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REPORT
Dec. 02, 2019

【イベントレポート】New Cinema Lab. Vol.1
逗子・シネマアミーゴに訊く私設公民館の哲学[後編]

2019年11月16日(土)、Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE(BSSTO)は、東急東横線「学芸大学」駅近くにある「路地裏の文化会館 C/NE(シーネ)」にて、「New Cinema Lab. Vol.1 逗子・シネマアミーゴに訊く私設公民館の哲学」を開催しました。
映画を軸にした場づくりをしている方をゲストに、開業ストーリーやその裏にある哲学を伺う本イベント。文化的な拠点づくりに取り組む方を応援する目的で、BSSTOの公開収録イベントとしてスタートしました。初回は、逗子海岸近くに佇む一軒家をリノベーションした映画上映スペース「CINEMA AMIGO」館長の長島源さんと、「C/NE」館長の上田太一さんをゲストにお話を伺いました。

後編は企画作りのコツと今後の展開について聞きました。

<前編はこちら>

写真左:長島源さん、写真右:上田太一さん

上映企画作りのコツと、共通の芯を持つ仲間

大竹(モデレーター/BSSTO編集長)
おふたりとも上映やイベントをいろいろ作っていらっしゃると思うのですが、作品の選定基準や企画のコツについて伺えますか?

上田(C/NE館長)
作品の選定基準で言うと、もちろん自分が観てよかったものの中から選んでいます。あとはC/NEっていうキャパシティとナチュラルな感じの空気感のなかで観たい映画っていうところと、基本的には何かしらのカルチャーに紐づいていて、気持ちが明るく温かくなるようなポジティブな映画。シネコンでかかっているようなマスプロダクションの映画をここでやってもあまり意味がないと思っています。
あと、最近気づいたのはみんなが一度観たことあるような作品で、思い入れが強そうな映画をやると、その映画を観るのは2回目3回目なのに、わざわざここに足を運んでみてくれるような人がいるということです。今までだったら『パターソン』とか『シング・ストリート 未来へのうた』とか『フランシス・ハ』とか。まだ上手くその意味を説明できないのですが。

長島(CINEMA AMIGO館長)
都市型の映画館とCINEMA AMIGOとを比べて、一番変わって来るだろうなって思うのが作品選定の話です。たとえば渋谷のUPLINKだと満席で入れなかったっていう、グザヴィエ・ドランのような作品をCINEMA AMIGOでやっても入らなかったことはあります。そこは、都市型の映画館との違いです。
最大のヒット作というと、『人生フルーツ』っていうドキュメンタリー映画があって、建築家の老夫婦の生き方がテーマですが、口コミで広がってすごくヒットしましたね。ローカルな映画上映の場であっても、C/NEでやるのとAMIGOでやるのとは全然違うと思うので、地域性を考えていろいろ試していくしかないなって思います。

逗子海岸映画祭

上映企画作りでいうと、逗子海岸映画祭は成功例だと思うんです。その場の雰囲気がどれだけ楽しいと思える場なのか、空間の非日常感をどうやってどう演出するか、そのこだわりに反応してくる人が多かったと思います。
はじめた頃は有名人ゲストを目当てに来てくれる人が多かったのが、変な話「夜の上映は風が強いので中止を決定しました、けれど昼間の時間だったらどうぞ」って言って、それで入場料をかけても人は入るようになりました。その場所にいたい、その空間にいたい、っていう人が場所についたなって。それも5年目くらいのことで、そこらへんが分岐点だったって思います。
今はみんなで屋外で観たらいいなっていう娯楽作品をやりつつも、会期の後半では結構マニアックな映画やコアな映画、環境を考えさせるドキュメンタリーなどを上映しています。普通にやったらそれを観に来ないような層の人が、映画祭だと最後まで観てくってことが生まれるので。

逗子海岸映画祭

大竹
長島さんのチームってブランディングというか、カッコいい逗子のイメージを持っていると思うんです。ただ、ローカルに向けた集客を考えると、シニア層など集客できる層に合わせていった結果、本来作ろうとしていたカルチャーからブレるといいますか、その辺のバランス感覚ってどういう感じでしょうか?

