海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に佇む「映画と本とパンの店・シネコヤ」。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。
今回は、オランダの画家レンブラントの作品を巡る人間の姿を生々しく描いた映画『レンブラントは誰の手に』と、絵画×サスペンスの名著「消えた名画 世界美術品犯罪史」について。
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近頃はドキュメンタリーが面白い。「事実は小説より奇なり」と言うが、そんじょそこらのフィクションよりも、圧倒的にドラマチックで面白いじゃないか、と思うドキュメンタリーがある。
本作も、その一つ。
©2019DiscoursFilm
(あらすじ)
貴族の家系に生まれ、レンブラントが描いた貴重な肖像画のある家で育った、若き画商ヤン・シックス。彼はある日、ロンドンの競売クリスティーズに出されていた「若い紳士の肖像」に目を奪われる。これはレンブラントが描いたものだと本能的に感じた彼はその絵画を安値で落札。本物か偽物か。本物であれば、巨匠レンブラントの知られざる新たな作品が発見されるのは44年ぶりであり、専門家や美術史家らもアートを愛するがゆえにヒートアップ。しかし思いもよらぬ横やりが入ってしまう……。
一方で、フランスの富豪ロスチャイルド家が何世代にも渡って所有していたレンブラントの絵画2点「マールテンとオープイェ」が1億6000万ユーロ(約200億円)という高値で売りに出される。滅多に市場には出回らない見事な2枚の絵画を獲得するために動き出したのは、世界で最も入場者数の多いルーヴル美術館とレンブラントの作品を多数収蔵するアムステルダム国立美術館。いつしか、絵の価値など分からない国の要人まで乗り出す事態に……。
©2019DiscoursFilm
まるでサスペンスやミステリーのように、レンブラントの絵画をめぐるドラマチックな展開には思わず身を乗り出してしまう。はじめは登場人物たちがいかにレンブラントの絵が素晴らしいか…を語るインタビューが続くのだが、徐々にそれぞれの思惑や欲望が入り乱れ、サスペンス劇場を見ているような緊張感が漂い出す。絵画を取り巻くコレクター、研究家、美術館までもが動き出し、美術史のミステリーさながら真実が闇に消えていく。
そして、これが現実に起こっていることなのだと我に返った時、妙な高揚感と共に、このドキュメンタリーの面白さを心底感じるのだ。
美術館で100年を超える名画を目の前に、その時代の人々や街、そして作者に思いを馳せることは、この上ない贅沢な時間である。いつ、どこで、なぜ、だれによって、この絵画は描かれたのか…美術館の壁にかけられたキャプションに目を凝らして、時空を超えた想像の世界へ飛ぶことができることも、絵画が多くの人を魅了する所以だ。
「消えた名画 世界美術品犯罪史」には、世界の絵画や美術品をめぐる数々の盗難事件が紹介されている。美術品の盗難なんて「ルパン三世」のアニメでしか見たこと聞いたことも無いものだから、実際にあった事件のエピソードにワクワクしてしまう。本書では、犯人がわからず静かに戻され謎に包まれた事件もあれば、貧乏学生によるおそまつな事件もあり、絵画をめぐるミステリーもなんだか身近に感じるものも
©2019DiscoursFilm
「絵画を買う・所有する」ことは生活とかけ離れたところに存在し、特別な層にしか権利が与えられていないような印象を持ってしまう。また、株や土地のように売買され、多くの人の目に触れることなくコレクターの倉庫で眠っている作品も少なくはない。
コレクター個人の所有する美術品に至っては仕方のないこととも思うが、美術館で過ごすあの時空を超えた特別な時間を、なんだかつまらない理由で作品にお目にかかれないのはとても残念なことと思う。所有者にはある種の公益を担って欲しいと願ってならない。
果たして「若い紳士の肖像」と対面できる日は来るだろうか…。
【おすすめの本】「消えた名画 世界美術品犯罪史」
昭和43年|ミルトン・エステロウ 著|朝日新聞社
【おすすめの映画】『レンブラントは誰の手に』
■監督・脚本:ウケ・ホーヘンダイク
■シネコヤでの上映期間:4月5日(月)〜
「映画とパンの店・シネコヤ」
【営業時間】
9:00〜18:00ごろ
※不定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/