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COLUMN
Jun. 19, 2020

【映画にみるファッション】『ジョジョ・ラビット』
-成長とともに纏うものの変化-

コラム「映画にみるファッション」。今回は、第二次大戦下のナチス・ドイツを子供の主人公のユーモア溢れる視点で描いて話題をさらった映画『ジョジョ・ラビット』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

熱狂の火種を生み出すファッション

© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

物語の舞台は、第二次世界大戦下のドイツ。

10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)の助けを借りて、実在した青少年集団ヒトラーユーゲントの立派な兵士になろうと奮闘しています。

ジョジョの着用する制服は、ライトブラウンのプルオーバーシャツ、ブラックのハーフパンツなど当時の制服を忠実に再現!

胸ポケットはミリタリー感を匂わすフラップとマチが付いたポケットで、ベルトには所属のマークが掘られたバックル。その他にも大人の軍服のディティールをふんだんに取り入れており、デザイン性に優れた軍服を子どものころから与えられていたことがわかります。

© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

ナチスの軍服といえばドイツ出身のファッションデザイナーであるヒューゴ・ボスがデザインを担当したことは知られていますが、デザインによって憧れや忠誠心を纏わせることに成功したことが、当時のナチスにカルト的熱狂を生み出していきます。

ファッションが生み出す熱狂の火種が、類をみない悲劇につながっていくことを考えると、私達現代人は恐ろしい側面がファッションにはあることを理解しないといけないのです。

自分を象徴するキラーアイテム

© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

ジョジョのたった一人の家族で勇敢な母親ロージー(スカーレット・ヨハンソン)は、激動の渦のど真ん中にいるにも関わらず、渦に流されることなく自分らしく生きるハンサムな女性で、ファッションもとっても個性的で特に色使いが抜群です。

チロリアンハットやシャツ、独特な幾何学模様のニットカーディガンは、グリーン系の色味でまとめていますが、幾何学模様に入ったブラウンの線や、たすき掛けしたバックのベルトのブラウンが見事に金髪と色合わせができていて、普通なら浮いてしまいそうな金髪を見事に同化させているのです。

そして、ホワイト&レッドのバイカラーシューズが、紳士のドレスシューズと同様のオックスフォードスタイルのデザイン自由で闊達なロージーを象徴し、かつグリーン系のファッションの多い彼女の足元を色味からも際立たせています。

まさにロージーのファッションスタイルの中で、このシューズがキラーアイテムとなっているのですが、そこにはしっかりと伏線がはられているのです…。

メッセージが込められたファッション

© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

ジョジョとロージーの親子は、どこにでもいる寄り添いながら生きる親子です。

戦時下という緊張状態の中でも、オシャレをして街に駆け出す姿は、臆病者のジョジョにとって、母の背中を追いかけ追い越すことで、勇敢かつ自由で闊達な大人になって欲しいというロージーからのメッセージのようです。

そんな中、ポルカドット柄のお揃いパジャマが微笑ましく映ります。

腰元のパッチポケットや肩周りの切り替えなどしっかりファッションしているパジャマですが、どことなくハンドメイド感を感じる作りで、親子でお揃いのパジャマを仕立てたロージーの愛情を感じるだけでなく、臆病者で甘え者のジョジョを彷彿させるデザインが、可愛いままでいてほしいという親心も感じさせてくれるのです。

ファッションは、時に自己表現としてだけでなく、誰かのメッセージが込められたアイテムとなるのです。

最後にファッションとして纏うもの

© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

戦争への辛口なユーモアを効かせたハートフルなコメディタッチで展開されていきますが、それでも戦争は戦争です。時に悲劇に見舞われます。

臆病ものだったジョジョは、そういった悲劇を数多く経験しながら終戦を迎えますが、最後に大きな葛藤を持ちながらも最後の決断をするのです。

そこには少年だったジョジョが、成長を遂げて青年ジョジョとして挑むのです。

ファッションも襟をコートの外に出して着崩すもシルエットがとてもキレイなトラウザーズをしっかり履いていることで、大人の色気を少しですが醸し出しているのです。

 

© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

ファッションは、心体の成長とともに一緒に変化・進化するものです。

ジョジョは、あの時点で大人にならないといけない、男にならないといけない。

という極限状態が、本人の覚悟という見えない衣を、最後にファッションとして纏わせたのかもしれません。

『ジョジョ・ラビット』

デジタル配信中
ブルーレイ+DVDセット発売中
© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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