長島
世界を旅してきたなかでローカルができるだけ食・住・エネルギー含めて自立できるような社会にしていくことが健全な社会だなっていうところがあって、そういう社会につながる活動になっているかが僕の場合の判断基準だったんですね。だから、そこさえブレていなければ意外と柔軟なのが僕のスタンスです。CINEMA CARAVANのメンバーは、空間づくりにアーティスティックなこだわりがあるのですけれども、僕はメンバーの中でも地域社会づくりとかにアンテナを張っている比重が高いですね。

大竹
長島さんの中ではローカリゼーションが価値判断の軸としてできているというか。

長島
隣でやっているマーケットでは顔の見える関係性で生まれたものしか置いていなくて、その意識を共有している人とチームを組んでやっているので、一緒にいるチームの人たちに何か共通の芯がありますね。関わっている人たちの共通性がブレていかないから、結果のアウトプットもブレていかないというか。

大竹
価値観の合う人とやっていくというところで、価値を共有しているかどうかは、どういうふうに見ていくのでしょうか?

長島
見ているというよりも、僕の場合だととにかく第一関門はオープンで、やっていく中で考えを共有できている人は続けていくし、ちょっと興味があっただけの人は知らぬ間にいなくなっています。時間経過の中でこの人とは一緒に活動できるんだなって人とだんだん関係が深まっていくいくってことでしょうね。

大竹
信頼している仲間には、どんな人がいるのでしょうか。

長島
僕がいっしょにやっているメンバーは得手不得手があって、ある種100%信頼できる人は自分含めて一人もいなくて(笑)。みんなでこぼこが結構あって、失敗もするしこれ不安だなあっていうこともありながら手探りやっています。ただ、CINEMA CARAVANメンバーに関してはもう家族みたいな感じですね。何かトラブルがあった時にも最終的には一緒に乗り越えていくだろうなっていう信頼はあります。
池子の森の音楽祭はCINEMA CARAVANとはまた別チームでやっているんですけれども、この企画に携わるメンバーも信頼しています。たとえば主要メンバーの粟津君は、「Happy Go Lucky」っていう海の家をやっている人で、彼もローカルならではの面倒臭いこともちゃんとわかっていて、それでいて同じ方向を向いている仲間だと感じています。

これから取り組んでいきたいことは?

大竹
私からの質問としては最後となりますが、「これから取り組んでいきたいこと」を、それぞれお願いします。

上田
C/NEとして取り組んでいきたいことは、大まかにいうと、先程お話したようにメンバーシップの制度を整えて、集まる人が有機的につながる仕掛けを作っていきたいなと。あとは、来年くらいからやりたいなとずっと思っているのがティーンエイジシネマクラブみたいな、中学生とか高校生を対象にした、一本の映画を観て自由にディスカッションする企画をシリーズでやっていきたいですね。

大竹
なぜティーンネイジャー?

上田
フランスのドキュメンタリーで『ちいさな哲学者たち』っていう映画があるんです。フランスの小学校の道徳の授業をずっと記録しただけのドキュメンタリーなんですが、同じクラスに移民などが入り交じっているから、一つのキーワードをテーマにディスカッションしただけで、バックボーンの違う子ども同士で、話がすごく広がるんです。環境次第で、ベースになる考え方が全然違うんだってことを学んでいくんです。それを観た時に、題材を映画におきかえてやったら面白そうだなって。
映画って価値観の違いを知ったり、想像力を養ったりするのにすごくいいですよね。一番多感な時に、映画を観てディスカッションするのはとてもいいと思っていて。地域の人も巻き込みながら、どうやってやったらいいのか具体的に詰めていきたいですね。

大竹
長島さんはいかがでしょう。

長島
始めて10年たって、10年前にやろうとしてたことが、なんとか形になってきたっていう実感はあります。ただ僕があまりにもあの場所にはりつきすぎて、自分のインプットが正直足りないなと思っているんですよね。ローカリゼーションっていう言葉も、一般の人に通じるくらい普及しましたし、どこの地域でもいろんな種類の街おこしが動いています。そんな中で、結果として僕たちがやっていることって、もはやそこまで先駆的なことではないなっていう自覚が多少あって。
今やっていることを継続しつつ、例えば今年は宿を始めましたが、地域の交流人口を増やす活動などは発展させながら、自分は地域を出てインプットできる時間を増やしていきたいですね。10周年を迎えて、10年続けた一区切りみたいなものがあるので、これまでやってきたことを、もうちょっと俯瞰で見れるような感じで。自分たちがもはや古くなってきてることもあると思うし、アップデートが必要な時期だなって感じています。

大竹
旅に出たいな、みたいな感じですか?

