店舗を持たず“ノマドな古着屋”としてヴィンテージ映画Tシャツを紹介してきた「weber」が今年1月に独自の視点でセレクトした映画を劇場で上映する映画配給レーベル「weber CINEMA CLUB」を創設! 6月には東京・表参道のカフェ「モントーク」(2022年3月閉店)の跡地に、藤原ヒロシ氏がディレクションを手がけオープンしたコンセプトストア<V.A.>にて、映画『羊たちの沈黙』とのコラボレーションによるポップアップストアを期間限定(6月22日で終了)で展開した。
「weber」も5月には渋谷にアポイント制の実店舗をオープンさせるなど、次々と新たな試みを展開している。なぜヴィンテージ映画Tシャツ? なぜいま映画配給レーベル? そして気になる今後の展開は――? 「weber」主宰者の池田仁さんにじっくりと話を聞いた。
僕は大学生活を沖縄で過ごしたんですが、そこでヴィンテージTシャツに出会って、それ以来、ずっと好きということが前提としてありました。加えて、いまも大手ファッション通販サイトに勤務しながら「weber」をやっているんですが、その会社の創業者が「好きなこと」を仕事にして今の会社を創業され、その姿に影響されたというのは大きかったと思います。「自分もやってみよう」という文化祭のような軽いノリで始めてみたのがきっかけですね。当時はこんな本格的なことになるとは想像もしていなかったです。
weberと『羊たちの沈黙』のコラボTシャツを着用した主宰者の池田仁さん
ありがとうございます。振り返ると2つあったかと思います。
ひとつ目は、2018年に始めた時のことで、もともと「weber」という名前は、僕が大好きなブルース・ウェーバー(写真家/映画監督。『トゥルーへの手紙』、『レッツ・ゲット・ロスト』など)から付けたんですけど、彼の誕生日が3月29日なので、その日にオープンしようと思っていたんです。でも、会場が見つからず(苦笑)、4月1日のエイプリルフールにオープンとなったんですが、その最初のイベントにたまたまスタイリストの二村毅さんが来てくださって、当時開業したばかりの東京ミッドタウン日比谷でのイベントを「やろうよ」と声をかけてくださったんです。それで6月にイベントをやったんですが、それは最初の転機だったと思います。
「ヴィンテージTシャツ」に特化した業態、「古着」をクリーンに見せた撮影や見せ方、映画やアートのヴィンテージTシャツ中心の独自性の高い品揃え、ノマドな運営スタイル、ファッション感度の高い商業施設でのイベントなど、今でこそスタンダードかもしれませんが、当時、僕ら以外殆どそういったことをやっている古着屋はいなかったと思います。
そういったある意味でそれまでの「古着屋」という枠組みに捉われない広がりができたことは、自信につながりました。
もうひとつは、2022年から「ドーバー ストリート マーケット」(〈コム デ ギャルソン〉の川久保玲氏がディレクションを手がけるロンドン発のコンセプトストア)で展開させてもらうようになったこと。そこでヴィンテージのTシャツを集めた年一回の祭典「大Tシャツ展」というのをやらせていただくようになって、それはすごく大きかったと思います。
あれだけの世界的なストアでこういうイベントができて認知度も上がりましたし、世界で何店舗も展開するドーバーさんにとっても、ヴィンテージのアイテムを扱うのは初めてだったということで、誇らしくもありましたし、自信にもなりました。
ヴィンテージTシャツが並ぶweberのショールーム
これは、「weber」を始めた当初からずっと変わらないことですが、基本的には自分たちが「好きだ」「いいな」と思えるものだけを扱うということですね。自分が「着たい」と思えるものを買うというスタンスでやっています。ある意味、個人的に趣味で集めているのと変わらない(笑)。
だから毎年1回「大Tシャツ展」でかなりの数のコレクションを手離すことになるんですけど、準備にものすごく時間がかかります。
(手元にあるTシャツを)見ながら「これどうしようかな…?」とか「これはできれば売りたくないから、ちょっと値段を高めにしとこうかな…」とか私情を挟みながら…(笑)。
市場ではなく私情を強めに意識しながらやっています。
2020年に渋谷パルコでJUNさんが運営されている「POP BY JUN」と組んでイベントを開催させていただくことになったんです。
