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Nov. 21, 2020

【シネコヤが薦める映画と本】[第29回]『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』と
「ミツバチおじさん」から学ぶ、わたしたちの役割

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に佇む「映画と本とパンの店・シネコヤ」。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。
今回は、『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』と「「ミツバチおじさん」から考える自然の循環について。

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もしかしたら、できるかもしれない。そう感じた。
これまで多くのナチュラルな生活や田舎暮らしを映画や本で見てきたけれど、「そうはいっても…」という考えがいつも頭を過ぎって、“自然な暮らし”ができない言い訳を並べてしまっていた。
けれども、この映画の方法なら、きっとできるような気がした。

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』は、息を呑むほど美しい“究極の農場”が出来るまでを映したドキュメンタリーだ。

究極の農場を作る夫婦の8年間

© 2018 FarmLore Films ,LLC

(あらすじ)
殺処分寸前で保護した愛犬のトッド。
その鳴き声が原因で大都会ロサンゼルスのアパートを追い出されたジョンとモリー。料理家の妻は、本当に体にいい食べ物を育てるため、夫婦で郊外へと移り住むことを決心する。しかし、そこに広がっていたのは200エーカー(東京ドーム約17個分)もの荒れ果てた農地だった―。
時に、大自然の厳しさに翻弄されながらも、そのメッセージに耳を傾け、命のサイクルを学び、愛しい動物や植物たちと未来への希望に満ちた究極に美しい農場を創りあげていく―。自然を愛する夫婦が夢を追う8年間の奮闘を描いた感動の軌跡。

それはそれは過酷な自然との戦いなのだが、実は戦いなのではなく、それぞれの虫や生物に役割があることに気がつく。自然は歯車のようになっていて、かみ合い出すと美しく、優雅に、そして滑らかに動き出す。本来自然とは、守るものでもなく、受け継がれるものでもなく、ましてや人間にコントロールできるものでもない。この美しい農場が取り入れた方法は、自然を十分に観察し、人間に与えられた役割を果たすだけのものだった。

© 2018 FarmLore Films ,LLC

「自然の循環」は再び生み出される

「自然を守る」「子どもたちの未来に豊かな自然を残す」など、ときどき聞くフレーズに、日頃から違和感があった。この映画を観てからというもの、その違和感は更にくっきりとした。
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』の農場“アプリコット・レーン・ファーム”は、荒れた土地の土作りから始まった。前の農家により放置されたいくつかの果樹を抜き去り、土に微生物を撒き、新たに池を作り出す…自然の循環に沿った環境を整える作業。それはある意味では非常に人工的な自然環境でもあった。そこから多くの生物たちの逆襲とも言える想定外の出来事が起きてしまい、思うように自然環境を整えることができない…。そこで“アプリコット・レーン・ファーム”が取った策は、状況を観察し、手を貸し、ただ、その流れに身を置くこと、だった。
全ての生き物に丁度いい循環が、ついに再生されたのだ。

「守る」や「残す」という言葉は、どうも「自然」というものに似合わないらしい。映画に映し出された「自然」は、そんな儚いものでも、弱々しいものでもなく、むしろ神々しく、力強い、わたしたちの想像を遥かに超えた息吹を生み出し“続けて”いた。生まれては土に還り、生まれては土に還り…を繰り返す「サイクル(循環)」であった。新たに再生し続け、美しい循環が生まれた時、調和の取れた生態系が再生される。
その “自然の循環”は、全ての植物や生物たちに気持ちよさそうに見えた。
それは、人間にとっても例外ではない。

© 2018 FarmLore Films ,LLC

森と林の違い

「ミツバチおじさんの森づくり」(吉川浩 著)によると、森と林は違うらしい。本書は、日本ミツバチの自然養蜂を通して、いかに森林の存在が自然の生態系を保つ役割として重要であるかを説いている。日本の国土における森林率は約67%で、そのうちの半分は植樹による人工林であるそうだ。なんだ意外と多いではないか、とホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、森林は“森”と“林”であるのだが、多くの人がイメージする山々の“林”は、この人工林である。そこには自然の生態系がないため、生息できない生き物が多いらしい。“森”である天然林でしか生息できない生き物も多いため、イノシシや熊、猿などの動物、また昆虫などの生物も難民となって、街へ出てきているのが現状だ。

調和の取れた“自然の循環”が生み出され、生態系が整うまでには、その土地にとって必要な植物と動物や昆虫、微生物までもがうまく役割を果たさなければならない。日本の作り出された“林”で起きていることは、それとはかけ離れていたのだ。著者の吉川さんは、この人工林を早く自然林に還さなければならない、と訴えている。

自然の循環に沿った生き方をしたい

前回(第28回)の記事「“腐る経済”と『もったいないキッチン』〜生き方を考えるとき、辿り着く先」にも書かせてもらったが、“自然の循環”の一部に、自分の生活を置きたいと思う機会が増えている。
この映画と本も、そのひとつだ。

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』の“アプリコット・レーン・ファーム”を営む夫婦も、「ミツバチおじさん」も、自然への観察眼を徹底的に養うことに集中し、自然の流れに沿うことを行っているに過ぎない。現代の人間として、その与えられた役割を通して、自然の一部を担っているようにも感じた。そこに憧れの念と、これからの生き方の指針を見たような気がした。

やはり、自然は守るものでも、残すものでも、作り出すものでもない。
“自然の循環”のルールに則って、その役割を果たす…
願わくば、こんな生き方をしたい。

【おすすめの本】 「ミツバチおじさんの森づくり」

2019年|吉川浩|ライトワーカー

【おすすめの映画】『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』

■監督:ジョン・チェスター
■シネコヤでの上映期間:アンコール上映!12/24(木)~1/6(日)まで

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
9:00〜18:00ごろ
※不定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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