長島
そういうのもありますね。ひさびさにライブのツアーもやりたいです。いままでの繋がりと違うところに違う自分のチャンネルを作らなきゃいけない。じゃないとあの場所っていうのが、一歩間違えるといろんな同じようなものの中に埋もれてくものになってしまう。そんな状況に入ったなって感じています。

映画だからこそできること

大竹
ここで会場からの質問を受けようと思います。

Q:
お話ありがとうございました。
音楽って途中から入っても楽しめる部分があると思うんですけれど、映画って最初から最後まで観ないと話が分からないことがあったり、時間もショートショートみたいなのもありますけれど長いものは2時間くらいあるメディアが、イベントとしてやらなきゃいけないところの難しさはあるんじゃないかなと思っています。映画ってしっかり観に行かないとなかなか難しくて、飲食店でふらっと入る感じとは離れているかなと思うんですけれど、どうお考えですか?

長島
すごく個人的なことを言ってしまえば映画を観ている時間の間、自分の日常を置いておいて、ある人の人生とか違う世界に入り込む自分のチャンネルの切り替えとして集中できる時間の中にいるっていうことと、そこから見えるシチュエーションを楽しむということでいいなあと思っています。
特に現代の社会の中で僕が思うのはスマホの存在っていうのが大きくて、みんな常にスマホの存在を気にしながら生活をしている。僕の場合は映画を観てるときは完全にオフラインにしている。ただ、若い人の話を聞くと逆にスマホから切り離される恐怖の方が強いみたいですね。あのオフラインの開放感みたいなものを知ってもらえるようになったらその世代も変わる可能性はあるのかなと考えています。

上田
僕がこの質問で思ったのは、映画って2時間拘束するし、観る人のメンタル面、フィジカル面のコンディションがある程度整っている時じゃないと映画観に行くっていうアクションってなかなか起きないですよね。一方で、美味しいご飯とか美味しいお酒とか割と即効性がある快楽は、人のアクションに結び付けやすいのは間違いないですよね。ダンスミュージックとかロックミュージックとかも同じだと思います。
映画ってやっぱりまどろっこしいし、時間かかる。だけど、ただお酒飲んでおいしいとか、音楽聞いて楽しいとかっていうことよりも、もうちょっとシリアスな普段見せない表情とか普段見せない会話みたいなところまで、この場所でボソっと吐露されるのがいい。やっぱりそういうところまで空間の奥行きとして持っておきたいなっていうところがあって、一番ハードルが高い映画を僕は大事にしています。
でも、やっぱりお客さんはまだなかなか来ないです。カレーのイベントやったら100人くらい集まりますが、大好きな映画を上映しても3~4人しかこない時もある。でもその4人は来てくれたら抱きしめたいくらい、すごく嬉しいです(笑)。

大竹
ハードルが高いから、高いことをプラスにとらえるみたいな感じなんですかね。拘束時間があることをプラスに考えて、そのことを共有する価値みたいな。

長島
さっきの若い人にむけてっていうのは、結構なハードルがあると思うんですけれど、その世代の人がそういう風になっていかないと映画館はなくなる可能性は大いにあるなあって思いますね。

上田
長島さんは二番館三番館みたいなポジションでやっていますよね。要は新作がかかった後というか。僕がこういうことやっていると必ず言われることが「NetflixとかAmazon Primeで観れる映画をなんでわざわざお金をかけてここへもう1回観に行くの?」と。

長島
そこに対する答えはまだちゃんとは返せないんですけれど、僕の中ではそこに集中できる時間を持つことの価値をどう広めていくかしかないかなと思います。Netflixにはない他のものに邪魔されない環境を、映画と自分だけで向き合える時間になることを持てる場であること、そこしかない。
あとは上映が終わった後、僕がカウンターに立って次の上映が始まるまでの時間に立ち話して「これあーだったよね、こーだったよね」と話す時間です。10年くらいほぼ上映作品が変わるたびに観に来てくれる人がいて、そういう人との間ではあります。

