroyaka/BS-TBS
基の住む家は、実際の古民家を借り、家具や小道具を持ち込んでつくられているそうです。台所にはプラスチック製品を極力置かず、木やガラスなどの素材を中心に使用しているんだとか。
彼が日々何を選び、どう手入れしてきたのか。その積み重ねが、素材や使い込まれた道具の表情から伝わってきます。天狗の末裔としてどう生きるべきか、悩みながらも誠実に暮らす基らしい台所だと思うのです。
ブルックリンで、母から教わったトマトご飯をつくる女性。
日本の里山で、兄から暮らし方を学ぶ少年。
誰かから受け取ったものを、食を通じて自分の暮らしにつなげていく姿がありました。
毎日のご飯はyoutubeなしには成立しないわたしですが、お料理の本は大好きです。
浜竹睦子さんの『自家製はエンタメだ。』(サンクチュアリ出版)は、調味料や加工食品など210品の自家製に挑む、イラスト満載の一冊です。180度パタンと開く製本もうれしい。「読んでよし、つくってよし」の楽しい料理本です。