結局、コロナ禍でオンライン開催になってしまったんですが、ちょうど映画『mid90s ミッドナインティーズ』が公開されるタイミングで「一緒に何か作ってみませんか?」とお声がけをいただいたのが最初のきっかけですね。
映画を観させていただいて「A24」のすごく面白い作品で、すぐに「やりたいです!」と。そこでもやっぱり自分たちの「好き」という気持ちがベースにありました。
ヴィンテージのTシャツは近年特に値段も高騰し、絶対数も少ないく、サイズも小さかったり、よれていたり劣化したりしますよね。
みんな、ほしいけどなかなか手に入らないから気軽に着られないというのもあって、それはもったいないなと。『mid90s ミッドナインティーズ』をやらせていただいて以降、いろんな作品を手掛けていますけど、より買いやすい値段でヴィンテージを“再構築”するというか、自分たちのフィルタを通して世の中にリリースすることができれば、それは意義のあることなんじゃないかと思っています。
ショールームには「weber」が今までに製作したオリジナルTシャツも並ぶ(写真は「ストレンジャー・シングス 未知の世界」)。
僕らは、自分たちの好きなTシャツを扱っています。
人によっては、ただのTシャツですが、ヴィンテージであればそれまでの歴史がボディやプリントに表れていますし、ヴィンテージをソースにした新品には、拘りのポイントがいくつも詰まっています。そんなTシャツ毎のストーリーも是非ご覧いただきたいですし、僕らは「好きなこと」を追求することで、色々な人との出会いや新しい価値観に触れ、人生が豊かになった実感があります。
何というか、そういうものが凝縮されたものがこの空間だと思っているので、少しでも皆さんの琴線に触れるものがあれば、嬉しいなと思っています。
このショールームもどうしてもアポイント制(1時間に1組)だと敷居が高いと感じてしまうかもしれませんが、いろんなものがあるので、この空間を楽しんでもらえたら嬉しいです。
これまでずっとノマドでやってきて、年に1回か2回のイベントでしかお客さんと繋がることができなかったので、お客さんと繋がる場所ができればと思いでこの空間を作ったし、それがブランドをより強くしてくれるんじゃないかと思っています。
特にカルチャー発信の中心である渋谷のど真ん中でこういう店舗を持たせていただけたのは、本当に良いご縁だと思うので、ぜひ気軽に遊びに来ていただきたいです。
ショールームの壁に掛けられた映画『KIDS/キッズ』のヴィンテージTシャツも雰囲気抜群!
まず「シンプルにTシャツに向き合える空間にしたい」という思いはあったんですが、どうせやるならカルチャーや僕らの活動に理解のある方にお願いしたくて、訓市さんにお話しさせていただきました。
たまたま、昨年ドーバーさんとの取り組みで、ロンドンでイベントをさせていただいた時に偶然にも訓市さんもロンドンにいらしたので、そこで少しだけお時間をいただいて、構想をお話ししたんです。
その場では「良い」とも「悪い」とも言われなかったんですが、帰国後にこの場所を実際に見ていただいたら「シンプルな空間だから、キオスクみたいなのを置いたらいいんじゃない?」と言ってくださって、その言葉がすごくピンときたんですよね。
棚は可動式になっているんですけど、そこには“ノマド”という文脈も加味してくださったのかなと思っていて、すごく気に入っています。
トリップスターがデザインしたショールームの什器
池田仁/weber主宰
自身が務める大手ファッション通販サイトに勤務する傍ら2018年からweberをスタート。2025年には渋谷にアポイント制のショールームを開店。Tシャツと映画と自然をこよなく愛する。
weber
ヴィンテージTシャツを軸にファッションとカルチャーを横断する独自の世界観を発信するヴィンテージショップ。希少な一点物のセレクトに加え、ヴィンテージTシャツに特化したオークションの主催、未来のヴィンテージをコンセプトにしたTシャツの制作などTシャツというメディアの新たな価値を提案しています。
Instagram: @weber71_
weber CINEMA CLUB
weberが手がける映画配給レーベル。独自の視点でセレクトした映画の配給や「ファッション×映画」を軸にしたマーチャンダイジングを展開。Tシャツを通じて培った世界観を映画にまで広げ、映画業界全体を盛り上げる一助となることを目指して活動中。2025年10月に、新たな全国公開作品を配給予定。
Instagram: @weber_cinema_club