文化空間が生まれた先にあるもの

大竹
ありがとうございます。そろそろお時間が来てしまいましたので、今日を振り返って、最後におふたりから。

上田
僕はまだまだ始めたばっかりの手探りの状態なので、自分より先に長島さんみたいなパイオニアがいるということが、自分のやっていることの背中を押してくれる。松明のような存在ですね。あの人が同じような思いで突き進んでいるから、エリアは違うけれど僕もこっちで頑張ろうっていう気持ちになれるので、会えて嬉しかったです。

長島
僕は東京でこういう場所が生まれたんだなって、この場所に来たことが面白かったですね。僕が一方的に話していた形でしたがおもしろかったですか?僕が話したことで会場の皆さんも何かしらのインスパイアなり刺激になれば嬉しいなと思います。

大竹
ありがとうございます。僕も実は2~3年先には地元で文化のある場を作りたいなと思っていて、その時のイメージとしてあるのがAMIGOやC/NEのイメージなんです。今回お話を聞いてすごく勉強になりましたし、いただいたものをしっかりと活かしていきたいなと思っています。
また、今回参加いただいている方やBSSTOの読者の方の、それぞれの地元に、CINEMA AMIGOやC/NEのようなこういう場所が増えていって、自分たちのカルチャーが作れる場所、好きっていう気持ちをちゃんと表現できる場所が世の中に増えていったらいいですね。
「男の子だったらサッカーか野球でしょ」みたいな話ではなく、人それぞれ好きなものってあるはずで、それを世に出して認められる社会をつくっていきたいなと思っています。
そのためにもこういった機会を有効に生かしていけたらなと思っていますので、共感いただける方に今後も参加していただければと思っています。
長島源さん、上田太一さん、本日はありがとうございました。

トーク終了後はショートフィルム上映を行いました。ショートフィルムは15分程度で観ることができるので、イベントとの相性も良いです。

上映作品はBrillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE2020/1/24まで配信中の『愛おしい家 / Home Suite Home』(オランダ/2015年)
【あらすじ】
ルートヴィヒはベテランのホテルの覆面調査員で、この27年間、年の300日をホテルで暮らしている。ある日年下の女性調査員と出会い、単調な毎日の繰り返しから一歩を踏み出すことになる。

視聴ページはこちら

上映後はそのままBAR TIMEに。ゲストの一方的なトークではなく、集まった人ひとりひとりが主人公としてフランクにコミュニケーションをとれる、そんな場になるようNew Cinema Lab.では意識しています。それには空間づくりや「食」というコンテンツも重要なファクター。C/NEはぴったりの会場のように思います。

看板メニューの「牡蛎とクレソンのカレー」。

クラフトビールと焼売

シェフの森さん

次回は2020年1月に、藤沢市の鵠沼海岸にある「映画と本とパンの店 シネコヤ」オーナーの竹中翔子さんをお招きして同じ形式でお話を伺います。元写真館をリノベーションして作ったこだわりの場所、開業ストーリーなど直接お話を伺えるチャンスです。詳細が決まりましたら、BSSTOサイトおよびSNSでお知らせしますので、場所づくりに関心のある方、映画や文化の価値について深く考えたい方、ぜひご参加ください。

構成:大竹 悠介
撮影:藤川 舞子

 

CINEMA AMIGO(シネマアミーゴ)

■住所:神奈川県逗子市新宿1-5-14
■アクセス:JR「逗子」徒歩15分、京急逗子線「新逗子」徒歩13分
※近隣にコインパーキングあり。
■開館時間:Open 9:45〜Close 最終上映終了後、
不定期のBAR営業は24時まで
イベント・貸切等で休映となる場合がございます。ウェブ等でご確認ください。
■オフィシャルサイト: http://cinema-amigo.com/

路地裏の文化会館「C/NE」

■住所:東京都目黒区鷹番2丁目13−9
■アクセス:東急東横線「学芸大学」徒歩4分
■営業:平日は間借りカレーとBAR営業。土日にイベント。平日は「シーネ食堂」としてお酒と料理を提供。詳しくはオフィシャルサイトにてご確認ください。
■オフィシャルサイト:https://welcomecine.com/
■Facebook:https://www.facebook.com/wearecine/
■Instagram:@welcome_cime

Writer:大竹 悠介(おおたけ・ゆうすけ)

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長。大学院でジャーナリズムを専攻した後、広告代理店勤務を経て現職。「映画体験の現代的な価値」をテーマに全国の取り組みを継続取材中。
Twitter:@otake_works

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