ログイン
MAGAZINE
COLUMN
Aug. 07, 2020

【映画にみるファッション】『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
-ファッションとメンタルの関係-

コラム「映画にみるファッション」。トランプ大統領が再選?それともバイデン氏が勝利?と、いま話題のアメリカ大統領選挙。
今回は現在Netflix映画『オールド・ガード』が好評のシャーリーズ・セロンが、国務長官にして次期大統領候補である才色兼備の女性を演じ、冴えないジャーナリスト男性との恋を描いたラブコメディ映画、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

ファッションにも科学反応が起きるのだろうか?

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

女性の活躍が目覚ましい現代において、シンデレラストーリーを夢見るのはもはや女性だけではない。
大統領候補のスーパーウーマンと失職中のダメ男。
現代社会を背景に、誰が見てもありえない男女が繰り広げるアメリカンジョーク満載のシニカルラブコメディとして画かれたのが「ロング・ショット」。
立場や価値観が違う男女が惹かれ合い心の変化に呼応して、ファッションにも科学反応が起きるのだろうか?

赤のファッションメッセージとは?

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

アメリカの国務長官として活躍するシャーロット・フィールド(シャーリーズ・セロン)は、女性初の大統領を目指す才色兼備なキャリアウーマン。
常に世間から注目され脚光を浴びるシャーロットのファッションは、ボディスタイル・肌色・髪色などをしっかり理解して自分らしさを表現しつつも言わずもがなTPOが完璧です。
ビジネスライクな夜のパーティーでは、露出は控えめで極端にシルエットが強調されないブラックのワンピースを着用してセミフォーマルというドレスコードを見事に網羅しています。
一方、各国の要人が集まるパーティーでは、女性らしい適度な露出のカクテルドレスを着用してフォーマル感満載ですが、ポイントはドレスのカラー。

自身が主役ではないパーティーでは、ブラックやグリーンなどのカラーですが、自身の存在感をしっかり発揮しなくてはいけない場では、アイデンティティである白い肌とブロンズヘアーと共鳴しているかのような真紅のドレスで登場します。

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

シャーロットにとっては、「赤」がパーソナルカラーのようで、パーティなどの夜の社交の場以外でも、はっきりとしたカラーのファッションを好むからこそメッセージを感じるのです。
現役大統領から後継指名を取り付けるMTGでは、真紅のドレスのような雰囲気を持つ、赤いワンピースを着用していたり、白いジャケットに赤いスカートを合わせていたりと、シャーロット=赤 というブランディングがしっかりできているのです。
また、大統領を目指す程の野心家であるシャーロットだからこそ、周囲も彼女が赤を用いる時は、なにかの合図だと感じて、彼女の野心に従い行動していたのではないでしょうか。
そういった場面場面で周囲にスイッチをいれるファッションをセレクトすることもTPOをわきまえたファッションと言えるのではないでしょうか?

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

頑固なスタイルを持つがゆえの無頓着

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

シャーロットは目前に控えた大統領選の選挙スピーチ原稿作りを、うだつが上がらないジャーナリストのフレッド・フラスキー(セス・ローゲン)に依頼します。
才能はあるものの頑固な性格のフレッドは、ファッションは無頓着と頑固の間を行き来しています。
90年代のようなマルチカラーのウィンドブレイカーにキャップとカーゴパンツが、フレッドの無頓着なファッションの象徴のように描かれますが、このスタイルは幼少期から変わっていなく、実は頑固たるファッションスタイルとなっているのです。

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

頑固たるスタイルは時に時代に合わず、変わらない変われないことが仇となり周囲に認められないものですが、フレッドを観ていて気づいたのは、実は頑固なスタイルを持つということは、ファッションに無頓着と表裏一体であると言うこと。
昔からファッションの世界では、「女はモード、男はスタイル」と追求するべきものを表現してきましたが、モード特有の時代感・空気感を捉える良さは、時に頑固たるスタイルを否定することになります。
シャーロットのように華やかでファッションをブランディングの手段として上手に活用できるモードな女性が身近にいることで、フレッドはまさにモードの対比としてファッションに無頓着な男に観えてしまっているのではないでしょうか?

惹かれ合うことでの変化

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

立場や価値観が違うシャーロットとフレッドですが、次第にお互いに惹かれ合うことで心に変化が生まれてきます。
「野心家」であったシャーロットは、頑固一徹なフレッドに惹かれることで、「信念の人」へと変化していきます。
心の変化とともに、パーソナルカラーである赤のファションも、これまでの野心家特有のギラギラしたイメージとしての赤から、強い信念を感じる赤へと印象が変わって見えるのも不思議でファッションにメンタルが及ぼす影響が強いことが感じられるのです。
一方、「頑固一徹」なフレッドは最後まで「頑固一徹」ですが、それまでの自分の信念に対して頑固一徹だったのが、愛する人の「信念」の為に「頑固一徹」に変化していきます。
愛する人を支えることに頑固一徹な男フレッドが行きついたスタイルは、女性を引き立てるようなファッションスタイルにように感じられるのです。
それはファッションに無頓着で頑固だったからこそ、新しく意固地になれる軸が見つかったことで、良い意味で変われたのではないでしょうか?

©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

二人の心の変化とともに着用する洋服は大きく変化したように見えませんが、着用する本人の心が変わることで、違う印象を受けるのもファッションの奥深さです。

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』

ブルーレイ&DVD発売中/デジタル配信中
ブルーレイ:¥4,800(本体)+税
DVD:¥3,800(本体)+税
発売・販売元:ポニーキャニオン
©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。 文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