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Oct. 18, 2020

【シネコヤが薦める映画と本】〔第28回〕“腐る経済”と『もったいないキッチン』
〜生き方を考えるとき、辿り着く先〜

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に佇む「映画と本とパンの店・シネコヤ」。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。
今回は、”腐る経済”と”もったいない”から思い描く生き方について。

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30代も半ば…自分の年齢を考えて、ここのところ自分の生活について考えることが増えた。残りの人生(というには、まだ早い気がするけれども)、どういう生き方を選ぼうか…と、鈍行列車のごとく一つ一つの考えを辿っていくと、決まってある一つのところに終着する。

「自然」の循環の一部に、自分の生活を置くこと。

生き方の考えを巡らす終着駅は、いつもここに辿り着く。

この想いを強く感じるようになったのは、一冊の本に出会ったからだ。

衝撃的な「腐る経済」

「田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」」
著者は“タルマーリー”という田舎のパン屋を営む渡邉格(わたなべいたる)さん。パン屋が経済の本?しかも「腐る経済」と。お金は腐らない…というなんとなく呪文のようなフレーズだけは記憶していたため、「経済(お金)が腐る」話は興味深い、と匂いを嗅ぎつけて本を開いた。

著者の渡邉さんは、産地偽装や成分表示の“カラクリ”など、現代の食品ビジネスの中で心の中をモヤモヤとさせながら、サラリーマン生活を送ってきた。パン屋の経営を通して、“菌”との出会いから“金”への考え方を変革させていくこととなり…自身の経験から説いた「腐る経済」は近代の資本主義経済を暴いていく。今、渡邉さんのお店“タルマーリー”では「利潤」を出さない経営をすることで、誰からも搾取することのない“腐る経済”となって、正常なお金の循環を生み出している。

©UNITED PEOPLE

果たして“シネコヤ”というお店では、“腐る経済”を実現できるだろうか。
自分の生活の糧となる“シネコヤ”という売り物は、自然の循環に沿うものに成り得ているのだろうか…と自問自答する。

『もったいないキッチン』で見えた日本の美しい食文化

この本のみならず、こういった“腐る経済”と同じような営みを選択している人々がいることを、渡邉さんも登場するドキュメンタリー映画『もったいないキッチン』で知った。

©UNITED PEOPLE

映画は廃棄される食材の旅からスタートし、辿りついた先は日本で営まれる美しい食文化だった。旅の合言葉は“もったいない!”。そのひとつに渡邉さんのパン屋さん “タルマーリー”も出てくる…。

“もったいない”とは、元々は仏教思想に由来する言葉で、無駄をなくすということだけではなく、命あるものに対する畏敬の念が込められた日本独自の美しい言葉だ。ところがもったいない精神を大切にして来た日本の食品ロスは、実は世界トップクラス。その量毎年643万トンで、国民一人あたり毎日おにぎり1個分。一家庭当たり年間6万円のまだ食べられる食べ物が捨てられている。

©UNITED PEOPLE

食品廃棄物の実情を皮切りに、旅で見えてきたのは、日本各地で取り組まれているたくさんの美しい“もったいない”食文化。フレンチシェフがネギ坊主まで丸ごと使うもったいない料理、野山が“食材庫”という82歳で医者いらずのおばあちゃんが作る野草の天ぷら、0円エネルギー、自然の蒸気を使った蒸し料理など、もったいない精神に満ちたアイデアに出逢う。

日本人でありながら、こうした昔ながらの日本の食文化を知らずに、少し恥ずかしい思いが湧き上がった。映画に登場した数々の食文化は、食を越えて彼らの生き方そのものが“自然の循環の一部”であった。それこそ、私の求めていたものではないか。

©UNITED PEOPLE

「もったいない」=「大切にする」ということ

「もったいない」
実は、私はあまりこの言葉が好きではない。

「もったいないでしょ」
「もったいないから、◯◯しよう」
と、現状の日本語の中で使われる「もったいない」には“損をする”というようなネガティブなイメージを感じてしまう。ところが映画に出てきた「もったいない」取り組みたちは、私の知っている「もったいない」とは異なり、もっと優しいイメージの「大切にする」という意味合いに近いように感じた。

「もったいない」は、「大切にする」ということに等しいと思う。
「美味しいから、大切にする」
「素敵だから、大切にする」
「好きだから、大切にする」
ただ、それだけなのだ。そんな風に日本古来から「大切」にされてきた営みが、「もったいない」の真意であることを『もったいないキッチン』は教えてくれた。

©Macky Kawana

“腐る経済”にしても、
“もったいない”にしても、
それらは全て、自然のルールに基づいた循環の中にある。

「自然」の循環の一部に、自分の生活を置くこと。

やっぱり辿り着く先は、ここにある。

【おすすめの本】「田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」」

2013年|渡邉格|講談社

【おすすめの映画】「もったいないキッチン」

2020/日本/95分
■監督・脚本:ダーヴィド・グロス
■出演: ダーヴィド・グロス/塚本 ニキ/井出 留美 他
■プロデューサー:関根 健次
■制作:ユナイテッドピープル
■配給:ユナイテッドピープル
■配給協力・宣伝:クレストインターナショナル
■公式サイト http://www.mottainai-kitchen.net/
■シネコヤにて上映中〜10/15(日)まで

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
※当面の間、月・火・水曜日 休業〈祝日は営業〉
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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