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Jan. 28, 2020

【シネコヤが薦める映画と本】〔第20回〕『私のちいさなお葬式』〜本と映画で旅するロシア~

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。今回は映画『私のちいさなお葬式』と書籍「かわいいロシアのA to Z」から、”映画と本で旅すること”をつづります。

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異国のことを知るのに、映画はとてもいい。景色、街並み、文化、そして日常…映画を通してその国を旅することは楽しい。そう思わせてくれる、可愛い映画に出会った。

『私のちいさなお葬式』はロシアから届いた飛びきりキュートで、ユーモア溢れるおばあちゃんたちの物語。

ロシアの小さな村で、気心の知れた友人と大好きな本に囲まれ充実した余生を送っている73歳のエレーナが、病院で突然の余命宣告を受けた。家族は5年に1度しか会わない息子オレクひとり。都会で仕事に大忙しの彼に迷惑をかけまいと、エレーナは秘密のお葬式計画を開始する。お葬式に必要な棺や料理の手配を済ませ、役所や葬儀屋を訪ね回ったエレーナは、親友である隣人リューダや元教え子らの助けも得て、準備を整えていく。生前の夫との思い出の曲をかけながら死化粧を施し、かくしてすべての段取りを整え終えたエレーナの“完璧なお葬式計画”は順調のはずだったのだが…。

『私のちいさなお葬式』© OOO≪KinoKlaster≫,2017r

「ロシア映画」のイメージ

ロシア映画というと、現代の映画はあまりイメージが沸かなかった。にわか知識を絞り出して出てきたのは、大学時代に映画史で習った旧ソ連の映画「戦艦ポチョムキン」という、小難しい映画だ。それ以外にも調べてみると『父、帰る』(2003)、『草原の実験』(2014)と良作があるものの、静かでシリアスな映画のイメージだ。
映画『私のちいさなお葬式』は、そんな「ロシア映画」のイメージを覆す。この映画のなんとまぁ、可愛いこと。コメディ仕立てのストーリー展開に、ちょっぴりブラックユーモアも交えて、おばあちゃんたちの会話がコミカルに進んでいく。とりわけ、映画に登場する東欧のデザインはとにかく素晴らしい。目を引く数々の可愛い小物たち。赤縁のトンボメガネ、あたたかそうな帽子、部屋の壁紙に、ベッドのフレーム…東欧の愛らしいデザインがスクリーンいっぱいに広がって、見ているだけで気持ちがほっこりする。こんな田舎町の生活も、素敵な生活雑貨に囲まれた異国の地だと「羨ましいなぁ」なんて憧れてしまう。

© OOO≪KinoKlaster≫,2017r

さらに驚いたのは、劇中の挿入歌で「恋のバカンス」がロシア語で歌われている…。昭和の名曲ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」カバーバージョンが象徴的に使われていることに、謎の親近感が湧いてしまうのは私だけだろうか。
まるでひと旅したかのように、すっかりロシアという国が身近になってしまう。(慣れ親しんだ音楽の影響は大きいが…。)

© OOO≪KinoKlaster≫,2017r

映画と本で旅をする

映画だけでなく、本も異国の地を旅するには相応しい。ロシアをたっぷり堪能するには「かわいいロシアのA to Z」がオススメだ。ポケットサイズの小さな本で、旅の持ち歩きにもピッタリ。
архитектура[アルヒチクトゥーラ]― 「建築」 という意味のロシア語からスタートし、A〜Zのアルファベットにまつわるロシアの可愛いアレコレが詰まっている。
カフェ、教会、市場などの街並みの他にも、「夏」という季節について、ロシアの子どもたち、チョコレート、ヨーグルトのパッケージに、もちろんマトリョーシカまで。ロシアを知るための入門としては十分すぎるほど。
旅行会社を経て、現在は奈良県でカフェを営む著者 井岡美保さんの書く紹介文が愛情にあふれていて気持ちがいい。「あぁ、本当に好きなんだなぁ」というのが伝わってきて、読み終わるとすっかりロシアのことを好きになってしまっているのだから不思議だ。

実は、私は海外へ旅行をしたことがない。子どもの頃から準備や段取りが苦手で、究極の面倒くさがりなので「旅行」と聞くだけで億劫になっていた。関東から出ることもほとんどなく、飛行機に乗ったことも人生で一度しか無い。海外旅行なんてもってのほかなのだ。
その点、映画や本は、視覚的に、あるいはイメージの疑似体験として、たくさんの国々に触れ合うことができる。この上ない面倒くさがりの私にとっては最善の方法だと思う。そんな出不精の性質もあってか、映画と本の世界に没頭していくようになるのも納得のこと。
旅をしている気持ちにさせてくれる、映画と本。これほど容易くトリップできて、贅沢な時間を過ごせるアイテムは無いなと思う。見たこともない場所へ連れて行ってくれる・・・その時間は、格別な旅のひとときだ。

映画『私のちいさなお葬式』

2017年/ロシア/100分
監督:ウラジーミル・コット
出演:マリーナ・ネヨーロワ/アリーサ・フレインドリフ/
シネコヤでの上映期間::2/10(月)〜3/1(日)

本「かわいいロシアのA to Z」

2018年|青幻舎|井岡 美保(著)

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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